第91話 ——どはあっ!?



 五時限目の現代社会、六時限目はLHR——ロングホームルームで比較的らくちんな時間だと思ってたらまさかの小テストで‥‥‥やっぱり月曜日の時間割は鬼畜だと思う。


 そんな時を過ごして放課後になった。


 姫彩との待ち合わせの為に俺は、入学してそろそろ一か月たって何度も通ってすでに慣れてしまった学校から駅前までの道のりを歩いてる。


 あの後メッセージで姫彩に今日出かけることの了承をしたら、姫ちゃん先生の言う通り『うっひょ~~い!』って感じの、その場で飛び上がったのが分かるくらい喜ばれた。


 ちなみに月菜とみぞれはというと、もちろん普段から当たり前の様に放課後は一緒にいるし、姫彩からは二人きりでとかも言われてないから誘うつもりであったのだけど‥‥‥あ、ちゃんと姫彩の言動の裏には二人きりがいいっていうのは気が付いてるからね?


 流石にそれくらいは俺も分かる。


 けど、姫彩と二人きりってちょっと危ないような気がするんだよね‥‥‥この前は姫ちゃん先生がストッパーになってくれてたけど。


 だからわざと空気を読まないで二人を誘うつもりだったのだが‥‥‥しかし。


「まさか、二人とも先生たちからお呼ばれしてるとは」


 そう。声をかけたんだけど、月菜は担任の姫ちゃん先生から、みぞれは校長先生のおじさんから、それぞれお呼び出しされていたようで断られてしまった。


 二人とも本当は行きたかったようで悔しそうな顔をしてたけど。


 かといって、二人の用事が済むのを待とうにも、姫彩の学校‥‥‥確かお隣のもう一つの私立高校だったはず‥‥‥は、ウチの高校よりも早めに放課後になったらしく、『先に待ち合わせ場所で待っておりますわ! 楽しみです!』ってメッセージがさっき届いてたから、姫彩を待たせるのもよくないし。


 というわけで、俺は一人である。


「‥‥‥姫彩が暴走したら、どうやって止めよう」


 力じゃ全く持って敵わないからなぁ‥‥‥まぁ、それは月菜もみぞれも同じなんだけど、その二人と違って姫彩は暴走すると手加減を全然してくれない。


 それに、なんだかんだ中途半端に終わっちゃったお見合いのこともあって、ちょっとどういう感じに接していけばいいかまだよくわからないんだよね。許嫁のことは断るつもりだったから余計に。


「まぁ、なるようになれか。突撃されたら、みぞれも同じようにしてきたことがあるからその時みたいに受け流して‥‥‥‥‥‥流されすぎちゃだめかぁ」


 ふと、昼休みに姫ちゃん先生から言われたことを思い出した。


 あの人、なかなか侮れないレベルの観察眼を持ってる。


 それとも、俺が分かりやすいだけなのかな?


「——っ!?」


 そんなこと考えていたらそろそろ待ち合わせ場所である駅前の広場に近づいて、そこに踏み入れた途端、なぜかどこからともなく寒気を感じで背筋がゾワった。


 思わず立ち止まって、警戒しながら踏み入れた一歩を引っ込めようとした瞬間、俺の目の前を影が差しこむ。


「星夜さん~~っ♡ お待ちしてましたわぁぁーっ!!」


「——どあはっ!?」


 まさか、トラックが俺に突っ込んできた!? これはこのまま、いつも月菜が読んでるような異世界転生につながるのでは‥‥‥いや、待て‥‥‥ふわりと広がる花の香り? これは姫彩か!


 ぐっ! まさかいきなり姫彩の洗礼を受けるとは‥‥‥。


 しかし、焦ることなかれ! ここにまでの道中、頭の中で何度も受け流すイメージトレーニングをしたはずだ!


 右足を一歩引くと同時に、飛びついてきた姫彩の身体に腕を回して抱き留める。


 顔面にフニョンとした幸せな感触が‥‥‥あんまりしないな。強いて言えば、あばら骨の感触がする。


 このままだと首も背骨もボキッといきそうだけど、それを回避するために、引いた右足を軸に衝撃を右回転で流していく。


 徐々に身体にかかってた負荷が無くなった。


 よしうまくいった!


「——ふぇあっ!? 星夜さんっ!?」


 しかし、俺が姫彩の突撃を受け流すということは、飛んできた姫彩は衝撃が殺させずにそのまま吹っ飛んでいくわけで。


 浮遊感を感じてそれが分かったのか、姫彩が焦ったような声を出した。


 が、心配するな姫彩よ! ちゃんとそこらへんも想定内だから。


 姫彩の身体に回した腕にさらに力を込めて、お互いに吹き飛ばされないようにその場でくるくると回ってすべての衝撃を逃がしていく。


「うおおおおおぉぉぉーーーっ!」


 どれくらい回っただろう? もしかしたら、某黒足のコックさんみたいに摩擦熱で右足が燃えてるかもしれない。


 ローファーの底が熱い! って思い始めて、やっとこさその勢いが止まった。


「はっ‥‥‥はっ‥‥‥はっ‥‥‥もうほんと、危ないから突っ込まないで」


 息も絶え絶えになりながら、地面に降ろしてぽかんとしてる姫彩に伝える。


 こんなこと会うたびにやってたら、いつか本当に俺の足から炎が発火しそうだ。


 というか、なんだ? さっきまでザワザワしてたのに、今は妙に静かになって‥‥‥。


「せ、星夜さん」


「あ、うん? どうした?」


「わたくしのことを受け止めて‥‥‥すごいですわ!」


「え、ぇっ? なに、なんなの!?」


 なんか突然姫彩が感激し始めた‥‥‥というか、さっきまで姫彩と同じようにぽかんとこっちを見ていた人たちも『すげぇ~もん見た!』って感じに拍手始めたんですけど!


「いや~どうもどうも! これがわたくしの星夜さんなんです! どうですか皆さん、凄いでしょう!」


「確かに!」「お嬢の突撃を生身で受け止めてしまうとわ!」「いつもはコンタクトバッグを数人で持たないと止められないのに!」「すごい回転してたぞ!」「俺たちには一生できねえ!」


「ふふんっ! そうでしょうともそうでしょうとも! 星夜さんとわたくしの愛の力ですわ!」


「「「「「よっ! お似合い夫婦っ!!」」」」」


 あ、よく見ると何人か姫彩のお屋敷でみた百鬼組の厳つい人たちがいる。


 そして何故か得意げな姫彩。


 というか、お似合い夫婦って‥‥‥相変わらず姫彩も姫彩ながら、お付きの人たちもお付きの人たちだよ。


 あ~、それより、グルングルン回り過ぎて目が‥‥‥世界が揺れてるような感じがして気持ち悪い。


「さぁ! 星夜さん! 今日はわたくしと忘れられないデートにしましょう! ‥‥‥星夜さん?」


「‥‥‥無理‥‥‥歩けない‥‥‥ちょっときゅうけ、い‥‥‥あうっ」


 だんだんと立ってるのもままならなくなってきた俺は、そのまま姫彩に倒れこんでしまった。


「あっ、星夜さん!? 大丈夫ですの? ‥‥‥って、またやってしまいましたわ! お気を確かに! 星夜さぁぁんっ!!」


 う~、姫彩がなんか言ってるけど、今はちょっと休ませて‥‥‥。


 なんだか、待ち合わせだけで先行きが不安になる俺でした。



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