第4話 デュアル生活

わたしが生まれた後も、兄はしばらく東京の病院と茨城の自宅で入退院を繰り返していた。当時はそんな言葉もなかったが、今思えばデュアル生活の先駆けだ。


誕生日、クリスマス、お正月、七五三、家族写真はどれも幸せに溢れた様子に変わりないのだけれど、兄が写っていたりいなかったりする。


兄が病院にいる間は、母と石塚に住む母方の祖母が交代で付き添った。3歳になったわたしは、ひとつ上の姉と二人で父方のダンプじいちゃん家に預けられるか、家族ぐるみで仲の良い友人宅にお世話になることもあった。石塚のおばあちゃんかダンプばあちゃんが、母の抜けた我が家に泊まりに来てくれることもあった。


父方の祖父母は、農家で大きなダンプを持っていた。四人いる従兄弟がみんなダンプじいちゃん、ダンプばあちゃんと呼ぶので、わたしも姉もそう呼んでいた。


ダンプじいちゃんは、父の頭をツルツルにした感じで「はー、よう来たねー。」と父と同じくいつも笑顔でマイペースな人。


ダンプばあちゃんは今でこそ歳をとって丸くなったけれど、元教師で当時は少し気難しい人だった。いつも温厚な石塚のおばあちゃんは母と一緒にいる時くらいの安心感があったけれど、どんなに優しくされてもダンプばあちゃんと一緒にいるのは少し落ち着かなかった。ダンプばあちゃんと母との確執がそう感じさせていたのかもしれない。


「今度はともちゃん家に泊まりたい!」近所でわたしが一番仲の良かった友人宅への宿泊は、大人の事情で叶わなかった。


いつでも第二、第三の母とも言える大人達に囲まれていたのは幸せなことだ。それでも、まだ幼かったわたしは、姉と大きな夕日に母の顔を浮かべた日もあった。ダンプばあちゃんが誤ってわたしの足に漬物石を落とすというまさかのハプニングも起こった。熱があるのに姉とはしゃぎすぎて第二の母から本気で怒られたあの日のことも、今では良い想い出。


どこでも寝れる、どこでも生きていけるわたしの特性は、この時期に形成されたのだと思う。

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