第48話 王太子妃の試験(オリビア視点)
試験は三日間の間、行われることになった。筆記試験と実技だというが、私は努力してきたので自信はあった。
1日目は、各国の歴史と政治経済についての択一式の試験と一般常識などで筆記試験だった。
「皆様、優秀ですね。全員、満点です!!」
試験官の発表にオーウェン様は、なぜか眉をひそめた。
「皆様、優秀なのですね?」
「ふむ、優秀すぎるな・・・」
オーウェン様の声が黒いオーラに満ちているのはなんでかしら?
私は、オーウェン様の頬に手を当てて私の方にお顔を向かせた。
「オーウェン様。そんな怖いお顔をしてはダメです。私は、穏やかに笑っているオーウェン様のお顔を見るのが大好きですもの」
「うん。もちろん、オリビアの前では怖い顔などできないよ。一緒にいると嬉しくてつい口元が緩んでしまうからね」
私が恥ずかしくなるような甘い言葉を、さらりと言ってのけるオーウェン様は意地悪だわ。だって、私はそんな言葉を聞くと胸がキュンとして、自分の顔が赤く染まるのがわかるから・・・
「この感じだとぉ、お嬢様のお子様はきっと3人はお生まれになりますねぇー。素敵!!私は子供が大好きなんですぅ」
ラナは、うっとりしていた。
「お子様は、正式に婚姻なさってからです。そこは、きっちりしていただけないと!お嬢様の風評を貶めてしまいますからね」
エマはきっぱりとオーウェン様に釘を刺した。
そのエマの言葉にオーウェン様は、しっかりと頷き返していたが、ラナは少しだけむくれていた。
「お嬢様の赤ちゃんなら、ラナは一晩中だってあやせますよぉーー」
私達はその言葉に思わず笑ってしまった。スローイングナイフを投げながら赤ちゃんをあやすラナがコミカルな漫画みたいだったから。
「けれど、全員満点なんて妙だな・・・王太子候補の選抜試験は歴史的には幾度となく行われてきた。その試験の結果の統計を昨日までにとっておいた。
全員満点なんて事例は今まで皆無だ。お嬢様が満点なのは納得だが、あとの5人も全て満点などありえない」
ゾーイは過去の膨大な資料の統計表を作成していて、私達に渡したのだった。
☆
2日目は、実技でのダンスとマナー試験だった。
ダンスは5種類、すべて踊らされた。私は難なくこなしたが、リリアン・ジョシュア公爵令嬢は試験官の足を一回踏み、ステップも数カ所間違えていたように思う。
他の令嬢達も、似たようなものだった。けれど、採点の結果は昨日と同じで全員満点。
「皆様、優秀です。全員、満点です!!」
声を張り上げて採点の結果を伝えるダンスの女性の試験官に、私は不審を抱いてしまった。
☆
「こんなことはあり得ない」
オーウェン様は、昨日にも増してどす黒いオーラに満ちた声をだしていた。
「皆様が優秀なのは、国として誇ってもいいことですわ。私は、いいことだと思います。けれど、今回は少しおかしいですわね」
「お嬢様、少しどころか、これは出来レースな試験ですよ」
ゾーイも、どす黒いオーラに満ちていた。
「あぁ、いいことを思いつきましたぁ。私が昼間に監視しているアレク様の出番じゃありませんかぁ?あの方は各国を旅していますし、その国のダンスもマナーも実体験としてもっているはずですぅ。語学だって、実際、諸国を旅している白魔道師様ですもの。話せない言葉はありませんわ!三日目の明日は語学の会話をテストするのですよねぇ?うふ、あのインチキ令嬢達の鼻を明かしてやりましょう!」
ラナは、悪戯っ子のような笑みを浮かべて手を胸の前ですり合わせた。
「ゾーイ。男性の略称を気軽に呼んではいけませんよ」
ラナとゾーイは、いつものように叫んだ。
「え?そこぉおーーー」
☆
婚姻の公式発表の日から、オーウェン様はいつもベンジャミン家まで送ってくださるようになった。大きな王室専用の馬車で私はオーウェン様の隣に座っている。
前には3人の侍女がいて、エマは窓の外の景色を眺め時折、編み物の編み棒を動かしていた。ラナは、楽しそうに”諸外国の観光名所”の本を読み、ゾーイは”薬にもなる毒薬”の本に夢中だ。
私はオーウェン様に少しだけ寄りかかって、窓の外の移りゆく景色を眺めた。傍らにオーウェン様がいる時の私の目に映るそれは、全てが鮮やかに色づいていた。
木々の葉は、傾きかけた陽に照らされキラキラとひかり、地味に見える野の花さえ特別に感じられた。
ベンジャミン家に着いて、オーウェン様と少しだけ屋敷の庭園を散歩する。私とオーウェン様は手を繋いで空を見上げた。紫陽花色の夕空が朱を含み、自然の芸術を披露している。
「私はこの夕暮れの空が一番好きです。この空をオーウェン様とずっと見ていきたい。明日も、明後日も、10年後も・・・その先も・・・」
「もちろんだよ。私の命がある限りオリビアとは絶対に離れない」
オーウェェン様は私の髪を優しく撫でた。
私は、オーウェン様を愛している。
自分の気持ちを確信した私は、必ずこの愛する男性と一緒になろうと思った。
”オーウェン様に幸せにしてもらう”のじゃなくて”私がオーウェェン様を幸せにする”
ううん、”二人で一緒に幸せになるように努力する”ことが結婚なのかもしれない。
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