第62話 ご褒美を所望する



 俺の尿意を無視して、玉座に座る魔王がごとく俺の膝の上を陣取るしぐれと、挑戦者あられの戦いの火ぶたが切って落とされた。


「星夜にーちゃんの膝の上! あたしがもらい受ける!」


「そう簡単に譲り渡たさない!」


 二人が選んだのは、どちらもスピード重視のキャラクター。高速で移動し回避とバリアをうまく使って隙をつき、決め手となる一撃必殺を与えていくスタイル。


 目まぐるしく入れ変わる攻防は、それはもう目を見張るものがあって‥‥‥というか、さっきの戦いと全然違うじゃん! しぐれは俺にめっちゃ手加減してたんだな‥‥‥え、というかこの中で一番弱いの俺だったの? 


 月菜にはいつも勝てないけど、この二人よりはうまいと思ってたのに‥‥‥「そこそこ腕は上がったと思うぞ(キリッ★)」とか、ちょっとドヤ顔で言ってたのが恥ずかしいんだけど。


「ぐぬぬ‥‥‥しぶとい!」


「もうっ! しぐれちゃん、掴み技ばっかりしてきて!」


 ゲームのプレイにも性格って出るよな~。あられはとりあえず突っ込んで荒らしてくような戦い方だけど、しぐれは手堅くじわじわと追い込んでく感じの戦い方。


 戦況は若干しぐれが有利だけど、誤差の範囲だしまだまだ勝敗は分からない。


 すごいな~、月菜と勝負すれば二人ともいい線行けるんじゃないかな? というか、月菜はいつ起きてくるんだろうか、もうそろそろお昼だけれど。


「よしっ! これで‥‥‥きまっ——」


「甘い! カウンター!」


「あぁぁあぁあぁーーー!!」


 と、そんなこと考えてたら、どうやら勝負がついたらしい。


 最後を見た感じだと、あられはしぐれをいつでも吹っ飛ばせるダメージ量にして、最後の一撃が入ろうかという所で油断したのか、しぐれが一度も使ってこなかったカウンターを使ってまんまと嵌められたって感じ。


 テスト期間とかもそうだけど、最後の日ってついつい気が抜けちゃうからなぁ‥‥‥あられはそういうの顕著そうだ、勉強ができるポンコツだし。


 コントローラーを落として、四つん這いで悲しむあられ、かなりオーバーなリアクションだな。対して、勝者しぐれは得意げな顔で振り向いてきた。


「勝利! ブイっ!」


「おー、おめでとさん」


「ということで、ご褒美を所望する」


「うん? まぁ、いいけど」


「やった! じゃあ、ギュってして!」


 よかった、なんかこういかがわしく行き過ぎたことだったらどうしようかと思ったけど、なかなか可愛らしい要望で。ハグくらいなら小さいころから結構してたからね。


 ということで、しぐれの華奢なからだに腕を回して後ろからギュッと抱きしめる。


「んぅ~~、くぅ~~ん♪」


「これでいいか? それじゃあ、俺はちょっとトイレに——」


 行ってくる、そう言ってしぐれをどかして立ち上がろうとしたとき。


「——もう一回勝負!」


 沈んだ姿から立ち上がったあられの大声で俺の声はかき消された。


「ふふん! いーよ、次もシグが勝って星夜にぃにすごいお願い聞いてもらうもん」


 ギュッと回した腕はそのまま、しぐれはコントールを持って、受けて立つ構えを見せる。


 すごいお願いって何よ‥‥‥というか、俺はトイレにいつ行けるの? もう尿意70%だよ? まだ我慢できないことは無いけど、常にお腹に力入れてないといけないんだけど。


 が、そんな俺のささやかな願いは叶うことなく、二人の戦いは再び幕を開けた。


「今度こそ!」


「何度やっても同じだよ」


 選択キャラクターは二人とも同じ、やっぱり一つのキャラを極めたほうがいいのかなぁ? 俺なんか、基本使ってるキャラはいるけど、だいたい連戦するときキャラ変えるから月菜によく「浮気者!」って言われるんだよね。


 画面上では、入れ替わり立ち代わり激しい攻防を繰り返す。


「よしよし、星夜にーちゃん! 応援よろしく! そしたら頑張れる!」


 ん、そうだな。ここでまたしぐれが勝ったら、またしてもトイレに行けせてもらえないかもしれないし。


「お~! フレ~フレ~あ・ら・れ! ガンバレガンバレあられ! ファイトだファイトだあら——ぐふぉっ!?」


「星夜にぃ、贔屓は良くない」


「うぉぉぉぉおおお! やるぞぉぉおお!」


 ば、バカ野郎‥‥‥今、本気で一瞬ヤバかったぞ!


 何が起きたかというと、あられにエールを送った瞬間、俺の膝の上に乗ってるしぐれが、どんっ! って感じに大きく跳ねたのだ。


 通常時ならまだしも、今の俺はおしっこを我慢してるわけで‥‥‥そらもうダメージが赤色な状態でスマッシュ攻撃をくらうようなものよ。


「あ、あっ! もう、星夜にぃが応援したからアラが調子づいてきたじゃん! シグにも応援して!」


「わ、分かった‥‥‥ガンバレしぐれ、だからぐりぐりやめって‥‥‥」


 ほんとに漏れるぞぉ! いいか? いいのか? ここで漏らしたら、真っ先に被害にあうのはしぐれだからな? ん?


 ‥‥‥まぁ、俺の名誉と尊厳の為に我慢するけどさ——うぅっ! 腹に力をぉっ!


 さて、俺が尿意と戦ってる間、あられとしぐれの戦いはというと。


「ふー‥‥‥ふー‥‥‥次こそは」


「なっ、アラの動きがどんどん研ぎ澄まされて——んっ、星夜にぃあんまりもじもじしないで‥‥‥」


「こうして! こうして! 最後にこうっ!」


「あっ、あっ! やばい! 届けっ! ——あぁ‥‥‥」


「やったぁぁーー! 勝ったぁぁーー!」


 お、どうやらあられが勝利したらしい。


 ダメージ戦績を見る限り、俺が襲い来る尿意と一進一退の勝負を繰り広げてる傍ら、一回戦目と同じでこちらも一進一退のかなりいい勝負をしたみたいだ。


 よし、そしたらとりあえず、俺もこの尿意に勝利を収めてきて——


「星夜にーちゃん! ご褒美ください!」


 ——の前にこっちか。


 こんなキラキラした目で見られたら、ちょっと待ってとか言えない。


 まぁ、今は波も来てないしまだ余裕があるから大丈夫だろう。


 ‥‥‥たぶん。





—————

また中途半端なところで切ってしまってすみません。

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