第68話 僕も参加しちゃだめかな?
「それで、なんで私たちを呼び出したの?」
場所は階段の踊り場、今は昼休みでそこにあたしは二人に来るようにそっと伝えた。
「ん~、星夜とあたしの誕生日の日にちょっとやってもらいたいことがあって。まぁ、それは雄介が来たら話すとして、月菜は星夜がなんか元気ない理由知らない?」
まだ雄介が来てないため、待ってる間に日曜日も一緒に過ごしてた月菜に何か知らないか聞いてみる。
ちなみに、あたしは日曜日も宵谷家には行ってない。
本当は行きたかったけど、その日は作りたいものがあったから行けなかった。
「私もどうしたのか聞いたけど、何でもないって。ていうか、みぞれのせいじゃないかと私は思ってるんだけど」
「え、あたし?」
「そう、星夜があんな感じになったのは土曜日にみぞれと帰ってきてからだった。その前から私とあられとしぐれがちょっと無視しちゃったのもあって、少し落ち込んでる様子だったけど」
そう言えば、あたしの妹のあられとしぐれが月菜に結構懐いたんだよね。
意外だったなぁ。
だって、星夜の家に行く前のあられとしぐれは、「あたしたち以外の妹なんて認めない!」「星夜にぃには反省が必要!」「「敵は宵谷家にあり~~!!」」みたいな感じに出陣していったから。
それが帰ってくれば、「月菜ねーちゃんは強敵だった! でもいい匂いがした!」「月菜ねぇ師匠なら星夜にぃの妹でもいい」って言って、その日はずっと月菜のことを話してたから。
一応、あの子らもウェアウルフだから吸血鬼である月菜とは種族的に相性が悪いはずで、それが心配だったけど、仲良くなれたみたいでよかった。
んで、星夜はその日にあたしと帰ってきてから様子が変だったと。
確かに、帰ってる間は言葉少なでどこか覇気がないようだったけど、それは久しぶりに会うやんちゃ狼なあられとしぐれにもまれて疲れてたからだと思ってた。
でも、あたしが何かしたっていう心当たりは無いけれど‥‥‥。
「‥‥‥もしかして、冷蔵庫にあったプリンを黙って食べちゃったこと、とか?」
「あなた‥‥‥はぁ。それは後で星夜に言っとく」
「え、違うの!? じゃあ、言わないで! 秘密にして! バレたら怒られる!」
「自業自得でしょ。それより、みぞれでもないなら何が理由なんだろう? 日曜日にはもうどこか取り繕ってる感じがしたけど‥‥‥」
「ねぇ! 言わないで! いーわーなーいーでー!」
「あ~もう! みぞれうるさい! 秘密にしておいてあげるから、今度プリン奢ってね!」
「ほんとに? ほんとにお願いね!」
念を押して言えば、はいはいって感じに月菜は了承してくれた。
よかった、今星夜に言われたら呆れられるかもしれない。
確かに玉砕覚悟の当たって砕けろの精神で突っ込むけど、何も好き好んで振られたいわけでもないもの。
それにしても、月菜も今の星夜が取り繕ってるのちゃんとわかってるのは流石だなぁ、星夜鑑定レベルが上がってきてるのをひしひしと感じる。
‥‥‥やっぱり、負けてられない。
このままじゃ、いずれ追い抜かされちゃう。だから何としてでも、『サプライズ作戦』を成功させないと。
そう意気込んでると、やっと雄介がやってきたのが見えた。
「雄介、遅い!」
「悪い悪い、購買行ってたんだよ。それで、なんで呼び出したんだ?」
ということで、あたしはさっき考えたサプライズ作戦を二人に意気揚々と話す。
「——それで、二人には当日の飾りつけをしてほしい」
「なるほど。まぁ、確かに今日のあいつはどことなく落ち込んでる風だったな。授業もボーっとしてたみたいだし」
星夜の隣の席の雄介も星夜の様子がおかしいのに気が付いてたんだろう。
そして、少しの迷いもなく了承してくれた。
「いいよ、星夜には何度か世話になってるからな。当日はパーッとやろうや!」
「さすが雄介! ちなみに、あたしも誕生日なんだから、そこのところ忘れないでよ?」
「おいおい、大狼さんよ。俺にたかっても何も出ないぞ? たかるのは星夜だけにしなさい。まぁ、お菓子でも用意してやんよ」
「うぇ~い! 任せた!」
雄介は当日おっけいで、後は本命の月菜だね。
正直、雄介だけ了承してくれても月菜が釣れてくれないとこの作戦の意味が半分果たせない。
すると、月菜はピッと手をあげた。
「はい、月菜さん」
「私もサプライズで星夜を元気づけようって言うのは賛成。でも、一つ疑問がある。星夜を引き付ける役目は別にみぞれじゃなくてもいいはず」
ふむ、星夜大好き月菜ちゃんだからなるべく星夜の近くにいようとするのは想定の範囲内、学校では体育の着替えとかで別れるとき以外だいたい一緒にいるし。
「なーに? 月菜は準主役であるあたしにも準備しろというのかね?」
「あくまで目的は星夜に楽しんでもらうことなんでしょ? だったらみぞれはついでよついで」
「あ~、二人とも? 俺、星夜じゃないから二人の諍いは止められないからね?」
本当に、私の誕生日なんか心底どうでもよさそうな顔で言う月菜。
この傲慢吸血鬼‥‥‥いちいち言い方が頭にくる! 雄介がなんか言ってるけどほっとけ!
が、落ち着けみぞれ! あたしにはとっておきの切る札がある! 星夜から月菜が宵谷家に来た時のことを聞いておいてよかった。
「ごほんっ、月菜は忘れちゃったの?」
「うん? なにを?」
「月菜が来た時、星夜は歓迎パーティーを開いてくれたんでしょう? それのお返しとしてはこの企画はちょうどいいと思うけど」
「確かに、ピッタリではあるけど‥‥‥」
「それに、あのシスコンの星夜が月菜が準備してくれたパーティーって知ったらかなり喜んでもらえると思うけどなー」
「う~ん‥‥‥えへっ」
あ、今ちょっと絶対都合のいいコト妄想した。
たぶん月菜の頭の中では『え、これ月菜が作ったのか!? やば、すげぇ嬉しい! 今日は一緒に寝るか!』とかなってるのかもしれない。
「‥‥‥ごほんっ! 分かった、引き受ける」
「任せた! (ふふんっ、ちょろいわ!)」
月菜が了承してくれたことで話はまとまったし、後は当日に向けて何を準備するかだけど。
まぁ、そういうのは明日か明後日辺りに駅の方にあるドンキかヴィレヴァンに行って、パーティーグッズでも買ってくればいいし、もうここで話しておくことは無いかな。
お弁当を食べる時間が無くなっちゃうしね。
「よしっ! それじゃあ、星夜を元気づけようサプライズ作戦をやってくぞー!」
「「おぉー!」」
そんな感じで、教室に戻ろうとした時だった。
「やぁ、その作戦、僕も参加しちゃだめかな?」
廊下の壁から、顔を出したのは最近ちょっと色々あった辰巳君だった。
突然の登場に一瞬顔を見合わせるあたしたち。
辰巳君は、そんなあたしたちに「ごめんね」と言ってから、近づいてくる。
「盗み聞きしてたわけじゃないんだけど、大狼さんの声が聞こえたから気になって」
後ろから「あの人だれ?」「月菜さん知らないの? 隣のクラスの小滝辰巳だよ」「あ~、この前の」って会話が聞こえてくるため、名指しもされたしあたしが前に出ることにした。
「別に隠れてたわけでもないから大丈夫だよ。それで、参加したいって?」
「ならよかった。その、大狼さんも誕生日なんだよね? それなら僕も一緒にお祝いしたいなって、だめかな?」
後ろ髪をかきながら、遠慮がちに聞いてくる辰巳君。
まぁ、最近のことを踏まえればそういうことだよね‥‥‥土曜日は結構きついこと言ったと思うんだけど、辰巳君もなかなかタフだなぁ。
あたしは、ちょっと困った顔をしながらなんて言うか悩んでると。
「その、それ以外にも大狼さんが言う宵谷君がどんな人かも気になって‥‥‥自分でも、未練がましいとは思ってるし、僕ができることなんてたかがしれてるけど、お願いできないかな?」
そう言って、さらに頭を下げてくる辰巳君。
その姿はどこか哀愁漂う雰囲気だ。辰巳君をこうしてしまったの、あたしなんだよなぁ。
いや‥‥‥う~ん、どうしたらいいかなぁ‥‥‥。
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