第40話 やっぱり私のお嬢様は最高(エマ視点)

「オリビア!なんで、こんなことになったんだ?貴方は、第一王子殿下か?噂は聞いているよ。どれもよくないものばかりだがね」


「アレクサンダー殿。君の服から毒花の香りがしたとゾーイが言っているが、最近、毒花に触ったことは?」

オーウェン王子が問うと、事も無げにアレクサンダー様は答えた。


「毒花か。いつも、常備している花だ。私の魔法店の裏庭で育ててもいる。花は捨てるが葉が貴重でね。高等魔法で使うことがよくある。なぜ、そんなことを聞く?」


「オリビアが飲んだのは、その毒花をすり潰したものだ。白魔道師様がこれほど汚いことに手を貸すとは残念だよ」


「なにを言っている?だいたい、第一王子殿下こそ、嫉妬のために第2王子にいろいろしてきたらしいな?恥ずかしいとは思わないのか?」


「なんのことだか、さっぱりわからない。アレクサンダー殿。貴方はお偉い魔道師様のくせに一国の王の継承権にまで興味があるのか?本来、魔道師はどの国にも属さず誰にも加担しない中立な存在であるべきだろう?」


「もちろんだ。だが、”殺人鬼のような男”が王になることには賛成はできない」


”殺人鬼のような男”とは誰のこと?

私はオーウェン王子の隠し部屋を思い出していた。

地下には、手入れの行き届いた剣とナイフ。そして、本棚の奥の隠し扉には、さまざまなジャンルの書物が収められていた。毒に関する本もあった気がする。まさか、この男こそが犯人だとしたら・・・お嬢様はこのオーウエン王子に毒を盛られたのかしら?



「アレクサンダー。どうしたのですか?」

気の弱そうな美人が、なよっとした風情で、儚げに宮殿から歩いてきた。


「叔母上、寝ていてください。お加減が悪いのでしょう?」

アレクサンダー様はその女性を支えている。あれが側妃か。虫も殺さぬような風情だが・・・


「いい加減、お体が弱いふりをなさるのはやめたらいかがですか?見ていてイライラしてくる!!貴女が夜中に馬を走らせ男に密会しているのを私は何度も見ている!」

オーウェン王子は詰め寄るが、側妃は、あろうことかその場で泣き出した。


私、エマは、窮地に立たされて泣く女は信用できないと思っている。


「酷いわ。アレクサンダー。この第一王子殿下はいつもこうなのです。あることないこと、嘘をいい、人を惑わすのが得意なのです。幼い頃は平気でアイザックの子犬も殺した。アイザックは常に暗殺されそうな危険があったの。”殺人鬼のような男”に、いつも怯えながら暮らしていたわ!!」


「あぁ、麗しい側妃様。あなたは、嘘がとても上手だ。感動したよ」

そうオーウエン様が言うと、アレクサンダー様の手から光が飛んだ。

凝縮した眩い光は、オーウエン様のさらに眩しい青い光にはじき返された。


まさか、白魔道師様の光を跳ね返すとは?

このオーウエン王子の魔力は強大すぎる。


二人とも一歩も引かない姿勢で、魔力を放出しあっている。

このような王宮の庭園で、強大な魔道師同士の戦いは確実にこの城を破壊するに違いない。

この戦いが続けば、このカリブ王国すら壊滅するかもしれないと思った。


この二人の男達は戦ってはいけない。そもそもの原因は・・・第2王子の顔を見ると・・・信じられない・・・喜びに顔を輝かせている。まるで、子供が漫画のヒーローものを読むときのように・・・

そして、側妃を見れば、こちらは興味なさげに欠伸をしていたのだった。


あぁ、血の気の多い男達って、たまに物事の本質から逸れてしまうようだわ・・・

私は、重いため息をつくと、オーウエン王子から渡されたお嬢様の顔色を確かめて、お嬢様の背中のツボを軽く突いた。目を覚まさせたのだった。


お嬢様しかこの二人は止められないはずだから・・・

お嬢様は、ゆっくりとお目覚めになった。そして、私がざっと事のあらましを説明すると、毅然とした口調でこうおっしゃったのだった。


「二人ともやめて!!貴方達が戦って得をするのは誰かしら?」





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