第56話 吐き気と目眩に襲われた私(オリビア視点)
オーウェン様は、素晴らしい叡智と行動力で確実にカリブ王国を変えていった。
貴族の特権を少しづつなくしていき、民衆の権利を保護していった。もう、徒に貴族に平民が殺されたり、不当な扱いを受けないように法律は整備され、産業や商業にも力をいれた。
雇用がそこで生まれ、多くの民衆がそこで働き経済が活性化していく。私は、民衆の立場にたって主にお金のことについて助言した。お金のことは、貴族は下品だから口にしてはいけないと言うが、それは間違った概念だ。
多くの民衆は、働くことで日々の糧を得ている。生活をするために働くのだ。働く場所の整備と働き手を適切に守るり所得に応じた税を払ってもらい、それを国民の福利厚生にまわす。そんな仕組みと法律が次々と作られ、誰もが飢えることなく、豊かに暮らせる基盤ができあがっていく。
私とオーウェン様は、そうした改革を進めると同時にお互いの愛を深めていった。
夕方にはいつも、一緒に手を繋ぎながら庭園を散歩する。朝から忙しく政務に追われていた私とオーウェン様の至福の時が夕暮れのこの時間帯だ。
「ほら、いつもオリビアが言っていたご褒美の芸術が始まるよ。今日の夕暮れも綺麗だな」
「そうね。オーウェン様となら、どんな夕暮れも最高に美しいわ!」
私達はお互いに寄り添いあいながら、空を見上げる。
夕焼けの雲は西の空から広がって、半天を茜色に染めあげていく。
少し離れた場所には、いつものように3人の侍女が控えていた。
エマは穏やかに微笑んで同じく夕焼けを眺めていた。ラナは、相変わらずスローイングナイフをいじってアレクサンダー様に怒られたばかりだった。アレクサンダー様は、旅をして歩くのをやめたそうだ。この宮殿に住み着いて白魔道士の育成に関わっている。
「えぇ?ずっと、この王宮にいるのですか?いいのですか?魔道師様はどこの国にも所属せず、加担せず、ではなかったのですか?」
ラナは、迷惑そうな声をあげたが顔は喜びに輝いていた。
「あぁ、依頼があれば、どこの国にでも行かねばならないが、拠点はここカリブ王国にしようと思う。屋敷も王宮の隣に建築中だ」
最近、大きな屋敷を建設しだした隣地を指さした。
「え?あれって、アレクサンダー様のお屋敷だったのですね?なんで、早く教えてくれなかったのです?」
「ん?サプライズにしようと思っていた。が、内装は一緒に住む女性の意見が必要だな。ちょっと、聞いてみないといけないな」
その言葉に、途端に元気をなくしたラナは、そっぽを向いて小さくため息をついた。
「・・・そーいうことかぁ・・・もう、嫌になっちゃうなぁ・・・」
その小さな拗ねたようなつぶやきは、とても子供っぽくて愛らしい。
「だからなぁ、ラナ!この図面を一緒に見てくれないか?どこに私達の子供部屋をつくるか?それが、一番悩ましい」
「ほぇ?子供部屋?誰と誰の?えぇーーーーー?好きだ、とも一度も言われてないですよぉ」
「また、貴女は語尾を伸ばす。ダメだろう?正しい言葉遣いをしないと、子供の教育に悪い」
アレクサンダー様は、ラナの手をとって図面を握らせた。
「さすが、あのいきなり消え失せたポンコツ男の親戚だわ。話が飛びすぎて脳がショートしそうーー」
ゾーイは、顔をしかめて呟いた。ハミルトンがいなくなって、しばらくは落ち込んでいたが今では落ち着いたように見える。
「ハミ君が選択した道です。私は尊重しますよ。本当に彼が私の運命の男なら、いつかきっと、また会えるはずです」
そう言ったゾーイは、気の強いしっかり者の毒薬マニアに戻っていた。
「アレク。プロポーズが先だろう?いきなり、子供部屋の話か?呆れたなぁ。貴方は、魔法は超一流だけれど、恋の類いの手順はめちゃくちゃだな」
オーウェン様が苦笑すると、アレクサンダー様は笑いながら反論した。
「オーウェン殿下こそ、手順が後手、後手かもしれない」
にやりと笑って私を見つめたアレクサンダー様だった。
そして、その言葉に呼応したかのように、途端に私は吐き気に襲われて目眩もしたのだった。
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