第十章 みぞれの準備期間

第67話 『サプライズ作戦』



 ◇◇みぞれside◇◇



 う~ん‥‥‥星夜の様子がいつにもまして変である。


 辰巳くんと出かけた土曜日から一日挟んで月曜日の学校、あたしは授業を受けながら今朝の星夜の様子を思い返してた。


 今朝、いつものように星夜の家に「おはよー!」ってしに行って、いつものようにくっついて歩こうとしたんだけど、「これみぞれ、よくないだろ」ってたしなめられた。


 だからあたしは、「な~にぃ? 意識しちゃってもぉ~!」ってもう一回くっつこうとして、星夜は何も言わずにあたしのことを回避した。


 もしかしてあたし、星夜になにか怒られるようなことをしたのかな? そう思って表情を伺ったんだけど、その時の星夜の表情からは特に怒ってるような雰囲気は感じ取れなくて‥‥‥たぶん見えたのは困惑と寂しさ、だと思う。


 見えたのはほんの一瞬で、すぐにもとの雰囲気に隠されちゃったから確証はないけど‥‥‥でも、あたしの幼馴染センサーは間違ってないと思う。


 それに、なんか無理してあたしに気を使って取り繕ってるような気もするし。


「星夜君、ここのところを読んでください‥‥‥‥‥‥星夜君?」


「はい? ——あっ‥‥‥すみません、聞いてなかったです。どこですか?」


「もう、ボーっとしてちゃダメだよ? 四段落目」


 いやいや、本当にどうしたんだろう? 


 確かに、先週の星夜もあたしになんかドギマギしてるようで、それに何か悩んでるみたいでおかしかったけど、今週の星夜はもっとおかしい‥‥‥情緒不安定?


 あ! あれかな? 「俺は今週で十六歳になっちまうんだ‥‥‥歳取ったなぁ」みたいな感じに黄昏てるとか?


 遂に十六歳、結婚できちゃうんだなくらいで、あたしはそんなに実感は感じないんだけどなぁ。


 いや、違うか、今年の誕生日は実感を感じられるようにしないといけない。


 今年の誕生日、あたしは一つ思い切ったことをしようと決めてる。


 ぶっちゃけてしまえば、星夜にしっかりと告白をするつもり。


 焼肉屋に行った日のお母さんの言葉に推されて実行しようと思った。


 いつものように流されないような、逃げられないシチュエーションを用意して、軽い気持ちじゃなくてしっかりとあたしの意思が伝えられる告白を。


 正直、たとえ伝わったとしても返事はかなり厳しいと思ってる。


 いつも好きと言っても軽く流されてしまうのは、それは幼馴染の延長だと思われてるからなわけで、とどのつまりあたしは星夜に恋愛対象として見てもらえてないということだ。


 でも、それでもいい。とにかく玉砕覚悟で挑んで、あたしの想いがどれくらい本気であるのかが伝われば、たとえ振られたとしても今の足踏みしてる状況よりは前に進めるはず。


 後は月菜と同じ土俵に立ちたいっていうのもあるけどね。


 もちろんあたしも、一回や二回振られたくらいで星夜を諦めるつもり何てさらさらない! あたしは星夜の生涯の伴侶になるって決めてるんだから、受け入れてくれるまで絶対に折れない。


 そして、そうやって月菜とちゃんと星夜を取り合いたい。


 まぁ、でもその為には当日の月菜が邪魔なんだけど‥‥‥。


 今年の誕生日は、今日を入れて五日後の金曜日なのだ。つまり、普通に平日で学校がある。


 一応、星夜に今年は時間が欲しいって言って、二人きりになれるようにはしておいたけれど、告白をしようと思ってることは月菜を知らないわけで、あたしたち二人がどこかに消えたら探してついてくる可能性がある。


 それにあたしがマジな告白をしようとしてることがバレたら、邪魔してくるかもしれない。


 いや、まぁ、ちゃんと話し合いでもして、この前の月菜と星夜が喧嘩した時のことを引き合いに出せば納得してくれるとは思うけど、好きな男が告白されるって知って良い気はしないだろうし。実際あたしはちょっと嫌だったもん。


 だから、できることなら万全を期しておきたいんだよねぇ。


 ふむ、いかにして月菜を一人で帰らせ、かつあたしが告白しようとしてることを悟らせないような、そんな自然な理由があれば‥‥‥。


 あたしはチラッと星夜を見る。


 やっぱ元気無さそうだな‥‥‥あ、ため息ついた。


 今の様子のまま当日を迎えたら、誕生日パーティーとかしてもお通夜みたいになって全然盛り上がらないよ。


 ——ピコンッ!(みぞれの頭の上にひらめきマークが現れた音)


「ん? 誕生日パーティー? ——これだ!」


 天才的なあたしの頭脳は、完璧なる作戦を導き出した!


 上手くいけば月菜はむしろ一人で帰ろうとするし、そしてもしかしたら星夜も元気になってくれるかもしれない、そんな作戦。


 そうね、名付けて『サプライズ作戦』!


 当日、月菜には先に帰ってもらってリビングの飾りつけをしてもらう。「元気がない星夜をサプライズで驚かせて元気になってもらおう!」そう言えば、月菜は嬉々として乗ってくれるはず。


 そして「月菜が飾りつけをしてる間、あたしがなんとか星夜を引き留めるから!」って言えば、あたしと星夜が二人きりになる理由ができる。


 でも、露骨に月菜だけにそう言うと怪しまれるかな? そーだなー、なら雄介も呼ぼう! それなら、たぶん怪しまれないし。


 よしっ! じゃあ、昼休みにあの二人を呼び出そう!



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