第11話 砕け散った恋心(オリビア視点)

ハミルトン様が外出からお戻りになったが、ずいぶんと顔色が悪く見えた。


「お帰りなさいませ。どちらにお出かけになっていたのですか?」

私は、心配でつい聞いてしまった。特に詮索する気はなかったけれど・・・


「どこでもいいだろう?ところでだ、今日は、貴女の寝室に行くつもりだ」

憮然としたハミルトン様の声に私も緊張がはしった。


「はい。え?なんて、仰いまして?」


「私は貴女との子供がほしい。だから、今日はそちらの寝室に行く。以上だ」


まるで、業務連絡のようなその言葉に唖然としていると、もう目の前からいなくなっていた。


「どうしょう?エマ?」

私は、侍女のエマのエプロンを思わず引っ張っていた。子供のように。

エマは、しばらく考え込んでいたが、きっぱりと私の目を見つめてこう言ったの。


「お嬢様が傷つくようなことは、けっしてこのエマがさせませんとも!!大丈夫です。お任せください」


「まぁ、とにかく、お嬢様、こういうときには温かいお風呂にはいってその輝く美貌をさらに磨きましょう。あのでくのぼうにもお嬢様の美しさがわかるように!」


私は、薔薇の花を浮かべた浴室で侍女達に身体のすみずみまで綺麗にされた。香油もたっぷり塗られて薔薇の香りが全身から漂う。


「どこの王国の姫君もお嬢様の美貌にはかないません」

私がベンジャミン家から連れてきた3人の侍女達が、口々に褒めてくれた。

エマをはじめとしたこの3人は、私が子供の頃から仕えてくれた家族のような大切な侍女たちだった。





ハミルトン様が入室してくると、ゆっくりと私に近づいてくる。

優しくキスをすることもなく、愛も囁かれずいきなりベッドに押し倒してきた。


「え?ちょっと、待って。ハミルトン様?」


次の瞬間、私が恋い焦がれていた男性は、私を”クロエ”と呼んだ。


それと同時に、いきなりドアが開いてエマをはじめとした私の侍女3人がどっと部屋に入ってきた。彼女達は私の上に覆い被さっていたハミルトン様を引き剥がす。


「さきほど調べましたところ、今日は初夜には縁起が悪いお日にちのようです」

エマは私に、そっとガウンを掛けてくれた。


「邪魔をする気か?使用人の分際で?パリノ公爵家の当主の私に向かって!!お前らはむち打ちの刑にしたうえ、奴隷にしてやる!!」


私の心のなかで、なにかがはじけて砕け散った。それはハミルトン様に対する恋心なのだと思う。


大きな声で騒ぐハミルトン様の頬を、思いっきりひっぱたいたのは私の手だった。


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