エピローグ お兄ちゃん!



 ◇◇星夜side◇◇



「——や! お~い、星夜?」


「‥‥‥え? あ‥‥‥あ、うん? どうした?」


「だから、駅の方向どっち?」


「ん? あ、もうここイタリアンレストランか‥‥‥えーっと、ならこっち?」


「もう、私ここの土地勘何てわかんないんだから、しっかりしてよ!」


 小さな頬をムッと膨らまして、月菜が迫力なく睨んでくる。


 いつの間にか、遊園地から出ていたみたいで、その時の記憶が茫然としていたのか曖昧だ。


 確かそう、ここまで月菜に手を引かれてついてきて‥‥‥その前はチケットを切ってくれた係の人に、ダルそうな感じに「またのお越しを~」って言われて‥‥‥桜並木を月菜と駆け抜けて‥‥‥観覧車の係の人に、月菜の姿が変わっているのに驚かれたけど、何かを悟ったのかサムズアップで送ってくれて‥‥‥。


『それと、告白のこと。私は確かにあなたが大好き‥‥‥でも、もう改まって告白はしない。‥‥‥今度は星夜から——いつか絶対、星夜から私が好きだって告白させて見せる! 今よりも可愛くなって、お化粧だってうまくなって、ファッションだって覚えて! みぞれにも、十六夜月菜にも他のどんな女にも負けないんだから! ‥‥‥これは、その布告——』


 そして鮮明に思い出す、血の口づけブラッド・キス


 あの時のキスの味は、きっと一生忘れない‥‥‥忘れられない。


 確かに刻まれたのだ。俺の胸の内に月菜が、特別な妹として。


 俺たちの関係は変わった。もう月菜はただの妹ではないんだ。みぞれと俺が『最強の幼馴染』のように、月菜と俺は『特別な兄妹』なんだろう。


 事実、俺はもう月菜のことを純粋に妹とは思えなくなってる。


 今も繋いだ手から熱が伝わってきて、ドキドキする。知らず知らずのうちに、月菜のことを目で追っていて意識している。


 それは今日のデートする前までは感じなかったこと。


 俺は、もしかして月菜のことが好きなのだろうか? もちろん兄妹としてではなく、異性として。


 想いをぶつけられた後だけど、改めてそう考えてみようとして‥‥‥ふと、真っ白の視界の中に見えたものを思い出した。


 月菜に想いをぶつけられて真っ白になった頭が晴れた時、確かに月菜の姿は見えなかった‥‥‥けれど、そこに誰もいなかったわけではない。


 そこにいたのは、茶髪のウルフカットで派手な制服を着こなして、首にはチョーカー。いつもベッタリしてきて手がかかるけど、困っていればいつもお姉さん風を吹かせて助けてくれる、活発で天真爛漫な幼馴染。


 あの時、なんであいつがいたんだろう? う~ん‥‥‥いや、まさかね‥‥‥。


 今更あるわけないって、思いついた考えを俺は首を振って追い払う。


 うん、やっぱりそんなわけないよ。俺が、みぞれのことが異性として好きで、恋人になりた——。


 と、その時、腕をグイっと引っ張られて思考を中断させられた。


 どうしたんだろうって思って、引っ張った張本人である月菜に視線を向けると、じっとジト目を向けてくる。


「星夜。今、他の女のこと考えてたでしょ?」


「え‥‥‥」


「そういうの、分かるから」


 そう言って、月菜はグッと顔の距離を詰めてくる。


 至近距離にある輝く紅い瞳に魅入られて、俺はそこから目が離せない。


「い~い? 今は私とデート中なんだから、私のことだけを見て、考えていて。小学校でならったでしょ、デートは家に帰るまでがデートなの——」


 ——ちゅっ♪


「——次、私以外のことを考えたら、今度は噛みつくから」


「はっ!? わ、わかった! わかったから、もう少し離れて、な?」


「むぅ、なんでよ。私たち特別な兄妹なんでしょ?」


「そうだけど、そうだけどさ!」


「なら、いいじゃん。昨日みたいなことはしないって言ったけど、普通にアプローチはするもん」


「いや、でも、キスは‥‥‥」


「みぞれはいいのに?」


「うぐっ……」


 それを言われると、何も言い返せないぞ‥‥‥あ、だったら、みぞれのやつにやるなって言えば‥‥‥。


 そんなこと言っても、聞くような奴じゃないか‥‥‥そもそも、なんで俺はみぞれのキスを完全に拒めないんだよ。


 まさか、俺はみぞれにキスされるのを実は望んで——いや、ないな‥‥‥ないよな?


「と、とにかく! ここは人目もあるんだし、もう少し離れて!」


 月菜の肩をグイって押して、ちょっとだけ距離をとる。


 なんだか、月菜がみぞれ二号になった気がするぞ‥‥‥‥。


「むぅぅぅう! ‥‥‥けち! あ、だったら離れられないようにすれば‥‥‥」


「え、なんて?」


「ふふん♪ 星夜、覚悟してね?」


 そう、ニヤリと蠱惑的に微笑んだ月菜は、溶けるように闇の中に姿を消して‥‥‥突然後ろから抱き着かれるように抱えられた。


「ちょっ! 月菜!?」


「捕まえた♪ 月が綺麗な夜だし、せっかくだから飛んで帰ろう!」


「うぇっ? 飛んで?」


 月菜はそう言うと俺の言葉なんか無視して、バサリと何かが羽ばたくような音がしたと思ったら、いつの間にか俺の身体は空中にあった。


 家の高さも超えて、さっきまで乗ってた観覧車の頂上くらいまでの高さだ。


「どう? これでも私と離れたい? 離れたら星夜は落ちちゃうけど」


「ひ、卑怯な‥‥‥離さないでください! お願いします!」


「はい、よろしい。家の方向こっちであってる?」


「うん、あってるよ‥‥‥ったく、いつの間に月菜はこんな子になっちゃったのか‥‥‥お兄ちゃん悲しい!」


「む、そんなの星夜のせいにきまってる。‥‥‥責任、取ってよ」


「うっ‥‥‥」


 強烈すぎる。女子の『責任取ってよ』って詠唱は、どんな男子も恐怖に陥れる最強の魔法の一つだぞ‥‥‥やはり、月菜は魔法少女なんだ、空飛べるし。


 そんなくだらないことを考えていると、次第に月菜に弄ばれた心も落ち着いてきて。


 頭上に広がる満点の星空、美しく輝く満月を見ながら、なんとなくこれでよかったのかなって思えてくる。


 月菜の言葉を聞いて、その気持ちを知って、俺は答えられることはできなかったけど。


 それでも月菜は確かに一つ、前に進んだんだと思う。


 やっぱり、俺は月菜の兄だから、妹が成長するのは純粋に嬉しい。


 そうじゃなくたって男というものは現金なもので、月菜が俺に好意を抱いてるっていうことも普通に嬉しいのだ。


 だから——。


「月菜」


「うん?」


 色々とすれ違いって、変わってしまったこともあって、これから先がどうなるかなんてわからないけど、それでも俺は、妹ができてどうしようもなく嬉しいから。


 上を向いて、今一番伝えたいことを、気持ちを声に乗せて届ける。


「特別な兄妹になってくれてありがとう、これからもよろしくな」



「うんっ! お兄ちゃん!」




—————————


【あとがき】

 あけましておめでとうございます。

 今年もよろしくお願いします!

 まぁ、2021年が始まった一日目にエピローグなんですけど‥‥‥あ、終わっちゃった。

というわけで、フォロー、応援、レビュー等もたくさん頂けて嬉しい限りです!

 まだだよーって方は月菜ちゃんに惚れたらしてください! 月菜ちゃんを応援すると思って、ね? 

 特に★、レビュー何て書いてもらえたら噛みついてあげたくなっちゃうくらい喜びます。

 それからここまで読んで頂き本当にありがとうございます!

 ‥‥‥ま、終わったのは第1部で、明日からまた第2部が始まるんですけど。

これからもよろしくお願いします!


【宣伝です!】


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少しでも興味を持っていただけたら読んでみてください!

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