第52話 悪女すぎるクロエ(オリビア視点)

「ハミルトンが私を庇って・・・馬鹿だわ・・・この人ってばっ!!どうしよう・・・こんなに血が出てる・・・」

ゾーイのいつものクールさはすっかり失われ、子供のように泣きじゃくっていた。


「とにかく、止血しよう。治癒魔法を使う」

アレクサンダー様が、掌に光の粒子を集めて、ハミルトン様の傷に眩い光を注いでいく。

ゾーイは、いつも持っている大きなカバンを馬車から降ろすと、毒の検査器でナイフの表面を測定し嗚咽を漏らした。


「毒が塗られている。神経を麻痺させるものだわ。これじゃぁ、助かっても障害が残るかも・・・どうしよう・・・ハミ君・・・」


「とにかく、精一杯のことをするしかないわ。オーウェン様もアレクサンダー様もいらっしゃるし・・・でも、誰がこんなことを?」


「こいつですよ。クロエです。この女、やっぱり、殺しておけば良かったですわ」

ラナが、足を血まみれにしたクロエを連れてきながら、忌々しげな表情を浮かべた。


ラナは、ハミルトン様が刺されてすぐに、犯人の足にスローイングナイフを投げたのだった。ラナにかかれば、群衆のなかであろうと犯人の足にスローイングナイフを正確に刺すことは容易なことだった。


「クロエ!ハミルトンが死んだら、絶対許さないわ!」

ゾーイは泣きながらクロエを睨み付けて、今にも殺しそうな視線を、向けた。


「ふふふー。あははははっはぁーー。狙ったのはオリビアだったのに、ハミルトンにあたるとはねぇーー。でも、因果応報でしょ?私を妻にしなかったこの男が悪いのですもの。そうよ。そもそも、破産しかけたハミルトンが一番、悪いのよ。私は、美貌の公爵で莫大な財産を持つハミルトンが大好きだったのに!!この男がバカだから私が不幸になったんだ!!オリビアも憎いけど、この男も憎いわ。だけど、なんで地味な侍女のお前が怒るのよ?あんたは、脇役じゃないの?主役は私だったのに!!この私こそが、女王様のように暮らすはずだったんだ。王子はあなたね?どう、私を王太子妃にしてよ。そのオリビアより私の方が絶対可愛いでしょう?」

クロエ様は上目遣いにオーウェン様を見つめて、最高にいい笑顔を浮かべたのだった。


「この女を牢に入れておけ!!」


「なんでよ?私は悪くないわ!!私は公爵令嬢なのよ。なんで、私だけ不幸にならないといけないのよ!!」

叫びながら暴れるクロエ様は、3人がかりで連れていかれた。





宮殿に運ばれたハミルトン様はそれからずっと、意識が戻らないままベッドに横たわっている。


「体内に吸収された麻痺作用のある成分が抜けきるには、数年はかかるかもしれない」とゾーイは言った。

アレクサンダー様やオーウェン様のおかげで、命は助かったがその話を聞いた私達の心は暗く沈んでいくのだった。


ずっとこのまま意識が戻らないのか?と危ぶまれるほどの月日が経った後に、ゾーイの喜びの声がハミルトン様の部屋から聞こえた。

ゾーイは、ずっとハミルトン様に付き添っていたのだ。

「ハミ君!!わかる?私がわかる?」

そう呼びかけているゾーイの声に、私とオーウェン様は急いでその部屋に走り出した。


ハミルトン様はベッドに横たわりながらも、目は開けていて弱々しく微笑んだ。

「あぁ、わかるよ。ゾーイ。君が無事で本当に良かった」

ゾーイは、うれし涙を流しながらハミルトン様を抱きしめたのだった。





ハミルトン様は、命は取り留めたが毒の成分が抜けきらずに足が不自由になってしまった。

ゾーイが車椅子を押して世話をする様子が痛々しい。


「治癒魔法は、毎日施しているし、一生歩けないわけではないと思う。奇跡がおきないわけじゃぁないさ。ハミルトンの気力と頑張りも影響するだろうしね」

アレクサンダー様の言葉に、私達は祈りながらその奇跡を待っている。




そして、私とオーウェン様はこの犯人のクロエ様を裁判にかけることに決めた。


「さて、ハミルトンの命は助かった。しかし、足が不自由になってしまった。神経を麻痺させる毒まで塗ってこの凶行に及んだクロエはどう裁こうか?」

オーウェン様は、私とゾーイ達に向かって尋ねたのだった。





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