第38話 いただきます♪
「ねぇ、星夜っ——」
胸の内から絞り出そうとした私の言葉は‥‥‥。
「うわ、マジで結構人が多いな‥‥‥うん? 何か言ってた?」
しかし、ちょうど来た電車の轟音に攫われて、星夜には届かなかった。
「う、ううん、何も言ってないよ‥‥‥」
そのことにホッとする気分の私と、残念に思った私がいる。
なんだかここ最近情緒不安定ではあったけど、今日はそれが顕著だ。
星夜はさっきとは違う理由で俯いてる私を不思議そうに見ていたけど、やがて降車する人が全員降りた後、私の手を引いて電車に乗り込んだ。
一番先頭で待っていたため、後ろの人が入れるように向かい側のドアまで行くと、最後に並んでた人が乗ってドアが閉まる。
電車には吊革につかまってる人が沢山いた。そこに私たちが乗り込んできたため、完全に動けないほどではないけれど、身動きすれば他の人に触れてしまうくらいには満員電車だった。
そうして、電車が動き出してゆっくり加速し、ちょっとだけ足元がふらつきそうになって。
「月菜、こっち」
「んえっ!?」
間抜けな声を漏らしたのは、星夜に呼ばれたてクルリと視界が回ったと思ったら、私と星夜の位置が入れ替わってたからだ。
な、なにっ!? というか、昨日もこんな感じにされた気がするんだけど‥‥‥もしかして星夜って身代わりの術みたいのが使えるのかな?
トンっと、背中がドアについて、どうしたんだろうと顔を見上げると、瞬間、私は息を詰めてしまった。
私と位置を入れ替わったため、支えを失った星夜は私の顔の直ぐ横に手をついて、私のことを見下ろしてくる。
男としては細く、美味しそうな首筋と、けれどしっかりとその存在を主張する喉ぼとけが目の前にあって、一定期間の呼吸が耳元で囁かれるように近くに感じる。
客観的に見て、今の私は星夜にいわゆる壁ドンをされてる格好だった。
「あうぅ‥‥‥」
そのことに気が付いて、いっきに顔に熱が昇ってくるのを感じた。
「月菜、ええと、今だけ兄として言わなきゃいけないことがある」
と、私がしどろもどろになってると、妙に真剣な表情で兄さんがそう言う。
その表情に思わずキュンってきてたりして‥‥‥。
「いいか、こういう人が多い時はなるべくドア側の方に立つように。特に今日みたいなスカート履いてる時は気を付けて」
優しく注意するその言葉に、私はさっきの行動の意味に気が付いた。
‥‥‥つまり、星夜は私が痴漢されることを心配して。
うぅ‥‥‥もう、こういうとこだよ‥‥‥。
私が、あなたを好きで好きで仕方がなくなってしまうのは、こういうさり気ない優しさが私を惹きつけてやまないの。
「分かった?」
「‥‥‥うん——ひゃっ!?」
「——うおっと!」
ますます赤くなってるだろう自分の顔を隠すように頷いたその時、電車がカーブに入って乗客全体が大きく揺れる。
星夜がバランスを崩して、ふらつき——気が付いたら、私は星夜の首筋に顔をうずめるような形でドアに押し付けられてた。
「ご、ごめん‥‥‥」
右耳が少しの吐息と、星夜の声にくすぐられる。
奇しくもそれは、昨日の組み敷かれて、全く力が入らず何もできなくなった時と似ていて‥‥‥。
——ドクン。
瞬間‥‥‥糸を引いて濡れた唇、全身を駆け巡る甘い刺激、荒い呼吸の星夜に睨まれて怖かったけどめちゃくちゃにされたくなるような欲求、そのすべてがフラッシュバックしてきた。
「とりあえず、離れるね」
「い、いやっ‥‥‥」
もちろんそれは、拒絶された時の虚無感も一緒で‥‥‥離れようとした星夜をあの時に重ねて、反射的に引き留めてしまう。
「月菜?」
「あ、いや、その‥‥‥バレちゃう」
「バレる‥‥‥? あっ」
今の私は昨日のことを思い出しちゃったせいで、大きく胸が高鳴った私は吸血衝動の一歩手前、髪が少しだけ銀色になってると思う。
本当は、またあの時みたいに拒否されるのが怖くてしてしまった咄嗟の動きだったけど、星夜も私が衝動を発しそうになってるのに気が付いたのか勘違いして納得してくれた。
「じゃあ、すこし収まるまで俺が隠しとく」
そう言って、星夜は私の身体を覆いかぶさるような体制に身じろぎする。
「ふ、ふぁっ‥‥‥」
でも、それは今の私にとっては火に油を注ぐようなもの。
離れるどころかますます星夜と密着するようになって、私の鼓動はどんどん大きくなっていく。
しかも、目の前には私を誘惑してやまない星夜の首筋がある。
‥‥‥もぅ、我慢何てできないよ。
「はむっ‥‥‥んっ♪」
「——っ!? ちょっ、月菜!?」
星夜は突然に私が噛んだことに驚いたようで、少し離れるとびっくりしたように見てくる。
ううむ、そんな顔されるのはちょっと心外‥‥‥私がこうなったのは星夜のせいなのに。
‥‥‥あ、そうだ。なら、さっき星夜が言ったことの上げ足をとれば‥‥‥。
「さっき、星夜は今だけ兄としてって言った。つまり今の私は妹なんでしょ? それと、妹なんだからこういう時に言ってくれればいくらでも吸っていいよとも言われてるもん……だから、ちょうだい?」
「い、いや、確かに言ったけど、ここ電車だよ? やってるとこバレたりしたら‥‥‥」
「星夜が隠してくれれば大丈夫……だめ?」
「‥‥‥わ、わかったよ。ちょっとだけな?」
そう言って、星夜はチラチラっと周りを見回した後、その首筋を少しだけはだけさせて、また私に覆いかぶさるようにしてきた。
‥‥‥これ、確かに傍から見たらちょっといかがわしいコトしてるようにしか見えないかも‥‥‥けど、なんだか‥‥‥ちょっと燃える。
「ありがと‥‥‥いただきます♪」
背伸びをして星夜の耳元でお礼を言うと、回した腕からピクッと反応したのを感じた。
直ぐに牙を突き立てることなんてせずに、そのままゆっくりと首筋に唇を這わせて舌で舐める。
するとまた、ビクビクっと星夜の身体が震えて‥‥‥なんだか焦らしてるのが楽しくなってきた。
私も、初めてやった時と比べたら結構吸血行為の腕は上達したんじゃないかな?
もう星夜にほとんど痛みを感じさせないで、手のひらで転がすようにできると思うくらい自身がある。
ふふっ‥‥‥なんだかゴクリと動く喉ぼとけが、早くしてって懇願してるようでちょっとかわいいかも。
そんなこと思いながら、私はゆっくりと牙を突き立てた。
「んっ、はむっ‥‥‥ちゅっ♪」
「‥‥‥うっ‥‥‥変なことしてる気分だ‥‥‥」
「んくっ‥‥‥
「る、な‥‥‥ったく、もうすぐ、ご飯だから、ほんとにちょっとだけな」
「‥‥‥」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ねぇ、私ってもしかして食いしん坊だと思われてる?
「むぅ‥‥‥かぷっ!」
「——ったぁ!?」
ちょっとイラっとした私は、少しだけ強く頸動脈を噛んでおいた。
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