第十四章 父親たちが帰って来た!
第99話 一発殴らせろ
◇◇星夜side◇◇
姫彩とケーキを食べた日から数日、世間様はゴールデンウィークという大連休に入り、旅行に行ったり、遊びに行ったり、バイトしたり、家でごろごろしたり、あぁん? そもそも休みなんてねぇ! って人もいるかもしれない。
聞いたところによると、雄介は『俺の嫁が呼んでいる』とか言って聖地巡礼に、あの小滝辰巳は『今のままの僕じゃあ大狼さんに釣り合わない!』とか言って自分を見つめ直す修行に行くらしい。
そんな各々の連休が始まる初日、俺と月菜は家から一番近い空港に来ていた。
どうしてこんなところまで来たのかというと、遡ること数時間前、今日の早朝のことなんだけど、俺のスマホに一通のメールが送られてきたのが切っ掛けだ。
『急だが今日帰ることになった、空港に来てくれ。それと話がある‥‥‥覚悟しろ』
誰が帰ってくるかって? こんな挑戦状みたいなメールを送ってくるのは俺の知る限り小滝辰巳と一人しかいない。
決まってるだろう、父さんだ。
本当はゴールデンウィークの最終日に帰ってくるはずだったのに、予定が変わったらしい。
また唐突に‥‥‥しかも、その帰ってくる日の朝に連絡かよ! って思ったけど、それはもういつも通りのことなので諦めてる。
ただまぁ‥‥‥。
「‥‥‥覚悟しろってどういうことだってばよ」
「星夜?」
「いや、なんでもない。それよかもうすぐで出てくると思うよ」
隣にいる月菜に前の方を示すと、前方から続々とキャリーバッグを持った人がやって来る。
そしてその中に、他の人とは若干浮いているというか、浮かれているというか‥‥‥腕を絡め合って幸せオーラ全開の二人組が見えてきた。
周りの人は、明らかに二人のオーラにやられて距離を置かれてる感が半端ない。
うぇ~‥‥‥実の両親のあんな姿を見るのは言いようのないムズムズ感を感じる。
まぁ、『成田離婚』って言葉があるくらい、新婚さんたちの新婚旅行って大きな地雷がつきものらしく、それが爆発しなかったようで何よりだけど。
それにしてもだ。父さんからの”覚悟しろ”は意味わかんないけど、それはこっちのセリフだと思う。
思い返せばこの一か月近く、突然の再婚宣言からの義理の妹誕生で、何の説明もなしにまさかの二人暮らしから始まって、鬱陶しかったから無視してたけど、毎日‥‥‥毎日毎日毎日、向こうの様子の自慢メールや、月菜の様子をとにかく細かく報告を催促してくる電話や、と。
極め付きは先日のお見合いの件!
‥‥‥自分はホウレンソウができてないのに、俺にはしつこく強要してきよって。
なんだか、徐々に近づいてくる我が父のにやけ面を見てると、沸々とした不満が溜まってきたな‥‥‥覚悟しろって言ってきたくらいだ、俺も一発くらい殴ってもいいんじゃないか?
そんなことを思ってると、向こうもこっちに気が付いたようで月美さんの顔が”ぱぁっ”って華やぐような笑顔になる。
腰まで伸びた艶やかな黒髪に、凹凸のはっきりとした抜群のプロポーション、整った顔立ちに、隠すことのできない妖艶さ。
一か月ぶりに見たけど、やっぱり美人だなぁ‥‥‥。
「月菜! 星夜君!」
「お母さん!」
普段あまり表情が動かない月菜も、俺に見せるのとはまた違った満面の笑みを浮かべて月美さんに抱き着く。
モデルも裸足で逃げ出すような美人さんと、学校で”月姫”のあだ名で呼ばれ始めた名実ともに美少女の親子の再会は、感動的なくらい絵になるなぁ。
いつの間にか周りにいた人も立ち止まってるし、「え? なにか映画の撮影?」なんて声も聞こえてくる。
きっと、『月 美しい』とかで検索かけたら画像の方の一番上に今のシーンが出てくるに違いない。
対して、不肖の親子‥‥‥いや、不肖なのは父親だけだ!
そんな、宵谷親子はというとどちらとともなく冷たく睨み合っていた。
久しぶりに見る我が父は、さっきまで月美さんと腕を組んでいた時の満ち足りたような表情とは打って変わって、まるで射殺さんばかりの鋭い目つきを俺に向けてくる。
悲しいかな、やはり血がつながってるからか、俺にはその険しい瞳が何を語っているのかなど言葉にされなくとも手に取るように分かってしまう。
”ここでお前を刺し違えてでも潰して見せる”とか、”お前の墓場はここだ”とかそんなところだろう。
一体全体、なんでそんなビンビンの殺意を向けられないといけないのか‥‥‥認めたくないが、仮にも実の息子だというのに。
そんな殺意を向けられるような覚えは一切ない!
ということで、未だに湧き出る不満を怒りに変えて、向けられる殺意にぶつけ返す。
周囲の温度が下がって少しだけ、冷たくなったような気がした。
研ぎ澄まされる感覚の中、今にでも衝突しそうな一触即発空間が生まれる。
——合図は何もなかった。
たまたま重なり合った偶然か、はたまた親子である故の必然か。
俺たちは互いに向けて、何の合図もせずに全く同じタイミングで駆けだす。
大きく腕を振り上げて、たとえ親子だろうが‥‥‥いや、親子だからこそ遠慮なしに振り下ろす。
掌は全力の
それがぶつかり合う寸前、俺たち親子はあらん限りに叫び合った。
「たとえ実の息子だろうと絶対に娘はわたさあああぁぁぁぁーーんっ!!」
「意味わかんねぇけどとにかく一発殴らせろくそ親父いいいぃぃぃぃぃーーっ!!」
———————
本当にお久しぶりです!
かなり久しぶりの更新ですけど、またゆっくりと続けられるといいなと思ってます。モチベが続く限り‥‥‥
それと宣伝です!
また今年も吸血鬼モノでカクヨムコンに参加します! 新作です!
今回は二作品書いていて、一つは日常系居候ラブコメ。
「帰り道に倒れていた吸血鬼を助けたら懐かれました。」
https://kakuyomu.jp/works/16816700428194914635
もう一つは、異世界ファンタジーで
「孤高の天才が神々の代理戦争に参戦するそうです! ~育て上げた俺の級柄k付き軍団は最強~」
https://kakuyomu.jp/works/16816700429287156554
と、相変わらず吸血鬼が大好きな作者です。
異世界ファンタジーを書くのは久しぶりなので拙いかもしれませんが、よければ読んでみてください!
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