第十三章 姫彩とお出かけ

第89話 『爆弾処理』


 ◇◇星夜side◇◇



 ラブレター。


 文字通り愛を綴った手紙のことだけど、これが下駄箱やら机の中に入ってるなんてことは、もう半ば都市伝説化してると思う。


 なぜなら現代日本はインターネットやSNSの普及により、メール等で簡単に文字を贈れるようになったのだから。


 最近では年賀状もほとんどそれで済ませるようになったため、時代だなぁ‥‥‥って父さんが言ってた。


 そんな父さんは、嘘か本当か知らないけど学生時代は多くのラブレターをもらったそうな。


 だから俺は昔、ラブレターにまつわる注意事項を父さんから聞かされたことがある。


 曰く、浮かれてしまうのは分かるが、ラブレターを発見した時は慎重になれ! だそうだ。


 どういうことなのかと問いただしたところ、ラブレターはその手軽さや匿名で出せることから偽物の可能性が高いらしい。


『父さんはラブレターを貰ってな、男というものは単純なもので浮かれてしまったんだ。でも、当時はすでに同級生の女の子付き合ってたから、嬉しかったけどちゃんと断ろうと思って手紙に書かれれた場所に行ったんだよ。そしたら‥‥‥それは罠だった』


 どうも、そのラブレターは当時美人で学校のマドンナだった女の子と付き合ってた父さんに、他の男子連中が嫉妬し、報復するための爆弾だったそうな。


 ちなみに父さんと母さんは同級生ではないため、この女の子は母さんではない。


 確か父さんと母さんって、母さんの方が歳下で、父さんは歳より下に見られやすいから勘違いされやすいけど、割と年齢が離れてるんだよね。詳しい年齢は‥‥‥あれ? いくつだっけ?


 親の年齢なんて子供としてはあんまり気にしないか‥‥‥まぁ、とにかく父さんは学生時代も恋多き男だったらしい‥‥‥自称だけど。


 それで、話を戻すけど、ラブレターでおびき出されて、バカ面晒して報復されたらしい父さんは、真剣な表情で俺に。


『だから星夜、ラブレターを見つけたら爆弾処理をするような気持ちで挑め!』


 と、釘を刺してきたのだ。


 なるほど、確かに質の悪い陽キャどもがボッチ陰キャ野郎をからかってやろうとラブレターで呼び出して、そこに来たところをばっかじゃねーのって裏で笑うようなイジメとかもありそうだしな(偏見)。


 んで、どうしてこんな父さんの経験談を語られた時のことを思い出したのかというと‥‥‥あるのだ、目の前にラブレター爆弾が。


 お見合いとか許嫁か色々あった休日が開けて、月曜日。


 どこかピリピリと警戒した雰囲気を纏わせる月菜とみぞれといつも通り登校して、下駄箱を開けたところで俺はそれを見つけて固まってた。


「ふぅーーーーーー」


 息を長く吸ってから、一度下駄箱を閉める。


 一応、さっき話したことを聞かされた時に、爆弾処理のごとくもしもラブレターを見つけた時の対処法としてのマニュアルも父さんにレクチャーされてた。


 それの一つ目は、『もしかしたら願望が招いた見間違いかもしれない! 一度閉めて改めて確認するのだ!』ということらしいので、俺はそれに従って改めて下駄箱を開けた。


「‥‥‥あるな」


 見間違いじゃなかった‥‥‥俺の下駄箱の一段目に、しっかりとハートのシールで止められた薄いピンクでいかにもな手紙が置かれている。


 いつもなら、父さんの忠告なんか無視するのだけど‥‥‥それがそうもいかない。


 なぜなら、似ているのだ‥‥‥その、さっき話した父さんの学生時代の状況と今の俺の状況は。


 というのも、実は俺のクラスでの男子的立場があまりよくない。


 思えば、入学してから約一か月、雄介以外との男子とあまり話したことが無い。


 普通に話しかければ答えてくれるけど、向こうから話しかけてくることはあまりないし、話しかけた時もあまりいい顔をしてくれないのだ。


 理由も何となくわかってるんだけど、たぶん月菜の存在だと思う。


 いつからか”月姫”とか呼ばれて、クラス内外でだれもがお近づきになりたい美少女である月菜だけど、俺はそうやって下心丸出しでやってくる有象無象共を常日頃から斬っては捨て、掃いては燃やす作業をしているうちに、クラスの男子連中から疎まれるようになってしまったらしい。


 学校のマドンナだった女の子と付き合って恨まれた父さんと、学校のお姫様になりつつある月菜を守る騎士のごとし防波堤になって疎まれてる俺‥‥‥ほら、役は違えど似ているでしょう?


 だからもしかしたら、このラブレターは偽物で、俺を指定の場所に呼び出して報復するための罠の可能性が結構ある。


 本当になんてこっただよ‥‥‥この前、新左衛門さんに告げられた『お前は父の様になっていくのだ』という死の宣告の信ぴょう性が増してしまったではないか!


 こうなったらゴールデンウィークは本格的に母さんのシリアスカミングアウトの遺書でも探すか?


 まぁ、そうやって先のことを考えて現実逃避してもあるものはあるのだから、仕方ない。


 確か、父さんのラブレター爆弾処理マニュアルフェーズ②は——。


『それが幻影でなかったら、次は回収作業だ! ここで大事なのは、なるべく目撃されないこと。見られた人物によってはその場で爆発させられるかもしれない、秘密回収が得策だな。特に、その時に彼女がいたりしたら絶対にバレてはいけない! いいか? 絶対だぞ!』


 父さんは、確かラブレターの存在を当時付き合ってた女の子にバレて、男子連中に報復された後にその人からも睨まれるようになったんだったけな‥‥‥ふぃ~、怖い怖い。


 しかし、今の俺には彼女なんて‥‥‥まぁ、許嫁? がいたんだけど、この場にはいないから、そこまでこそこそしなくても安心して回収ができ——。


「星夜~? 何してるの? 教室行こ~!」


 俺が、ラブレター爆弾とご対面して固まってる間、いつの間にか教室に続く階段に向かってたみぞれに振り向かれて、思わず上履きを取るついでにさりげなくラブレターも取り出そうとした手が止まってしまう。


「‥‥‥あ~、今行く!」


「うん? 早くおいで」


 みぞれの隣で、俺がついてきてないことに気が付いた月菜も不思議そうにこっちを見てくる。


 ‥‥‥さて、どうしたものか。


 別に、月菜ともみぞれとも俺は付き合ってない。


 まぁ、みぞれとは‥‥‥その、先日に確約? みたいなことにはなってるけど、実際はまだ今まで通りの幼馴染のまま。


 なのにどうして固まってしまったのか、やましいことなどないのに冷や汗が止まらん。


「どうしたの? 何か忘れものでもした?」


 こうなれば当然、みぞれは俺の不可思議な行動に気が付かないわけがないわけで、俺の動きに注意を向けられる。


 ヤバいな‥‥‥このままラブレターを引き出せばガッツリ見られる。


 普段ならみぞれにならそれでも「おぉ~! さすが星夜! モテモテだねぇ~! で、誰から誰から?」ってからかってくるだけだろうけど、俺の第六感的なものが、今はまずいと告げている。


 かといって、上履きと一緒にとか、制服の袖に隠して手品のように取り出そうにも、みぞれの動体視力を誤魔化せるとは思えない。


 あぁ~‥‥‥詰んだ。



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