第47話 ——わふ♪
「‥‥‥え、犬じゃないの?」
みぞれの衝撃? な、カミングアウトに思わず真顔でそう返してしまう俺。
すると、みぞれはさっきまでしゅんとしてたしっぽを今度はピンと立って毛を逆立てて。
「ちがうわっ! あたしは由緒正しきニホンオオカミの末裔なの! そこら辺のワンコと一緒に——」
「‥‥‥おかわり」
「——わふ♪」
「いや、やっぱ犬だろ」
みぞれが必死に抗議してくるけど、犬か狼かもっと手っ取り早く判断する方法はこれだと思って、今度は左手を出してみれば、これまた反射的といった感じに結構ノリノリで手を置いてくる。
しかもなんか、褒めてほめてって感じにしっぽ振ってるし、幼馴染センサーが撫でろって伝えて来てるのが分かった。
ということで、いつもねだってきた時みたいに手を頭にのせて撫でてあげれば。
「——くぅ~ん♪」
それはそれは目を細めて、幸せそうにお鳴きになる。
‥‥‥いや、やっぱこいつ犬だろ。
狼って言ったらなんかもっと気高くて、ピンとしてて、「我、偉大なり」みたいなイメージがあるもん。
というか、やっぱりみぞれのこの犬耳、肌触りめちゃくちゃいい!
和毛って言うんだっけ? 柔らかくて細かい毛がフワフワしてて、いつまでも触っていたくなるな。
「んぅ~♪ せいや、もっとした~♪」
「ん? ここら辺か? おぉ‥‥‥付け根のとこやば」
「そうっ! そこぉ~♪ ふあぁ~♪」
なんか、和むなぁ~。実家に帰ってきた感がする。
そんな風に、みぞれに注文されたりしながらモフモフしてると、どこからかジトっとしたような視線を感じて、そっちの方を見てみる。
「ねぇ、二人とも。いつまでそうしてるの? みぞれ、結局あなたは何者なのよ」
そこには、それはそれはもう半眼を通り越してタケシのような糸目になるんじゃないかっていうくらい目を細めた月菜が、腕を組んで全力のジト目を送ってきてた。
「~♪ ——はっ!? そうだった! 今はすっごく大事な話をしてて‥‥‥うぅ、お母さんに叩き込まれたから反射的に」
と、月菜の言葉で撫でられモードが終わったらしいみぞれは、頭の上の俺の手をパシッとはたいて、また真剣な表情に戻る。
うーん、もうちょっとモフモフを堪能してたかった。
でもまぁ、確かにこのままだと話も進まないので、俺もみぞれの正面に座り直す。
「それで? みぞれがワンコだったことは分かったけど‥‥‥」
「ワンコじゃなくて! お・お・か・み!! あたしはウェアウルフなのっ!」
「いやいや、またまた~! ちょっと自信家な犬ってみんなそういう風に思ってそうだよね」
「もうっ! ちがうしっ!」
机をバンバンって叩いて、「がるるるるる!」って牙をむいて威嚇してくるみぞれ。
あっ! この反応学校でもやってたけど、こんなところにもワンコな片鱗があったのか!
「って、ワンコじゃないんだったな‥‥‥わかったわかった、じゃあとりあえずみぞれは狼だと仮定して」
「仮定じゃなくて、本当! マジ! 噛むぞ!」
「あ~、それで、みぞれは俺の部屋で何してたんだよ」
「それはクンカクンカして——え? それだけっ!? あたしが狼だったことに対するリアクション薄くない? 結構なカミングアウトだと思うんだけど‥‥‥」
「そりゃまぁ最初見た時とか、さっき変わるところは確かにびっくりしたけど、なんとなくみぞれは犬——「狼っ!」‥‥‥まぁ、そんな感じがしてたから、妙にしっくり来たっていうか。正直、月菜の方が驚いたな」
俺が正直な感想を言うと、みぞれは思い出したとばかりに月菜の方を指さす。
「そうよ! 月菜、あんたのほうこそいったい何者なの? なんとなく、普通の人間じゃないとは思ってたけど、空飛べるなんて聞いてないんだけど!」
すると月菜は俺の方を向いてきたため、「月菜に任せる」っていう意思を込めて頷き返せば、少しだけその瞳に不安そうな色がよぎった。
みぞれとは出会ったころよりは仲良くなったみたいだけど、やっぱり吸血鬼のことを伝えるのは少し恐く思ってるんだろう。
少しだけだけど、月菜の過去を聞いた今では、なんとなくその気持ちが察せる。俺に伝えた時もちょっとだけ悲痛そうな感じがしたし。
それでも月菜は、覚悟を決めるように一歩前にでて。
瞬間、フワッとどこからか風が吹いてカーテンが広がり、月の光が月菜を照らす。
「みぞれの予想通り普通の人間じゃない。私は‥‥‥吸血鬼」
そう言う月菜の姿は月光をあびた半身だけ吸血鬼の容姿になっている。
「へぇ、吸血鬼ねぇ‥‥‥あ、それじゃあ月菜といると妙にムカムカするのって」
「そう、種族的な原因」
「え? どゆこと?」
確か、初めて会った時に二人ともお互いがお互いを指して仲良くなれないって言ってたっけ?
俺だけよくわからず聞き返せば、月菜がピンと人差し指を立てる。
「いーい、星夜? 古今東西、狼男と吸血鬼は争い合う運命なの、そういう洋画とか小説とか多いでしょ?」
「あ~、確かに。月菜がそう言うなら、やっぱりみぞれはワンコじゃなくて狼なのかー」
「む、なによその残念そうな反応!」
「いや、なんか俺の中で狼のイメージが崩れてくっていうか、孤高感が無くなってく」
「なによそれぇ! そんなことないでしょ! 新入生代表挨拶の時とか、かっこいいって結構評判に——」
「‥‥‥あご」
「——わふ♪」
犬の芸のコマンドを言いながら手のひらを出せば、ポンっとそこにあごを乗せてくるみぞれ。
もう、どこからどう見ても、立派な忠犬だな。
さっきお母さんにとか言ってたから犬の芸とかとことん躾けられてるんだろうなぁ‥‥‥最近会ってないけど、あのみぞれママだし。
そんなことを考えてると、俺の手のひらにあごを乗せたみぞれがプルプルしてることに気が付いた。
「う、うぅぅ‥‥‥身体が反射的にぃ‥‥‥」
どうやら、反応しちゃうことが悔しいらしい。
少し涙の浮かんだ瞳を上目遣いで睨んでくるけど‥‥‥威厳も何もあったものじゃないな。
「というか、なんでずっと隠してきたんだよ?」
「それは‥‥‥」
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