☆1‐3


 黄昏はすぐに過ぎ去って、何もかもを飲み込む夜がやってくる。


 サッカー部での練習を終えた青尉は、寒空の下に駆け出した。


 住宅街のすぐ真横を流れる川の土手の上、何の障害物もない真っ直ぐな道。

 街灯一本も無い暗い道だが、青尉は好んで使っていた。人を拒むような冷たい雰囲気が落ち着くのだ。

 道はそれなりに広く、川幅もそれなりに広い。土手は緩やかな坂で、短い芝生に覆われている。


 きもちいつもより強めにペダルを踏み込む。昨夜のこともあるから、できる限り早く家に着きたいのだ。体力には自信のある青尉だが、二夜連続での面倒事は勘弁してほしかった――昨日のような、夜中まで続いた追いかけっこは。


 だが、冬の夜は濃く重く乗し掛かってきて、知らず知らずの内にスピードが緩んでいたらしい。いや、本当はそんなことはないのだが、結局青尉は捕まってしまった。


 家と家との路地の前を通った時、一瞬、闇の中で異常な存在感を示すものが見えたのだ。

 何だろう? と思った青尉の頭が次の瞬間、何かヤバイ、に切り替わり、咄嗟に川の方へハンドルを切った。


 飛んできたナイフが後輪を掠めてコンクリートに突き刺さった。


 青尉は素早く自転車から飛び降りた。主を失った自転車が緩やかな斜面を滑り落ちていく。


(悪い、後で必ず迎えに来るから!)


 青尉は心の中で謝り、土手の上に立った。

 ナイフがふわふわと浮かび上がり、刃先が青尉を見定める。


(サイコキネシスか? それとも、テレキネシス? どう違うんだっけ、この二つ……)


 ちょっと首を傾げて、すぐに青尉は『まぁどちらでもいいか』と考えるのをやめた。どちらにせよ、物を自由に動かせるのだということに変わりはない。

 ナイフが飛ぶ。青尉の顔面を狙ったそれを、彼はあっさりと避け、走り出した。

 敵の姿が見えない。青尉は辺りをきょろきょろと見回した。背後から足を狙ってきたナイフをジャンプして躱す。狙いの正確さから言って、この場所が見える位置にいるのは間違いないはずだが。

 青尉は浮かんでいるナイフを最初に見つけた路地を覗いてみたが、そこには何もなかった。


「っ、とっ!」


 あわや目ん玉貫かれん、というところでどうにか青尉は凶刃を仰け反って躱し、たたらを踏んだ。


 ナイフが青尉の周りを飛び回っている。いつの間にかそれは数を三本に増やしていた。

 高速で動く凶器に、進路と退路を塞がれる。


(まるで、俺をこの場に足止めすることが目的みたいだな……っ!)


 青尉は自らの想像に寒気を感じた。

 そして彼がポケットに手を突っ込むと同時。


 ナイフが一瞬強い光を放ち、爆発した。


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