第5話 黒魔女呼ばわりされた私(オリビア視点)

私は、このお屋敷でとても煙たがれているようだ。

けれど、どんなに嫌われようと、やるべきことはしなくてはならない。


「この家のあらゆる帳簿や請求書類をチェックします。こちらに持ってくるように」

最初は渋っていた執事達も『持ってこないのなら、ベンジャミン家からは一切お金は出しませんよ』と言うと続々とつけ払いの証書やら請求書を持ってきた。

なんと、驚くことに、毎日のようにドレスや宝石を買っていたことがわかった。


「これは、大変な金額ではありませんか!それに、毎日のように観劇やオペラに行くなんて…」

クロエ様に、これほど貢がれていたとは・・・これほどまでに夢中だったとは…



私は、お父様からお金の管理の仕方を幼い頃から学んできた。

一介の商人が大富豪になれたのは、お父様の手腕と発想力のおかげだった。

加えて、お金の動きを常にみずから管理し、他人任せにしないということだ。



私が、自室で帳簿や請求書を綿密にチェックしていると、ハミルトン様がノックもせずにいきなり入ってきた。

「なにを、勝手なことをしている?」

ハミルトン様は、顔を怒りで歪ませていた。


「お言葉ですが、ベンジャミン家のお金を融通するのです。私がチェックするのは当然だと思います」


「むぅ。生意気だな、女のくせに!」


「女だから、お金の勘定をしてはいけないのですか?」

私は、穏やかな口調でハミルトン様に尋ねた。


「平民出身だと、これほど品がないのか?貴族の常識も知らないのだな?女だからというよりは、高貴な生まれの者は、お金の話題はするものじゃぁない。下品なことなのだ。まして、公爵夫人みずからが、金勘定をするなど恥ずかしいことだと思わないのか?」



「恥ずかしいですか?そうは、思いません。お金の流れを正確に把握しておくのは生きるためには必要なことですよ」


「ふん。”見た目も冴えない”うえに、金勘定が得意な下品な女が妻とは!神様、私がどんな罪を犯したというのです?」

ハミルトン様は天を仰いでいる。


私は、愛する男性に呆れられて、目の前で天を仰がれたの。

これには、私の侍女達だけでなくパリノ公爵家の使用人達も芯から驚いているようだった。



「「「あのぅ~公爵様、なにか悪いものでも召し上がりましたか?奥様は素晴らしい美貌の女性かと思われますが…」」」

パリノ家の使用人達が口々に言った。


「はっ!!なにをバカなことを!この女に魅了の魔法でもかけられたか?あぁ、さては、ベンジャミン家は邪道な魔法を使えるのか?だから、怪しげな発明をいくつも思いつき大富豪になれたのか!なんて、恐ろしい一族だ。この国では魅了の魔法を使う者は死罪だぞ。貴女は黒い魔女なのか?」


「公爵様!お言葉が過ぎますぞ!」

国外に逃亡した筆頭執事の代わりにその地位になったルーカスが窘めた。

私は、愛する人から黒い魔女呼ばわりされたの。


なぜ、パリノ公爵家をたてなおそうとしている私にそんな言葉が言えるのだろう?

好きな人にこれほど嫌われるなんて思ってもみなかった。



悲しいけれどハミルトン様の心には他の令嬢がいる。けれど、泣いたからといって、ハミルトン様の心が手に入るわけではない。


だから、涙が出そうになったけれど、私は無理に微笑んだ。


どんな時でも微笑んでいれば、きっといいことがあるはずだわ。

例え、心のなかでは、泣いていても・・・



(※この異世界では、黒い魔法と白い魔法があります。黒い魔法は”魅了の魔法”などを使い人を惑わしたり、陥れるものです。この世界では禁止されています。白い魔法は治癒魔法などで、それを駆使でき、さらに黒魔法を解ける力を持つ者は魔道師様と呼ばれて尊敬されます)


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