第48話 マジか、新発見だ
ふと、疑問に思ったことを言うと、睨んできた目を途端にキョロキョロさせて。
「その‥‥‥星夜は、怖くないの? 狼なあたし知って」
「いや? だって全然犬っぽいし」
「そうじゃなくて! 犬じゃないけど! ‥‥‥でも、たとえ犬だったとしても、あたしは普通の人間じゃないわけじゃん? 牙も爪も長いし‥‥‥」
そう言えば、月菜もそんなこと言ってたっけ? 二人そろってそういうってことは、もしかして俺って感性が間違ってるのかな? 普通なら恐怖を感じるのだろうか?
改めてみぞれの狼耳としっぽを、月菜を見てみるけど、やっぱり恐怖なんて感じないな‥‥‥父さんも月美さんを怖がってなんかなかったし、宵谷家って特殊だったり?
じっと見つめて、何も言わない俺を不安に思ったのか、みぞれがあごを乗せていた俺の手に自分の手のひらを重ねてくる。
「あぁ、もう、そんな捨てられそうな子犬みたいな目をするなよ。今更、何があったって俺とお前はずっと幼馴染なのは——」
——変わらない。そう言おうとして、何故か喉に魚の小骨が突っかかったような感じがして、言葉が詰まった。
なんだ? なんで俺は今、言い淀んで‥‥‥。
「星夜‥‥‥?」
「‥‥‥あ、いや、とにかく、俺は別にみぞれが犬だろうが、狼だろうが、宇宙人でも怖がったりなんてしないよ」
「ほ、ほんとに?」
「ほんとほんと、なんならE.Tしとく? ——い~てぃ~」
「——い~てぃ~‥‥‥って、これじゃあ本当に宇宙人みたいじゃん!」
人差し指を突き合わせながら、みぞれのツッコミに「あははっ!」っと笑う。
みぞれの方はよほど心配してたのか、笑いながらちょっとだけ涙なんかも見せてて。
「は~あ、なんだか心配のし過ぎみたいだったね。これならもっと早く伝えとけばよかったなー」
「ん~、でもちょっと新鮮だったな。もうみぞれのことなんて知りつくしたと思ってたから、なんだかこうしてみぞれの新しいことが知れてさ」
「へぇ~? ‥‥‥じゃあさ、もっと知ってみる?」
「はい? って! いつの間にくっついて!?」
対面に座ってたはずのみぞれが一瞬、消えたと思ったら、後ろから柔らかい感触と共に、腕が回される。
月菜は視界にいるし、十中八九後ろにいるのはみぞれだろう。
ていうか、何今の瞬間移動みたいの!? 追いかけようとしたときのドアに飛び込むときも姿が見えなかったけど。
しかし、思考はギュッと回された腕に力が入ったころで、押し付けられたフニュンって弾力に持っていかれた。
「ほら、お互い色々成長したし? 実は結構知らないこと増えてると思うの。だからさ、久しぶりに一緒にお風呂、入ってみる?」
「は、はぁ? 流石にもう、それはっ——」
あれ? おかしい‥‥‥いつもなら、「はいはい、また今度な~」とか言って流すのに、なんで俺こんなにたじたじに‥‥‥?
とにかく! このちょっと暴走ぎみのみぞれを引き離して。
そう思って、身じろぎしつつ後ろを向いた瞬間。
「——っ!?」
みぞれの、今日知ったウェアウルフの姿のときの、サファイアを思わせるような深く蒼い瞳が思った以上に目の前にあって、思わず息を飲んだ。
——トクンッ。
心臓がいつもより大きく跳ね上がる。
いつも通りの見慣れたみぞれの顔、それが今はなぜか妙に可愛く見えて‥‥‥。
「星夜?」
「え、あ、いや‥‥‥とにかく! 一緒には入らないからな!」
みぞれもいつもの反応と違うことに違和感を覚えたのか、不思議そうにしていて。
そこに、びしぃっ! っと、ドキドキしてるのを誤魔化すように指をさす。
すると、今度はみぞれが目の前にいるのに、再び後ろから抱き着かれた感触がした。
「そういうこと。星夜とは私が一緒に入るから、みぞれは帰って一人で入って」
と、どことなく不機嫌そうな月菜の声がすぐそばで聞こえる。
「って! なんか、どさくさに紛れて月菜と一緒に入るようなことになってるけど、月菜とも入るつもりもないからな!」
「えー、みぞれとは入ったのに?」
「だから、それはもっと小さいころの話で——」
そう説明しようとしたら、今度はみぞれが真正面から抱き着いてきて‥‥‥なぜか、俺を挟んでにらみ合う二人。
「月菜! 今、あたしが星夜に抱き着いてたんだけど! かってにとらないで!」
「かってじゃないですー、ちゃんと星夜が逃げてから捕まえましたー」
「ちょっ、まっ‥‥‥二人とも、首が閉まって——」
「というか、月菜は振られたんじゃないの? なのになんでこんなにべったりなのさ!」
「な、なんでそれを知って‥‥‥。でも、振られてないし! まだだもん!」
「まだぁ? 往生際が悪い! 振られたんなら潔く引きなさい!」
「だーかーらー! まだ私は振られてないの! そっちこそ、相手にもされてないくせに!」
「ぅ‥‥‥で、でも今度からはあたしのターンなんだから!」
「——ぐはぁっ‥‥‥」
「あ、星夜‥‥‥」
「わああぁぁぁ、星夜が倒れたぁぁー!!」
■■
——カポーン。
なんて音はしないけれど、俺はチャプチャプと入浴中である。
もちろん一人でね。
ぶっ倒れたあと、直ぐに目を覚ました俺は未だキャットファイトを続ける二人をいさめて、「みぞれ! ハウス!」「——わふ♪」って感じにみぞれを家に帰しつつ、先に月菜を風呂に入れて今に至る。
「にしても、なんだったろうなぁ‥‥‥」
思い浮かぶのは、さっきの妙にみぞれが可愛く見えたことだ。
なんだかあいつのことがキラキラ輝いて見えて、変にドキドキして意識しちゃうって言うか‥‥‥初恋かっ!
そうセリフツッコミを入れつつも、正直他に思いつく原因も‥‥‥え、まじで? ほんとに俺みぞれのことを‥‥‥?
「あ、いや、いつもと違うところがもう一つあったな、犬耳‥‥‥じゃなくて、狼耳」
あれは確かに、似合ってた。みぞれにピッタリすぎてもはや違和感がないくらい、それに触り心地も良くて、いつまでも触っていたくなる。
えっと、じゃあつまり俺っていわゆる——ケモナー?
「‥‥‥マジか、新発見だ」
図らずも、みそれについて新しいことを知ったことで、自分自身の新たな発見をした俺だった。
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