第39話 アレクサンダー様は敵?(ラナ視点)

私は、お嬢様が死ぬかもしれないと思ったあの時、この世の終わりのような絶望感を味わった。

お嬢様の側だけが私の居場所なのだから。その温かい居場所にはなんでもあった。

同僚のエマやゾーイは好きだし、お嬢様はかけがえのない存在だ。ベンジャミン家の当主ご夫妻も、家族のように接してくれた。だから、もし、お嬢様が亡くなったら、私も後を追うかもしれない。でも、その前に犯人を皆殺しにしてからだ。


私はゾーイと王宮の庭園で腰を下ろして、お嬢様を狙った犯人をどうやってあぶりだすかを相談していた。

すると、お嬢様に絶対恋をしていると思われる男性が宮殿からあの嫌な奴と親しげに話しながら歩いてきたのだった。


アイザック第2王子とアレクサンダー・マジーク伯爵だ。一体、二人にどんな繋がりがあるというのか・・・


アレクサンダー様は、私達に気がつき、爽やかな笑顔で近づいてきた。


「やぁ、貴女達はオリビア嬢の侍女だよね?こんなところで会うなんて思ってもいなかったよ。今日はここで何をしているのだい?」


「お前には、関係のないことだ!!」

ゾーイは、なぜか急に殺意を漂わせて、怒気に満ちた声をあげ目を細めた。

ゾーイの戦闘態勢になったときの緊張感がはしる。

やばいわぁ。ゾーイったら、どうしたのかしら?


「ゾーイ、貴女はお嬢様の様子を見に行って。回復力を助けるスープでも特別調合してよ。ほら、イチゴミルク味の栄養ドリンクでもいいんじゃないかしら?」

私は必死でゾーイの気を逸らした。


ゾーイは無言で、足早にお嬢様の様子を見に行った。

残された私は、とりあえずその場をとりつくろわなければならない。


「今日はお天気も良くて、気持ちがいいですわねぇ?アレクサンダー様は、なぜこちらの宮殿にいらっしゃるのですかぁ?」


「あぁ、私は叔母に会いに来ただけだ。昔から、かわいがってくれた叔母なのでね。私は、いろいろな国に行くので珍しい菓子や花などをたまに持って会いに来るのさ」


「叔母様・・・ですか・・・失礼ですが・・・その叔母様というのは・・・?」

私は、嫌な汗が背中に流れ出すのを感じた。


「私の母上だ」

アイザック第2王子が、胸を反らせて得意げに言う様は、見ていてその横っ面を張り飛ばしたくなるほどむかついたわ。


ということは・・・こいつらは、このアレクサンダーは敵なのかしら?

私は、改めてこのアレクサンダーという男を見つめなおした。

この身のこなしは、相当の剣の達人かもしれない。

白魔道師様というのは、この男のことだったか・・・

私は胃の底から身体が冷えだし、感覚が鋭くなり、戦闘態勢になってしまう。


そこにエマが、私の怒りを鎮めるように肩に手を置いた。

いつのまに、来たのだろう。エマはいつも冷静で、私を叱ってもくれる姉御的存在だ。


「お嬢様は、今第一王子殿下の専属侍女としてこちらに出仕しております」


「そうなのか?ならば、ひと目、オリビア嬢に会ってから帰ろうかな。オリビア嬢は今、どこにいらっしゃるのかな?」

脳天気に微笑むこの男の顔に向かって、スローイングナイフを投げたくなるのを必死で我慢した。

白々しい。絶対、お嬢様の暗殺事件にはこの男が関わっているに違いないわ。


「それは無理ですね。お嬢様は、さきほど死にかけましたので。」

エマは、無表情で氷のような声をだした。


それを聞いたアイザック第2王子の顔を私は、一生忘れないだろう。

その王子は、少しも満悦の表情を隠してはいなかったからだ。

アレクサンダー様は、わざとらしく驚いている。顔も青ざめ、手も震えているようだ。

演技だとしたらたいしたものだ。


「私にオリビア嬢の様態を確認させてくれ!!私は、白魔道師だ!!なんとか、できるはずだ!!」


「それは、必要ありませんよ」

オーウェン王子はエマの後ろにいつのまにか立っている。

まだ眠ったままのオリビアお嬢様を抱きかかえたオーウェン王子は、ゆっくりとアレクサンダ様ーに近づくと、それこそブリザードのような声で言ったのだった。




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