第63話 僕の好きな子はお姫様(ノア視点)

僕には好きな女の子がいて、その子はとても綺麗でかわいい。

そして、白魔法の強大な力を持つ。僕はずっとその子に恋をしているんだ。


「ノア君、オブシディアンと一緒にお散歩しよう」

彼女は、そう言いながら僕の部屋をノックした。僕は嬉しくて、つい顔がほころぶ。


「ノア、王女様が危ないことをしないように注意してね。今日も、お母様はハミ君の視察に1時間ほど同行しなければならないのよ。ほら、ハミ君はちょっと危なっかしいところがあるからね?」

お母様は伯爵夫人だけれど、王妃様の専属侍女でとても王女様を溺愛していた。

お父様をハミ君というのはお母様だけじゃない。王妃様も、エマさんやラナ・マジーク伯爵夫人もそう呼んでいる。

王女様もだ。その流れで僕もノア君って呼ばれている。



僕には、たまに羨ましく思う存在がいる。それは、イライジャ・マジーク伯爵令息。彼の父上は皆から尊敬されている白魔道師だ。ラナ・マジーク伯爵夫人も王妃様の専属侍女でナイフ投げの達人だ。

イライジャは、とても、優秀で、父親から白魔法の力を受け継いでいた。彼のことを王女様はイライジャ様と呼ぶ。

いつだったかな、王女様に聞いたことがあった。

「ねぇ、王女様、なぜ僕は”ノア君”で、イライジャには様をつけるの?」

「え?なんとなく・・・」



それって、なんとなく、僕が頼りないってことだよね?僕はまだ、7歳で、子供だけれど、かっこいい男になりたいんだ。僕は、逞しくなりたい。誰よりも、賢く、強くならなければならない。この王女様を守りたいんだ。

僕とイライジャは同じ歳で王女様は二歳ほど年上だった。イライジャはライバルであり、親友だった。僕らは王女様の幼なじみであり、将来の側近で、両親から王女様を支えるように言われていた。


「なに、考えているの?ノア君。今日のノア君は、ちょっと元気がないよ。オブシディアンのブラッシングを一緒にしよー」

僕は、オブシディアンの毛並みにそって慎重にブラッシングした。オブシディアンは犬ではない、猫でもない。

あぁ、大きな猫とはいえるか・・・鋭い牙と爪をもつ王者の風格の聖獣の黒豹・・・王女様の親友の一人だ。



「がぁぅーー」

オブシディアンは僕が少しでもブラシを毛にひっかけると、威嚇するように注意する我が儘な奴だ。

だが、王女様には忠実で、守るように、どこに行くにもついて行く。


「お前は雄だろう?ライバルだね?僕にはライバルが多すぎて勝てる気がしないよ。でも、本当に好きな子の為だから頑張ってみるよ・・・」

オブシディアンは言葉がわかるようだ。僕の最後の言葉に反応して、僕の頬を一舐めした。


「この聖獣は王女を守る者には優しい、仇なす者の喉は容赦なくかみ切るだろう」

アレクサンダー様がそう言って、楽しげな表情をしていたことを思い出す。


傍らにはエマさんがいて、ちょっと離れたところにはラナ・マジーク伯爵夫人が周りを監視していた。

周囲を、兵士でガチガチに固めているには、わけがあった。ほら、今日も。


「侵入者だ!!また、王女様を狙った者が忍び込んだ。捕らえろーー!捕らえろーーー!」

その侵入者は女で、長い髪をポニーテールにし、僕の背後にいつのまにか立ち、喉にナイフをつきつけたのだった。






ラナ・マジーク伯爵夫人が、すばやくその女の喉元にスローイングナイフを投げつけた。秒殺だった!!

エマさんは、何事もなかったようにそれを護衛騎士にかたづけるように言うと、テキパキと午後のお茶の用意を指示するのだった。


「レティシア様の噂が近隣諸国に広まっています。”聖獣をペットに持ち動物と話せる強大な白魔法の力をもつ王女様”と。諸外国の王族から婚約の申し込みと、このように命を狙う者で最近は忙しいことです」


「あらぁー。ちょうどいいわぁ。生身の練習相手に不自由しないなんて最高よ。さて、レティシア様。皆でお茶にしましょうねぇ。アレクが珍しいお菓子を頂いたのですよ?さきほどの事件はお気になさらぬよう」


「えぇ、ラナ。少しも、気にしていないわ。私も、白魔法の練習が少しできたから。ラナがナイフを投げる前に手足を動けなくしちゃったから」

その言葉に、エマさんは眉をひそめた。


「白魔法で遊んではいけません!!」


僕の憧れの女の子は、最高で最強の王女様なんだ・・・


                                                   

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