第57話 赤ちゃんを宿したオリビア(オリビア視点)

私は、エマとゾーイに支えられて庭園から宮殿に向かっていたが、吐き気がして辛すぎて地面にうずくまってしまった。

オーウェン様が慌てて私を抱き上げて、大声で叫んだ。


「医者だ!医者を呼べ!!」

その言葉にアレクサンダー様は、一言付け加えた。


「お産専門の医者を呼べ!!間違いない。オーウェン殿下の子供の気配が王太子妃様の体から伝わってきている。強力な白い魔力を感じるんだ」


医者が何人も呼ばれて、私の体を丁寧に診察すると、全員がハモるように言った。


「おめでとうございます。ご懐妊なさいました」


オーウェン様は、涙をうっすらと浮かべて優しく微笑んだ。


「オリビア。ありがとう!私たちの子供ができたなんて嬉しすぎて感謝しかないよ」

私も、嬉しくて皆にお礼を言う。エマやラナ、ゾーイやアレクサンダー様、そして私を支えてくれている全ての人に感謝したのだった。





嬉しい妊娠だけれど、体の不調が長い間、続いた。

吐き気がなかなか治まらなくて、腰もいつもだるい気がした。


「オリビア、食べて。スープだけでも飲んでごらん?」

そうオーウェン様に言われて、スープの入ったカップを受け取る。

手を握って、優しく肩を抱かれれば、オーウェン様の愛を充分注いでもらって子供を産める幸せに私は頬を緩めて満足のため息をついた。


大好きな男性の子供が私の体に宿っている喜びは、うまく表現できないわ。

この世の幸せが、いくつもあるだろうなかで、私は最上の幸せを神様からいただいた気分だった。

愛されて、大事にされて、甘やかされて、私と私のお腹の子供は幸せな時間を過ごした。


「早くでておいで。皆が待っている。怖い侍女達もいるが、お父様が守ってあげるから大丈夫だ」

オーウェン様は、侍女達の方をチラリと見てにやりと笑った。


「えぇーー!私は怖くないですよぉ。小さいスローイングナイフを職人に注文したのは、お嬢様のお子様の体操みたいなものです。そう、こうやってナイフを投げるとね、腕の筋肉が発達しますからね。体にとてもいいんですよ」

ラナは、慌てて弁解していた。


「あぁ、私も怖くはない。薬草のサンプルを最近、子供にもわかりやすいようにノートにまとめているのは、その・・・お嬢様の子供が、もしかしたら、おままごとで使うかもと思ってだな・・・いや、なかには、毒草もあるがそれはほら、今後の勉強のために・・・」

ゾーイは、私から目を逸らして窓の外を眺めるフリをした。


エマはすました顔で、一番インパクトがあるかもしれない言葉を言った。

「私は、今、赤ちゃん用のミトンとケープを編んでいるのですよ。ミトンには鉄糸が編み込んでありますからね、多少パンチの練習をしても怪我はしないと思います」


その場にいた皆が、エマの言葉に驚愕していたが、ラナとゾーイだけは違った。


「「さすがです!!エマさん」」

ラナはうっとりし、ゾーイは親指を立てた。


この愛すべき侍女達は私の子供をゴリラ並みに鍛えようとしている。

弱いよりはいいけれど、女の子だったら最強の王女戦士になってしまう。

私はため息をつきながら言うしかなかった。

「ほどほどにね・・・」





いつも、いつも思う。こうやって、私が幸せでいられるのは皆のお陰なのだと。子供が産まれたらいつも言い聞かせよう。どんなに、私が貴方を愛しているかを。貴方は、たくさんの人に愛されて生まれてきたかを。



私は大きく膨れたお腹を撫でながら、エマと一緒に編み物をしていた。

そして、私に波のように繰り返す陣痛が始まり、あまりの痛さに意識が遠のきはじめた。



「まずいぞ!!お腹の子供の力が強大すぎる・・・・・・母体が危ない!!」

切迫したアレクサンダー様の声が、かすかに聞こえて私の目の前は真っ暗になった。


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