第62話 王女様と黒豹

私がオブシディアンと王宮の庭園でじゃれあっていると、視察の同行からハミ君と一緒に帰ってきたゾーイがものすごく怖い顔をして近づいてきたの。


「レティシア様、その動物は危険ですから動いてはいけません。ゾーイがすぐに、助けてさしあげますから・・・」

ゾーイがラナのようにナイフを構えている。ゾーイも投げナイフができるんだって感心している場合じゃないわ!



「だめよ!ゾーイ。そんなことをしたらゾーイのこと嫌いになっちゃうからね!この子はいい子よ。ひと目、見てすぐわかったもん。ね、オブシディアン!」


「仕方ないですね、ハミ君、研究室から麻酔銃を持ってきて」

ゾーイの言葉に、ハミ君は急いで研究室に走っていっちゃった。


遠巻きに見ていた侍女や護衛騎士達は、オロオロしながら私とオブシディアンを見ている。

なんで、そんなに心配するのかしら?大丈夫だって、言っているのに・・・


そこへ、お母様とお父様が公務から戻っていらっしゃった。


「レティシア、黒豹は危険だわ。お願い、離れて」

というお母様は、心底、私を心配して涙目になっていた。お父様は掌に白魔法の魔力を溜めだしたし、ゾーイはハミ君から麻酔銃を受け取って構えている。


「お願い。この子は人間の言葉がわかるの。虐めちゃだめ!」


「「「え?えぇーーーーーー!?」」」


その場にいた皆が、驚きの声をあげた。そんなに驚くことじゃないわ。

だって、私には当たり前のことだったから。私が、仲良くなりたいなと思って話しかけると大抵の動物は答えてくれたから。



「どういう意味だい?レティシアは黒豹の言葉がわかるのか?」

お父様は、それがとても重大なことのように尋ねたの。


「はい、わかります。この子は、外の檻に一人ぼっちで閉じ込められて寂しいって、いつも鳴いていたの。私は、いつか出してあげたいなって、ずっと思っていたのよ」


いつのまにか、外出から戻っていたエマは、さっさとオブシディアンに近寄るとその頭を撫で、私を抱っこしながらお説教したのだった。


「お嬢様、ダンスの授業をおサボりになりましたね?それと、シャンプーしていないペットに抱きついてはいけません!!」


「「「「え?そこ?」」」

ゾーイとハミ君は叫び、お父様とお母様は苦笑して、他の者達は呆れていた。


エマの言うことは、いつだって正しい。私はエマが大好きなんだ。


「そうね、エマの言うとおりだわ。シャンプーして、綺麗なネックレスをつけてあげたいわ。私のお友達っていう印になるでしょう?王家の紋章をつけたネックレス!お父様?いいでしょう?」


「オリビア!どうやら、わたしたちの娘は規格外の大物のようだ。10歳の女の子のペットが黒豹なんて聞いたことがあるかい?カリブ王国の王女様は猛獣使いで、動物の言葉がわかるらしいなどと近隣諸国にでも広まったら面倒だな。いいか、この場にいる者達、今日の出来事を決して外で話してはならない。わかったな?」


その場にいた者達は深く頷いていた。私はオブシディアンと、これから一緒にいられることが嬉しくてその綺麗な毛に顔をすり寄せた。お日様と草原の香りがひろがった。


「かわいそうに、オブシディアンは広大な草原に帰りたいよね?」

そう言った私の顔と手を、オブシディアンは愛おしそうに舐めた。


((大草原よりレティシアの側にいたいよ))


この素晴らしく綺麗な黒豹は、私にそう言うと、さらに嬉しそうに喉を鳴らしたのだった。。












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