第69話 『恋愛観』
「あ~、ん~‥‥‥ここはこうして、こっちにこれを持ってきて‥‥‥」
夜。学校から帰ってきたあたしは、星夜ん家に居座るのもほどほどに、早めに自分の家に戻ってきて、今は一人黙々と机と向かい合って、あるものを作ってる。
あるものとは、お察しの通り星夜への誕プレ。
今年は手作りプレゼント路線で行こうと思ってるのだ。
‥‥‥いや、まぁ、ぶっちゃけると星夜に何をあげたらいいかわからないんだよね。
ほら、星夜ってさ、部屋を見た通りハマってる趣味とかもないし、欲しいもの聞いても「なんでもいいよ?」って言うような人だからさ。
何でもいいよじゃ、わかんないっちゅーの!
それで、半ば脅すように毎年、欲しいものを捻りださせてたんだけど‥‥‥去年はそれで、砥石って言われたから日本刀の砥石をお取り寄せしたっけ。
誕生日プレゼントとしてどうなのよ、砥石って。
まぁ、あたしも星夜に頼む誕プレは毎回抽象的だったりしてプレゼントにしてはどうかと思ってるけどさ、あれは星夜がいけないんだよ。
あたしが頼む無理難題をどうにかして用意してくれるのが面白くて、レゴのお城だったりドミノアートだったりウエディングケーキだったり。
そんなんもう、今年はこんなこと言ったらどんなものをくれるんだろう? って楽しくなっちゃうじゃん?
それで悪ふざけが過ぎちゃうというか。
だけど、どんなものでも星夜が頑張って作ってくれたって思うと、すごく嬉しい気持ちになるから。
今年はその気持ちをお返ししたいと思ったから、こうして不慣れな作業に勤しんでる。
お料理とかは得意なんだけど、それは必要だから覚えただけで、本来あたしは細かな作業はあんまり得意ではないのだ。
日曜日を丸々一日使って一つできたくらいだから、たぶん今作ってるやつは当日にぎりぎり間に合うかどうかだろう。
「う~~~~んっ! ふー、これで四分の一くらいできたかな‥‥‥ん?」
イスの上でグイ~って伸びをして、固まった体をほぐしてると机の上に置いていたスマホが震える。
誰からだろう、と画面を開いてみると。
『大狼さん、パーティーのこと今日はありがとう。当日はプレゼント持ってくよ、何が欲しい?』
「あ~、辰巳君か‥‥‥嬉しくはあるんだけどなぁ」
メッセージにある通り、あの後、月菜と雄介と少し相談して、意外なことに二人とも別にいいんじゃない? って感じで、結局辰巳君も『サプライズ作戦』に参加することになった。
何というか、告白を断ってる手前あたしも彼には強く出られないし、それに土曜日のことで感謝してることもあるから、なおさら断りずらかったのもあって。
「がぁ~~! 思い返したら、恥ずかしくなってきた! とんだ恥辱プレイだよ、理想の相手を語らせるなんて!」
まぁ、おかげで今までふわってしていた気持ちが引き締まった気がして、覚悟が決まったってのもあるんだけどさー。
集中力が途切れてしまったあたしは、辰巳君に適当な返信をしてスマホを投げ出した後、倒れるようにベッドに沈み込む。
「はぁ‥‥‥あたしって、自分が思ってる以上に星夜のこと大好きすぎて、びっくりだよ」
なんとなく目を瞑れば、瞼の裏に土曜日の出来事が蘇ってくる。
あの日、あたしは改めて自分の気持ちに気づかされたんだ。
■■
少し時間を巻き戻して。
金曜の夜、焼肉屋さんから帰ってきてお風呂に入って、あとは寝るだけになった後、ボーっとベッドの上でお母さんに言われたことを考えてた。
ムードが大事。そんなこと、正直に言えば分かってる。
今まで星夜にあたしの想いはしっかりと伝わらないのは、あたしが真剣に伝えてないからで‥‥‥厳密に言えば伝えようともしてなかったのかもしれない。
理由はいろいろある。
まずは、星夜が好きってこと。
は? それは真剣に伝えない理由にならなくない? って思うかもしれないけど、そういうことじゃない。
確かに、あたしは間違いようもなく星夜が好きなのは確信してる、生涯の伴侶になりたいとも本気で思ってる。
ただ、それが恋愛感情から来てるものなのかが時折分からなくなる時がある。
あはは‥‥‥星夜のこと、言えないよね。
月菜にも、背中を押すために強いことを言ったけど、本当はあたしにはあんなこと言う資格はないんだ。
あたしは、星夜のことが好きだけど、それはやっぱり幼馴染としての延長線なんじゃないだろうか、生涯の伴侶になりたいっていうのも一番近い感情で言うと家族愛みたいなものなんじゃないだろうかって思うと、どんどんどんどん自分の気持ちに自信が無くなってきて。
それで、真剣になれずにいた。
後は、恋愛観の違いもある。
あたしは半分人間だけど、半分オオカミだ。
横に並んでる時にくっつきたくなったり、嬉しくなって叫びたくなったり、たくさん撫でてほしくなったり、あたしのそういう所は全部オオカミの習性が影響してる。
当然、恋愛観もオオカミ寄りで、人間と比べたら重たいことこの上ないと思う。
オオカミは基本的に特定の異性としかパートナーにならなくて、一度
そして、もしもパートナーが死んでしまったとしても、残された方は新しいパートナーを探したりしないで、むしろ心中するように追って死んでしまうこともある。
あたしの恋愛観は、その習性をモロに受けてる。
前半は良い、一生一緒にいられるのは素敵なことだと思うもん。
けど、後半はそうでもないだろう。
もしもあたしと星夜が恋人になって、考えたくないけど先に星夜が死んでしまえば、あたしは何のためらいもなく同じ道に進むと思う。
たとえその時、子供がいたとしても置いていくことに後先のことを何も考えず。
そしてあたしは逆の立場になった場合、それを星夜にも求めてしまう。
重くて、猟奇的で、ヤンデレも真っ青のこの恋愛観を受け入れてくれる男性何てそうそういないだろう。
だけど、仮にもし星夜が受け入れてくれたとしても、あたしは星夜を縛り付けることに、後ろめたさを覚えてしまう。
‥‥‥うん、めんどくさい。
あたしってちょーめんどくさい女だわ。
でも、生まれ持った習性はなかなか変えられない。
そして最後に、拒絶されること。
真剣に告白して、真剣に受け止めてもらって、そして真剣に拒絶されてしまったら‥‥‥あたしは本気でこれからどうしたらいいのかが分からなくなると思う。
まぁ? 99%そんなことは無いと思うけど、ただその1%が恐ろしいんだよね。
きっと、振られたとしてもあたしと星夜は、表面上は今のままの感じは変わらないと思う、ただやっぱり心の奥深くにはしこりみたいのが残るだろうし。
そういうのがなんとなく想像つくから、だったら今のこの『最強の幼馴染』な関係で、ぬるま湯のような日常に浸っていたかったんだと思う。
あ~‥‥‥これじゃあ、ほんとに月菜のことを強く言えないよ。
こうした理由がぐちゃぐちゃに絡まって、あたしはどうしても星夜に真剣に想いを伝えることができていなかった。
だけどそれも、追い立てられるように月菜の存在が許してくれなくなった。
あの子はすごいよ。あたしにオオカミとしての性質があるように、月菜にも吸血鬼としての欲とか、そういうのがあると思う。
実際それで悩んで躓いていたようだし。
それでも、あたしの安っぽい言葉でちゃんと前を向いて、自分に折り合いをつけて、しっかりと踏み出した。
なら、次はあたしの番だろう。
そうしないと、月菜にも顔向けできないし星夜の横に並べなくなっちゃう。
「でもな~、いざ言うってなると直前でまたヘタって茶化しそう‥‥‥」
もう、何年もそんな感じだから、これは体に染みついてしまった癖みたいなもので。
「できれば、事前の心構えとかそういうのを教えてもらえたら」
と、その時、スマホが通知してメッセージを受信したのを知らせてきた。
「あぁ~…‥‥ん~、まぁいっか。ちょうど聞きたいこともあるし」
メッセージを送ってきたのは、今朝堂々と告白してきた辰巳君で、もう一度話を聞いて欲しいという内容のものだった。
それにあたしは了解の有無を知らせて、集合場所と時間を決めたあと、目を閉じて眠りについた。
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