第二部
プロローグ ——ウオォォ~~~~~ン!!
◇◇みぞれside◇◇
あたしと星夜は同じに日に、この世に生を受けた。
突然なんだと思うかもしれないけれど、聞いて欲しい。
それから同じ病院の、同じ新生児室のお隣同士に寝かされて、それはもうまるで双子の様に一緒に育ってきた。
小さいころなんかは、一緒にお風呂に入ってたし、寝るときも毎日交互にお互いの部屋に行って同じ布団で寝てた、もしかしたら幼少期は親たちよりも星夜と一緒にいる方が多かったかもしれないくらい。
だからもちろん星夜の恥ずかしいことや全身のほくろの位置まで全部知ってる。
たぶん星夜もあたしのあんなところにあるやつまで知ってるんじゃないかなぁ‥‥‥え? どこかって? ‥‥‥ひ・み・つ♡
今言ったのは見えている外見的なことの一部だけれど、それだけじゃない。
内面的なことも、きっと星夜検定なんてあったら一級を余裕で合格することができると思うくらい分かってる。
例えば、星夜が嘘をついたときはしぐさなんて見なくても、なんとなく「あ、これ嘘だ」って感じれるし、星夜がその時何を感じて、何を考えて、何を気にしてるのか直感的に感じ取ることができる。
だから、あたしのことを幼馴染として恋愛対象の外側に置いていることもわかっちゃんだけど‥‥‥。
後は、星夜が月菜の告白にする返事とかも、ね? それが月菜を安心して送り出せた理由。
まぁ、そんなことは今はよくて、とにかくあたしは星夜のことならなんでも分かっていると自信を持って言えるし、星夜もあたしのことを何でも知っていると思ってる(ごく一部、異性的なことを除いて)。
それで、あたしが何を言いたいのかというと。
そんなお互いに以心伝心以上に心を震撼し合ってる仲だと呼べるあたしたちだけど、それでも一つ、あたしはまだ星夜に隠している秘密がある。
たぶんバレてない、徹底的に隠し通してきたから。
今まで15年、ずっと隠し続けてきたあたしの秘密‥‥‥星夜にも言えない、世界のあり方を変えてしまうほどの大きな秘密‥‥‥それは‥‥‥。
■■
「うし! 掃除洗濯も終わったし、妹たちのご飯も作ったし、いや~あたしって有能!」
月菜が待ち合わせ場所の駅前に向かった後、あたしは宵谷さん家の家事をして、昼寝して、星夜の部屋を物色&断捨離したりしながら過ごしてた。
今はいったん自分家に帰って、妹たちにご飯を作って食べさせたあと、二週間ぶりにアレをやろうと星夜の家に戻ってきところだ。
「本当は、おじいちゃん家から帰ってきてから直ぐにやろうと思ってたけど、まさか連れ子がいるなんて思わなかったからなぁ」
しかも、その連れ子こと月菜には、ずっと目を付けられてたというか、結構感覚が敏感なところがあってバレるリスクを考えたら実行できなかった。
星夜だけなら、いくらでも目をかいくぐってできたのに。
だから、この星夜も月菜も家を空けている今は絶好のチャンスである、逃す手はない!
ということで、あたしは軽快な足取りで星夜の部屋の前までやってきた。
そう、世界のあり方を変えてしまうほどのことは、星夜の部屋で行われてる。
しかし、この部屋の主である星夜はそんなことが行われてるなど、露ほども知るはずもない‥‥‥クックック!
部屋のドアを開けて電気を付ければ、それなりに大きい部屋に勉強机とタンス、大きめのシングルベットが目に入る。
綺麗、というよりはシンプルに物が少ないって感じの部屋は、なんとなく星夜の苦労が垣間見える。
だって、この部屋に物が少ないのは、小さいころにお母さんを亡くした星夜が必死にお母さんの代わりを務めようと家事に時間を使いすぎて、自分の時間を減らした結果だもん。
そういうところ、本当に偉いなって思う。我が幼馴染ながら尊敬できるし、男性としてすごく頼もしく感じる。
だからこそ、あたしは星夜にこういうことをしたくなるし、生涯の伴侶になりたいとも思ってる。
「そう思ってるのはあたしだけなのかもしれないけど」
まぁ、いいんだけどね。流石に最強の幼馴染だとしても、星夜とあたしの価値観は違うから強制できるものじゃない。
‥‥‥すこし、寂しいけど。
そんなことを思いながら、あたしの足は真っすぐ無意識のうちに星夜がいつも寝ているシングルベットにふらふら向かう。
正直もう、我慢の限界なのだ‥‥‥二週間もお預けされて、気分はおやつが目の前にあるのに「待て!」をされ続ける犬のよう。
さっきからずっと、身体がうずうずして、アレをしたくてしたくて焦がれて、切ない。
今この家にはあたししかいないことは分かってるけど、ちょっと後ろめたい気分から、あたしはチラチラっと左右を見る‥‥‥誰も見てない、よね?
——ゴクリ。
大きく唾を飲み込んで、そして——。
「せーのっ!」
——ボフンッ! ‥‥‥‥‥‥すぅ~~~~~‥‥‥はぁ~~~~~。
「ふぁぁあ~! 星夜の匂いだぁ~‥‥‥クンクン……んぅ~っ♪」
枕に鼻先を押し付けて深く息を吸って、吐いて。掛け布団をギュッと抱きしめて、匂いを移すようにこすりつける。
そう、あたしが星夜に隠してるアレとは、この行為‥‥‥星夜のベッドの上で枕とか布団とかクンカクンカして、星夜成分を補充すること。
これをすると、まるで全身を星夜に包まれてるような心地になって、胸がドキドキドキとアガって‥‥‥ぷはっ!
「あぁ~、二週間ぶりはヤバいなぁ~‥‥‥我慢してたからかな? なんか、いつも以上にすごく気持ちよくて——ん?」
ふと、カーテンから漏れる月光が強くなったような気がして、その光に誘われるように空を見上げればそこには、夜空に浮かび、妖しく輝く‥‥‥満月。
——ドキンッ。
「ぁ‥‥‥」
それが瞳に映った瞬間、目の前が真っ青になって、大きな胸の高鳴りと、頭部とお尻が疼き初める。
「あ、れ‥‥‥? おかしい、コントロールが……できな、い‥‥‥うっ」
スッと身体が変化していくのを感じる。それを抑え込もうとしても、さらに強い衝動に押し返される。
あぁ‥‥‥嗅ぎたい、舐めたい、撫でてほしい、甘噛みしたい、抱き着いて甘えたい。
そういう衝動が溢れて溢れて、理性が本能に狂いそうになる。
でも、星夜は今、出かけてて‥‥‥だから、この衝動をどこにぶつければ‥‥‥。
というか、寂しいよ‥‥‥星夜。
あたしだってもっと構ってほしいのに、最近はずっと月菜月菜って、そればっかりで‥‥‥。
今日だって、星夜の答えはなんとなくわかってても、もしかしたらって思うと不安にも思うの。
だって、月菜は可愛い。初めて会った時に一目見たときから異次元の可愛さだったし、今日のおめかしした後の月菜は普段よりも輝いて見えて。
あたしは初めて危機感を覚えた。
あたしは可愛いと努力してきたからこそ、そう自負してるし、幼馴染として星夜の一番近くにいる存在であることを疑ってなかった。
なのに、月菜は余裕であたしを超えてきた、容姿も関係も。たぶん、幼馴染より義理の妹の方が関係は近いと思う。
今のあたしが星夜に誇れるのは、一緒にいた時間とその間に育んできた深い信頼関係。
でも、それだけじゃきっと、いつまでもこのままで、いつか月菜に追い越されるかもしれないって思ってる。
だからもしも、本当にもしも、今夜、星夜たちが帰ってこない‥‥‥なんてことになってたら、あたしは——。
「あぅ‥‥‥せいやぁ‥‥‥会いたいよぉ‥‥‥」
気が付けばあたしは、シーツがぐちゃぐちゃになるのも構わずに、星夜の布団を強く握りしめて。
やがて、その姿が完全に変わる時。
「ぁあっ‥‥‥せい、や‥‥‥」
こらえられない衝動と感情が、我慢できなくて。
「——ウオォォ~~~~~ン!!」
そこには、嘆くように月に叫ぶ、一匹の狼がいた。
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