第17話 次ぃ……次勝てば



 次に月菜が選んだのは、襲い掛かってくる怪物を狙い打ってスコアを競う二人プレイのシューティングゲーム。


 ……襲い掛かってくる敵に吸血鬼がいるんだけど、そこのとこ月菜はどう思ってるんだろう?


 そんなことを思ってるうちに——。


「ていっ! ていっ! うらうらうらうらうらうらっ!!」


「ちょっ!? 月菜、それ今俺が狙ってたやつ!」


「打ち抜けえぇぇぇっ!!」


 ——PLAYER 1 WIN!!


 これで月菜が一歩勝利に近づいた。




「むむむ……」


「ん~、これはこうで……ここにこれを置いて……」


 ——連鎖! 2連鎖! 3連鎖! 4連鎖! 5連鎖! 6連鎖! 7連鎖! ~~ 14連鎖!


「わっ!? ムリムリムリムリ! 兄さんの鬼畜っ!」


「はははっ、もってけもってけ~!」


 ——PLAYER 2 WIN!!


 次に俺が選んだぷよっとしたパズルゲームでは俺が圧勝して、一歩優勢。




「よしよし、このままいけば俺が一位だな」


 ——フヨフヨフヨフヨ……ドガンッ! 『ウワァァァァァァン!(コースアウトした声)』


「はっ!? 誰だよ青こうら打ったの!」


「兄さん、青こうら受けてくれてありがと! お先に~!」


「あっ、月菜まさかずっと二位だったのって……」


「ふふんっ、いい避雷針だった」


 ——1st ルナルナ   2nd ほしのよる


 次に月菜が選んだレースゲームでは最後の最後に月菜に抜かされて、そのままゴールされたことで再び月菜に巻き返されて。




「兄さん、ほんとにこれにするの? 不公平!」


「え~? でも、ちゃんとゲーセンにあるゲームだし」


「私、女の子だから絶対勝てないもん! 夜になったらいいよ」


「そんなに待てません! それじゃあ、こうしよう? 月菜の点数は三倍にする」


「う~ん……それなら……」


「それじゃあ、俺から——破ッ!!」


 ——バッコォォォンッ!!  『312㎏』


「まぁ、こんなもんか。はい、次は月菜。奥に押し込む感じにやるといいよ」


「分かった、いくよ! ——えいッ!」


 ——スカッ……。      『0㎏』


「……」


「……もう一回! ——やあッ!」


 ——スカッ……。      『0㎏』


「……プッ!」


「も~やっ! 兄さんのイジワル!(涙目)」


「ちょっ、すかすからって俺をポカポカしてくるなよ」


「知らない知らない! もう次!」


 次に俺が選んだパンチングマシーンでは、まぁこんな感じに俺が勝ってまたまた俺が巻き巻き返して。


 ここからメダルゲームでジャックポットを出して月菜が、カードゲームのソリティアで俺が、さらにはレトロゲームまでも巻き込みながらも俺と月菜のゲーセン対決は続いていき、どちらも一進一退の勝負を繰り広げ、ついにはヴァンピィのアーケードゲームを網羅する羽目になった。


「次ぃ……次勝てば、私の勝ちぃ……」


「ふぅ……いや、ここまできたらもう負けないぞ……連勝は阻止する! でもどうする? もうほとんどやりつくしたけど、二週目プレイ?」


「……ううん、まだ一つだけ残ってる。次はそれで勝負」


 そうして、やってきたのは一階にあるクレーンゲームコーナー。


 最後……にするつもりは全くないけど、これでどうやって勝敗を付けるんだろう? 色々やり方はあると思うけど……。 


 そう思いながらどの筐体にするか悩んでる月菜についていくと、やがて片手で持てるくらい大きさの可愛い猫のぬいぐるみが二匹入った筐体に決めたようだ。


「これにしよう。ちょうど二つとも落とす穴に等間隔だから、交互に自分の選んだ方を狙っていって最初に落とした方が勝ち、どう?」


「なるほどそういう勝負ね。いいよ、月菜はどっち狙う?」


「じゃあ、こっちの黒い子」


「なら俺は白いほうか、まずは月菜からどうぞ」


 俺の言葉にコクリと頷いた月菜は、さっそく100円玉を入れて、プレイを始める。


 まずは横方面——ほぼ真ん中、続いて縦方面はケースの中を横から見つつ合わせていく。


 そして流石ゲーム好きというか、初めてきたにも関わらず月菜はちょうどアームが閉じた時に爪がぴたりと真ん中をとらえるところで止めると、クレーンが開き、ぬいぐるみを掴んで持ち上げていく。


「ふふっ、これは一発で終わっちゃったかも」


 と、これは余裕の笑みを見せる月菜氏の発言だが、俺はそう現実が甘くないことを知ってる。


 そして、一番上まで持ち上がったクレーンが、次に穴の位置に移動をしようとしたとき、掴んでいたぬいぐるみは無残にも落ちて行った。


「あぁっ……」


 ケースにピッタリと張り付いて見守ってた月菜から悲しみの声が漏れた。心なしか、落ちて行ったぬいぐるみも逆さまになって悲しそうだ。


「それじゃあ、次は俺の番っと」


 月菜と筐体の前を交代して俺も100円玉を入れてプレイを始める。


 まずは横方面——ぬいぐるみよりもかなり左にずれたで止める。


「ぷぷっ、兄さんへたくそ?」


 さっきのパンチングマシーンの言い返しかな? 月菜に煽られるけど、それは無視して俺は縦方面をぴたりと合わせた。


 そして落ちていくクレーンのアームはぬいぐるみの左を確実にとらえ、アームが閉まると同時に押されて白猫はコロンコロンと二回転、ぬいぐるみを掴むことは無かったけど確実に穴に近づく。


「……兄さん、まさか」


「悪いな月菜。俺は勝ちに行く!」


 そう俺の狙いは、転がして落とすこと! 


 一発では落とせないけど、数をこなせば確実に落とすことができるし、このぬいぐるみは丸っこい形をしてるから転がしやすくて、この作戦は一番だ!


「兄さんのチキン! ヘタレ!」


「ははははっ! なんとでも言うがいい!」


「いいもん、次の一発で私が獲るから!」


 しかし、その月菜の強発言に反して、そこからはクレーンゲームの地獄……言わずもがなの泥沼化だった。


 月菜は必死に一発獲りを狙って、俺は確実に落としにかかる。


 月菜もたまにいい線を行って、持ち上げて惜しいところまで来たりもしたけど、黒猫は逃げるように落ちていき、その落下地点に俺の狙いの白猫がいてせっかく詰めた距離を振り出しに戻されるという偶然の妨害を受けたり。


 逆に、月菜が黒猫を持ち上げようとしたときに、アームが白猫に当たって近づけてもらったり。


 そんな風に、お互いなかなかぬいぐるみを落とせないまま、十数プレイ目。


 ついに、決着がつく時が来た。


「くっ……くぅぅぅっ!」


「月菜、ここはもう清く諦めることをお勧めするよ」


 現在、クレーンゲーム対決は圧倒的に俺の優勢、将棋でいうと大手、チェスでいうチェックメイト状態だ。


 俺が狙う白猫は、コロコロ転がしていった甲斐もあって頭半分ほど穴に突き出してる。なんだかぬいぐるみの目が回ってるようにも見えるけど、あと一回プレイすれば確実に落とせる。


 一方、月菜の狙う黒猫はというと、最初期の位置よりも遠く離れたところでひっくり返ってた。まるで、何度も落下させられて、もう月菜にとられたくないというように。


 月菜の優位性は絶望的、ついでに二人のお財布も絶望的……ということでそろそろ終わらせよう。


「さぁ、月菜。ここで醜くあがいても、投入した100円玉は帰ってこない」


「けど、だけど……ここであの子を獲らないと、消えていった100円玉たちが浮かばれないよ!」


「これ以上、被害を増やしてどうする? 入れてしまえばもう後には戻れないんだぞ」


「わた、しは……私は、それでも……運命は出会うものじゃなくて掴み取るものだと信じてるっ!」


 ——チャリン……。


「……愚か者」


 そうして、月菜の最後になるだろうプレイが始まった。


 一発で獲るには絶望的な距離であるこの状況、しかし月菜は愚直なまでにプレイスタイルを変えることは無かった。


 真っすぐぬいぐるみを目指し、その中心を捉える。


 やがてアームがその身体を掴んで持ち上げた。


 ここまではいい、しかしここからが鬼門。


 何回何十回と、この移動するときの慣性の力によって落としてきた。


 そして今回は………………落ちなかった。


「やった!」


 なんと、偶然か、はたまた必然かその黒猫は落ちそうになった時、奇跡的にも手についていたタグが爪に引っかかっていて落下することは無かった。それはまるで、黒猫がもう落ちたくないっ! って、言っているような。


「お、おぉ……」


「い、いけぇ! 頑張れぇ!」


 思わず、俺も感嘆の声を上げてしまう。


 月菜も、必死にケースの先に向かって応援してる。


 そうして、取り出し口の穴の真上。そのアームが開くとき、ついにその黒猫は落ちた。


「「あっ……」」


 ただし、俺が狙ってた白猫と同時に。


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