第44話 災難のハミルトン(ハミルトン視点)

私は、魔法店で毎日忙しく働いていた。この店では白魔法で使うグッズが多数扱われていた。あらゆる薬のもとになる、薬草もずらりと揃えられていて、多くのお客が来店した。

その中には、オリビアの侍女のゾーイもいた。彼女は週に一回やってきては、薬草を買い込んでいく。そして、聞いたこともない薬品を仕入れろと要求するのだ。


「次回来るときまで、揃えて置いてよね。竜の卵の殻と、雀の涙、人魚の尻尾よ。わかった?」


「え?さっぱり、わからないよ。そんなものが、この世にあるのかい?」

「ないわよ?これは、取引の際に使われる隠語みたいなものよ。どれも薬草だわ。もっと、お勉強なさい!!」

ゾーイはいつも、私を窘めて去って行く。初めはカチンときたが、彼女と話をしていると、毒や薬草の勉強になった。


この店はオリビアの屋敷から馬車で一時間ほどのところにあった。

ゾーイが来るのは、決まって午後で、たまには一緒にお茶もするようになった。

もちろん、店の中でだが・・・


先々週のゾーイは眼鏡をかけていなかった。だて眼鏡だから本当は必要ないらしい。

「これは、私のモチベーションアップのためなの。眼鏡をかけることによって、よりIQが高くなった感覚になるのよ。一種の暗示ね?」

にやりと笑う彼女は、実は色っぽい美女だったことに気がつき私は少しドギマギした。

やはり、美人には弱いんだな・・・・もちろん、もう、容姿だけで好きになることはない。


ゾーイは、博識で研究熱心だった。先週は一緒に店の研究室にこもり彼女の実験を手伝わされた。彼女は私を、最初だけ木偶の坊と読んでいたが、そのうち”ハミルトンさん”になり、今は”ハミ君”になっていた。その呼び名が、嫌ではない私は多分頭がどうかしていると思う。


そして、今日はゾーイが来る日だったことを思い出す。

午後の3時ぐらいかな。買って置いたお菓子をだしてやろう。

そんなことを思って働いていたが、一人の女子生徒が大きな目に涙をいっぱい溜めて私の顔を見つめていた。


「お兄様!!」


いや、待て。私には妹はいないぞ。


「あの・・・実は店長さんが三日前に亡くなった兄にそっくりなんです!!少し思い出に浸らせてください。」


「思い出?浸る?意味がわからないが、思い出は大事かも知れない・・・」

そう言った途端にその女生徒は私に抱きついてきたのだった。

え?なぜ、私は抱きつかれている?

急いで、引き離そうとしたところに店のドアが開かれてアレクサンダーが入って来た。


そして、タイミングが悪いことに、いつもより大分早く来たゾーイが、軽蔑の眼差しでアレクサンダーの後ろで私を睨んでいたのだった。


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