第46話 ——狼なの
◇◇星夜side◇◇
「それで、みぞれは俺の部屋で何をしてたんだ?」
「な、なんも~? ぴゅ~ぴゅ~」
もうそろそろ、深夜といっても差し支えない時間帯、場所は宵谷家のリビングにて、只今大狼みぞれ氏を尋問中である。
しかしまぁ、予想通りというか、みぞれはできもしないのに口笛を吹こうと口でぴゅーぴゅー言いながら、視線をあっちこっちさせてしらを切ろうとしてくる。
なんか、こういう定番っぽい感じのやつやられると何が何でも暴いてやろうって思えてくるのは俺だけかな?
「それじゃあ、もう一つ。たぶん見間違いじゃないんだと思うんだけど、目が合った時についてた耳としっぽはどうした?」
俺がそう言うと、みぞれはピクリと身体をびくつかせて。
「し、知らん! きっと星夜の見間違え! それより、ベランダから入ってくるなんてどういう了見よ! びっくりしたじゃない! 泥棒だと思ったんだからね!」
「えぇ‥‥‥逆ギレしてきた‥‥‥」
机をバンバン叩いて、ギャンギャン吠えてくる。
泥棒って‥‥‥まぁ、確かに外から見ればそう見えるかもしれないけど。なら俺の部屋のベッドでゴソゴソしてたみぞれは何なんでしょうねぇ?
実際はどうか知らないけど、なんかこういう質の悪い容疑者とかいそうだなぁ。
「ま、星夜たちだってすぐわかったから良かったけど、今度からはちゃんと玄関から帰ってきなさい! それじゃあたしはもう帰るから、また明日ね~‥‥‥な、何よこの手は、月菜?」
ひとしきりしゃべった後、椅子から立ち上がろうとしたみぞれだけど、そうは問屋は降ろさないと威圧警官よろしくみぞれの後ろで待機していた月菜が肩に手を置いて座り直させる。
「みぞれ、往生際が悪い。星夜、これをみぞれの目の前でぶら下げてみて、私が押さえておくから」
「うん?」
そう言って月菜が渡してきたのは、糸にピンポン玉くらいの大きさの球が付いた、何か催眠術で使いそうなヤツだ。
これでどうしたらいいんだろうって思ったけど、何故かみぞれは必死に目を背けようとするので何かしら効果があるのかもしれない。
ということで、糸の端っこを持ってみぞれの目の前でゆらゆらしてみる。
「おらおら~、あなたはだんだん眠くなる~」
「あ、やっ、いやっ!」
「こら、暴れない。ちゃんと見る」
そうすると、みそれはガチで避けようとし始めて、それを月菜が頭をしっかりつかんで抑えようとする。
‥‥‥え、ほんとにこれ何かしら効果があるの? 俺にはただの白い球にしか見えないんだけど。
「うーっ‥‥‥うーっ! ダメだって‥‥‥星夜っ!」
しかし、みぞれにはこれが何か他のモノに見えているのだろうか?
必死にイヤイヤと顔を背けて‥‥‥なんだか、そんなに嫌がれるとちょっと罪悪感が。なら別に無理に聞かなくてもいいか。
みぞれが今更何を隠していようが、ねぇ? 何かが変わるとも思えん。
そう思って、もういいかと下げようとしたけれど‥‥‥事態はもう間に合わなかったらしい。
「もうっ‥‥‥もうっ! ——ぐぁっ!!」
みぞれの瞳がじんわりと蒼みがかって、頭部がピコピコと動いたと思ったら、ゆっくりと盛り上がる。
「‥‥‥まじか」「やっぱり、そういうことだったんだ」
それを見て、さっきは父さんみたいに犬耳のカチューシャでもつけてたんじゃないか、それか実は月菜と同じような存在なのでは、とは思ってたけど、こうして改めて目の当たりにすると俺は驚きを隠せない。
月菜は、あの糸が付いた白い球を渡してきたところからなんとなく確信してたのか、そんなにびっくりしてる様子はない。
やがて、みぞれの頭から三角のフワフワした犬耳が完全に姿を現して——。
「——ウワオォォォォォォォーーーーーーンッ!」
それはもう、勇ましく遠吠えを上げた。
その姿は、どこからどうみても立派な犬である。
「——あっ‥‥‥」
遠吠えを止めたみぞれは、やってしまったとばかりに恐る恐るこっちを見てきて。
「え、えーっと‥‥‥ニャンニャン♪」
「いやいやいやいや! 流石に無理だから! もう誤魔化せないから!」
「うっ、うわああああ! また見られたぁ! あたしの秘密! ずっと隠してきたのにぃ!」
「ふぇえええええんっ!」って感じに、みぞれは頭についた犬耳を手で抑えて隠しながらしゃがみこむ。
あー、うーん‥‥‥これ、どうしたものかなぁ。
俺は改めてしゃがむみぞれの犬耳と犬しっぽ姿を見てみる。
ピコピコと動く耳は、みぞれの髪色と同じ茶髪で、柔らかそうな毛がふさふさしてて、触ったら気持ちよさそうだ。
スカートの下からひょっこりと出てるしっぽは、みぞれの感情を表すようにしゅんとしてて、なんていうか‥‥‥愛くるしい。
いや、なんだろう? 前々からみぞれは妙に犬っぽいとは思ってたから、正直あんまり違和感がないって言うか‥‥‥妙に似合ってる気がする。
「‥‥‥お手」
だからか、なんとなく右手を出してみたところ。
「わふ♪ ——じゃないっ!」
間髪をいれずに、みぞれが同じく右手をちょこんとおいてきて。
おぉ‥‥‥違和感が全くないぞ。なんだか、なるべくしてなったいう感じ。
それから、再びじーっと「説明を求む」って意思を乗せてみぞれを見つめてると、やっと観念したのか、ゆっくりと椅子に座り直して、妙に真剣なというか、それはもう余命宣告を告げる医者のような表情をして一言。
「星夜、今まで黙ってたけどあたしね——狼なの」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます