第51話 まっ赤に染まったゾーイのドレス

あの試験の日から、私は王太子妃として扱われるようになった。結婚式は、一ヶ月後でパレードも催される。

慌ただしく過ぎていくこの日々のなかで、びっくりすることが二つあった。


一つは、ゾーイとハミルトン様が友人のようになっていること。

もう一つは、アレクサンダー様がラナの保護者のようになっていること。

すごく不思議な光景だったけれど、王宮は賑やかで一層楽しい場所になった。


私と侍女達はすでに王宮に住んでいる。ハミルトン様は毎週、ゾーイに会いに来て薬草の話をしていく。アレクサンダー様はラナに監視されていたが、最近は逆にラナが監視されているようだ。


「こら、スローイングナイフはしまっておきなさい。それと、話し方だが、語尾を伸ばしてはダメだ」

「えぇーー?大きなお世話ですよぉ」

「ほら、そこがダメだ。ですよぉ、ではなくて、です、だ。綺麗な言葉を話しなさい」

「うわぁ、なんでぇ?むかつきますわぁーー」

このようなやりとりが、毎日繰り返されてラナの言葉遣いがとてもおしとやかになった。


結婚式は大聖堂で、高位貴族と王様、王妃様が居並ぶなか厳かに行われた。

「オリビアを妻とし、今日よりいかなる時も共にあることを誓います」

オーウェン様がまず誓いの言葉を述べて、次には二人で言葉を紡ぎだす。

「幸せな時も、困難な時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、死が二人を分かつまで愛し、慈しみ、貞操を守ることを誓います」


盛大な歓声とお祝いの言葉が投げかけられて、私達は手を取り合って天蓋のある馬車に乗った。

オープンな馬車には、ハミルトン様とゾーイ。アレクサンダー様とラナが乗り込んだ。


「王族のパレードは、危険も伴う。だから、カモフラージュも兼ねて、必ず数台の馬車が用意される。今回は、ハミルトンとアレクサンダーがこの役を買って出てくれたんだ」

オーウェン様は、そう説明してくださった。危険が伴うなんて、大丈夫かしら?

私達と一緒に乗り込んだエマは、心配しなくていいと笑顔で言った。


「ラナとゾーイは大丈夫です。アレクサンダー様も腕が立ちますからね」

とエマ。


ハミルトン様のことを、あえて言わなかったエマは、まだハミルトン様が嫌いなようだった。

昔の記憶が消えないそうだ。


私達の馬車はゆっくりと、パレードルートを進み、澄み切った青空のもとでの歓声はいよいよ大きくなる。

そこで事件が起こった。


私達の前を走るゾーイ達の馬車で異変が起きたようだ。歓声は絶叫に代わり、人々が逃げ惑う様子が見えた。兵士達が私達の馬車を守るように取り囲む。


「ハミルトン様がナイフで刺されました。重症です」

そんな報告が私達になされたのだった。


私は、オーウェン様と急いで馬車の外に出た。血まみれのハミルトン様を涙を流しながら支えているゾーイの白いドレスはまっ赤に染まっていた。


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