第7話 全てを手に入れたいクロエ(クロエ視点)
ハミルトン様と婚約解消をしてからの、この半年間はもちろん素敵な男性を探していたわ。
顔が綺麗で見栄えがいいだけの男はいる。爵位が高いだけの男もいるし、お金があるだけの男もいるのよ。
けれど、この三つが全て揃っている男って、なかなかいないのよ。
私はこれを”黄金の三条件とよんでいるの。女なら、誰だってそれを望んでいるでしょう?
だって、女は結婚する男によって生活レベルが決まるのよ?
お金は絶対必要だし、見栄えがいい方が一緒にいて楽しいし、ほら、”勝った”って気になるでしょ?
爵位も当然いるわよね?だって、平民になるなんて嫌だもの。
私は、美貌の背の高い素敵な夫に甘やかされて優雅に生活をしたいのよ。
多くの侍女達に傅かれて、女王様のように暮らすのが夢だわ。
☆
ランドン家は公爵の爵位はあっても、経済状況はあまり良くないの。
お父様にもう少し、商才のようなものがあれば良かったのに、ただ愚直に領地を治めるだけでは莫大なお金は入ってこないわ。私と兄(クロエの兄のダニエル・ランドンは双子です)は、お父様に魅了の魔法をかけている。
だって、お父様って堅実すぎて思うようにお金を使わせてくれなかったから。
魔法をかけたら、私達の言うことをなんでも聞くようになってすごく生活しやすくなったのよ?
私と兄は、物心がついた時から魅了の魔法が使えることに気づいていた。
けれど、黙っていたし、魔法の測定値は兄と協力してなんとか誤魔化したわ。
どうせ、3人ぐらいにしか、かけられない魔法だものいいよね?
魅了の魔法が使えるとばれたら、すぐに”お偉い魔導師様”のところに連れていかれ、その力を無効化されてしまうもの。
せっかく、神様がくれたこの力をむざむざ失うなんてバカみたいじゃない?
これは黒魔法じゃないわ。神様がくださった祝福でしょう?
(※カリブ王国では、魅了の魔法は黒魔術とされています。身分に関係なく5歳になると皆、魔法の測定検査を受けさせられます。白魔法が使える者は魔道士として修行し、治癒魔法を極め、さらに黒魔法をも解ける力を持った者が魔導師とされます。魔導師様はこの世界では、ほんの数人しかいません。そして、どこの国でも尊敬されているけれど、その名も顔も公には明らかにはされていません。)
お兄様は、頭が良くていつもいい作戦を思いつくから大好きだわ。
お母様は、私達を産むときに亡くなったから寂しかったけれど、この魅了の魔法とお兄様がいたおかげで快適に過ごせた。
お父様とハミルトン様にかけた魔法の他に、あともう一人私の未来の夫にかけないとね!
いい男を見つけたのは、ハミルトン様と婚約破棄してすぐの時だった。
王家主催の夜会におめかししていったら、すごく威圧感がある美男子がいたのよ。
なんていうのかな?ワイルドな感じ?遠い異国の伯爵だというけれど、王族までその男性に気を遣っていた。
ということは、多分、大富豪の異国の伯爵様に違いない。
名前はアレクサンダー・マジーク様というらしい。
私は、アレクサンダー様の容姿も気に入ったわ。ハミルトン様とは正反対な容姿かも。
ハミルトン様は麗しいという言葉がぴったりだけれど、この男は違うな。
精悍な顔立ちで、ブラウンの髪と瞳はブルーにもグレーにも見える落ち着いた色。
整った男らしい顔立ちは、美しいというよりは、野性的。しなやかな身体をもつ捕食者のようだわ。
背もかなり高くて、鍛えている身体つきは理想的だった。
私は、さりげなくアレクサンダー様に近づく。
「あの、あなたはマーク様じゃないかしら?ほら、この前の夜会で踊ったでしょう?」
私が言ったその言葉は、もちろん嘘だ。知り合うきっかけなんて、なんでもいい。
私には、”魅了の魔法”という武器があるもの!
彼は、私の瞳をじっと見つめてくる、そうよ、もっと見つめて!
ほらぁ、あなたは私の虜になるのよぉ~。
「見逃してあげるから、その力は二度と使ってはいけない」
アレクサンダー様は苦笑いをしながら去って行こうとした。
「え?なんのことかしら?」」
私はもう一度魅了の魔法をかけようとして、アレクサンダー様の腕を思わず掴んだ。
アレクサンダー様は、私を汚らわしいものを見るような眼差しで睨みつけて舌打ちしたのよ!
酷いと思うわ。かっこいいからって、なんでもしていいとは限らないわ。
でも、どういうことかしら?なぜ、魅了の魔法がきかないのかな?
今まで、こんなことはなかったのに・・・私の体調が良くないのね。きっと、そうだわ・・・あんな上等な男を逃したことがとても心残りだった。
それから、アレクサンダー様に会うことはなくて、仕方なくアンドリュー・プレイデン侯爵とつきあいはじめた。
背があまり高くなくて少しふっくらめな体型だけど、顔は女の子みたいに可愛いから妥協した。
なんといっても彼の領土には、ダイヤモンド鉱山があるからとてもお金持ちなのよ。
魅了の魔法で虜にしたわ。
でもねぇー。冴えないのよねぇ。もっと、他の女が嫉妬するぐらいの美貌な男が夫じゃないとつまらないな。
そう思いながら過ごしていたら、吉報が舞い込んできたわけ。
ハミルトン様の領土がすごい産業の拠点地になっていて、前より一層大金持ちになったって。
すごいわ、待っていたわよ、この時を!(あはははは~)
どうせ、奥方は男爵家の娘だし元は平民じゃない?離婚させればいいわ。
そうだわ、お兄様に相談してみよう。早速、私はお兄様の部屋をノックする。
お兄様は私の話を聞きながら、満足げに頷いている。
そういう時は、大抵、素晴らしいアイディアがお兄様の頭に閃いたってことなのよ。
「あぁ、いいことを考えたよ?ほら、クロエはハミルトンと一緒になればいい。私はそのオリビアという大富豪の娘を妻にすれば皆が幸せになる。だろう?」
「ほんとだわ!さすが、お兄様だわ!」
ほんとに、素晴らしいアイディアだわ。私はハミルトン様を夫にして全てを手に入れる。
美貌の夫もお金も爵位もね。お兄様も、美貌の妻とお金を手に入れる。
みんなが幸せになれるでしょう?
ハミルトン様もオリビア様も、魅了の魔法で虜になっていれば、幸せな気分でいられるのだから、問題はないと思う。むしろ、私達に感謝するべきよ。
私は、鼻歌を歌いながら手紙を書いたわ。
「愛おしいハミルトン様、デートの時に以前よく待ち合わせをした場所でお待ちしていますわ。私達の真実の愛を育んだ薔薇の庭園の”ひ・み・つ”の場所で」
侍女にパリノ公爵家に持って行かせたわ。うふふ、楽しみだわ。
あら、日にちを書くのを忘れたかも・・・まぁ、いいわ、必ずハミルトン様は聞いてくるはず、会う日にちをね。
あ、ハミルトン様が毎日その場所に行って、ずっと私を待っているのも悪くないわねぇ。
私を恋い焦がれて、薔薇の庭園でずっと美貌の男が待っているなんてすごく素敵だわ!
なんて、気分がいいの?ロマンチックよね?
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