第64話 未来の女王様を支えよう

私の名前はイライジャ・マジーク。白魔法師の息子で、ナイフの達人の母上は王妃様の専属侍女だ。


「いいこと?イライジャは王女様にお仕えするのよ?立派な白魔法師になって、レティシア様を支えてちょうだい」

そう言われながら、育ってきた私は少しも甘やかされた記憶はない。


厳しい父上と、王女様にぞっこんの母上に、はじめの頃はふてくされていた。皆が王女様に夢中なんだ。

確かに王女様は驚くほどの美貌だが、それだけじゃないか!


生まれつきの美貌なら私や、幼なじみのノアだって持っている。ノアは王女様に惚れているみたいだ。あの目線でばればれだ。私は、そんな無駄な恋はしないよ。


あの王女様は、普通の王女様ではない・・・

10歳の子が黒豹をペットになんて誰が想像するんだ?

しかも、動物の言葉がわかる?あり得ない・・・こんな規格外の子を好きになってみろよ?

毎日がハラハラのし通しだよ。だから、私はいつだってこの王女様からは距離を置きたい。


「イライジャ様、一緒にオブシディアンとお散歩しましょう」

王宮の隣の私の屋敷に誘いに来るが、毎回、丁重にお断りしている。

この王女といたって、ろくな事にはならない。

昨日だって、命を狙われたその後に、涼しい顔をしてお菓子を食べていたという!!




私は、温室の隣にしつらえたナイフ投げの練習室に向かう。

そこには藁でつくられた人間が多数、設置してある。


母上は毎日ここで練習をしている、手がなまってしまうからと言いながら。そして、私もここでナイフを投げる事が好きだ。全神経を集中していると、その瞬間はこの世の全ての雑音が消えて嫌なことを忘れられる気がした。


そんな神経を集中させている時に、練習室の扉の方から物音がした。


「ねぇー、イライジャ様、一緒にクッキーを食べましょう」

暢気な顔をした王女様は、クッキーとお茶のセットを持ったノアを従え、その後ろにはオブシディアンとエマさんがいた。やれやれ、今日は逃れられない。なぜなら、このエマさんは母上にも増して王女様命だったから。

逃れようものなら、縄にでも縛られそうな雰囲気で視線を向けてくる。


渋々、この甘やかされた王女様にお付き合いしていると、王女様は嬉しそうに微笑んだ。


「イライジャ様は、すごく努力家なのね!いつも、私達とは遊ばないでお勉強したり、武術や白魔法にナイフ投げまで練習しているなんて!」

キラキラしたエメラルドグリーンの瞳は私を感心して見つめている。


傍らのノアはやや不満げだった。このノアこそ努力家なのに・・・ノアは王女様につきそってばかりいるから、夜遅くまで勉強していた。武術や剣術も私に負けないように、朝早くに騎士達と鍛錬しているのも知っている。

努力家は、あんたの横で犬のように尻尾を振っているそいつなんだぞ!!

私は、思わずそう言いそうになったところで王女様がさらに、続けたのだった。


「もちろん、ノアには敵わないわよ!ノアは私のそばにいて、隠れていっぱい努力しているのだから・・・」



この王女様なら、守ってやってもいいな、と思った。子供ながらに洞察力に優れているこの王女様ならきっと上に立つ人物になるから。私達の女王様に!!

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