第54話 仇敵のクロエの刑(ゾーイ視点)
この女は生きていてはいけない女だった。オリビアお嬢様が情けをかけて命を助けるように、王と王妃に嘆願したのに、恩を仇で返すとはまさにこのことだ。
クロエという女は、どこまでも身勝手だった。
「自分こそが、女王様のように贅沢三昧し一生遊んで面白おかしく暮らすのだ」
牢屋のなかで、そんな言葉をわめき散らしていたらしい。
贅沢三昧する女王様?遊んでばかりで面白おかしく暮らす女王様がいたなら、すぐに革命が起きて処刑されるだろう。
この女は、夢の世界で生きている。おとぎ話なら、女王様はなんでも手に入れて君臨できる存在かもしれない。
だが、現実はそんな生易しいものではない。女王様には民を治めていく叡智と政治的手腕が必要だろうし、貴族達を管理しコントロールしていくのには社交術”と”人たらし的な天性の才能”が不可欠だ。
オリビアお嬢様には、その全てが揃っていると思うが、この女は真逆の存在だった。
この女を、捕らえてあの黒い薬を飲ませた時に戻れるものなら、迷わず最高にきく毒薬を飲ませる。
酷い女だとは思っていたが、ここまで愚かで凶悪だとは思わなかった。
この女の浅ましさと身勝手さには、同情の余地は少しもなかった。
その女が、今この瞬間に処刑されようとしている。
黒い布袋を頭に被せられて、民衆の怒りの声を浴びながら一歩、一歩確実に絞首台を登らされていた。
絞首台は通常よりも、かなり高いものだった。罪人の恐怖をあおるために、罪の重さに比例するという高さはおそらくはマックスだろう。
皆が固唾をのんでこの瞬間を待っていた。登り切ったところで、クロエに神父から言葉がかけられた。
「あなたの罪は、汚らわしい卑劣なものだった。よって、この刑は速やかに執行される。なにか言い残すことはありますか?」
「言い残すこと?みんな、地獄に墜ちればいいわ!!」
クロエの言葉は、民衆の怒りをさらに煽った。
ある意味、一貫している悪女ぶりだった。
そんなクロエが殺されても誰も悲しまないだろう。
☆
クロエの首にゆっくり縄がかけられていく。
太い縄が巻かれ、しばらくの間、放置される。
それは、いつ刑が執行されるかという罪人の不安を煽るものだった。
10分後、クロエの立っている床がバンッツと音をたて、下方に左右に開かれた。
クロエの体は真下に垂直に落ちていき、そのまま動かなくなった。
ボキッという嫌な音まで聞こえてくる気がした。そして、その首はあり得ない方向に曲がっていた。
人々は歓声をあげた。私も、この女がいなくなってすっきりした。
この女がこの世を去ったからと言って、ハミルトンの足が良くなるわけではないけれど、新たに狙われることはなくなる。その恐ろしいまでの執念深さから解き放たれたのは、本当に良かったと思う。
あとは、ハミ君の足がすこしでも動くようになればいいと願うばかりだ。
最近のハミ君は、元気がないから心配だった。
「このまま、車椅子の私を世話するなんて、ゾーイの負担になるからやめていいんだよ?」
と、悲しげな瞳で言う言葉を聞くのは辛い。
ハミ君は、そんなことを気にしなくていいのに。
車椅子でしか移動できないことは、確かに不便ではあるけれどハミ君はハミ君だ。
たとえ、一生このままであっても、私は彼が生きているということだけで嬉しかった。
私の大事な人だ。命をかけて庇ってくれたことには感謝もしている。
けれど、ずっと、一緒にいられると思っていたのは私だけだったのだろうか?
クロエの処刑が済んで一週間後、ハミルトンは姿を消したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます