第13話 パリノ家を去って行く私と謎の男性(オリビア視点)))
翌日、私はエマ達に荷物をまとめさせていた。
昨夜の騒動の後すぐに実家に使者を送ったので、お父様が男爵家から私専用の馬車を寄こしてくれていた。
ハミルトン様は、次から次へと荷物を運び出すエマ達を憮然とした表情で見ていた。
そこへ、1台の見慣れない馬車がパリノ家にやって来たのだ。
綺麗な女性が降りて来て、屋敷に優雅に歩いてくる。
「まぁ~、なんて綺麗な方かしらぁ。ハミルトン、絶世の美女を奥方にしたという噂は本当だったのね?」
「姉上!いきなり、来られるとはなにかあったのですか?」
「えぇ、ちょっと旦那様がこの国に所用があるというのでね。弟のお嫁さんに会いたくて来ちゃったわ?・・・あなたがオリビアさんね?初めまして!会いたかったわ。あなたのお陰でパリノ家は安泰だわ。あら、どこかに旅行でも行くの?」
私の荷物を見て、義理の姉になるはずだった女性は驚いた表情を浮かべていた。
「はい、オリビアお嬢様は実家に戻られます」
エマが、私とグレース様の間に、私を守るように立ちはだかった。
グレース様は、ハミルトン様を訝しげに見て首を傾げている。
「なに、ちょっとした痴話喧嘩ですよ。すぐに、戻ってくるに決まっている」
そのハミルトン様の言葉に、エマは刺すような視線を向けた。
「まぁ、まぁ、オリビアさん。少しだけ、時間をいただけない?お茶だけでも、一緒に飲みたいわ」
私は、小さく頷いてグレース様に優しく肩を抱きかかえられるようにされて屋敷に戻った。
もちろん、エマ達は、私をいつでも守れるような位置でついてきている。
「なにをしたの?ハミルトン?」
グレース様が紅茶にミルクを入れながら尋ねた。
「たいしたことじゃないのです。夫婦の閨で、名前を呼び間違えたぐらいで実家に帰るなんて!拗ねるにも大袈裟すぎる!」
私を睨み付けながら、恨めしげにつぶやいたハミルトン様の頬を叩いたのはグレース様だった。
「ハミルトン!妻の名前を間違ったというの?お前は負債を抱えていた自分の立場がわかっているの?」
「は?私はこのパリノ公爵家の当主だ。負債はベンジャミン家が返済してくれたから今はない。そうだ。オリビア、今日だけ一緒に寝てくれればいい。妊娠させるだけだから。妊娠したら実家に戻って離婚してもかまわない。ただし、子供はこちらで育てるが・・・」
「え?ハミルトン!お前は何を言い出すの?」
グレース様の唇が震え、顔も紙のように白くなっていく。
エマをはじめ3人の侍女達は、殺気立っている。
なおも、ハミルトン様は当然のように話を続けた。
「子供はパリノ家で育てる。お金の援助は子供をこちらで引き取るから、もちろん続けてもらう。男子なら公爵家の跡取りだ。悪い話ではないだろう?」
ハミルトン様が話を続けるなか、エマは私の手を取って馬車へと連れていこうとした。
「屑の戯言です。お嬢様のお耳が汚れます」
私は、ゆっくりとソファから立ち上がった。
もう二度と来ることはないであろう部屋を見回した。
あれほど、寛げて心が温かくなるような部屋にしたというのに、今はただ色あせて冷たい空間に見える。
「さようなら。クロエ様とお幸せになれることを祈っておりますわ」
私はハミルトン様の顔をじっと見つめた。
もう、なんの感情もこの男性には湧いてこなかった。
ベンジャミン家の馬車に向かって歩いていると、一台の豪奢な馬車がパリノ家に入って来た。
その馬車の仕様を見ると、ベンジャミン家と同格の富を持つ者に違いない。
私は、馬車からゆっくりと降りて来た人物と目が合った。
精悍な顔立ちで、ブラウンの髪と瞳はブルーにもグレーにも見える落ち着いた色だ。
整った男らしい顔立ちは、美しいというよりは、野性的だった。
この男性は誰なの?そして、なにをしにパリノ家に来たのかしら?
(※ハミルトンの姉上の名前はグレース・イザリアです。)
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