第2話 悲しい結婚式をした私

婚約期間は短く、その間にデートしたのは1回だけだった。


「今日のデートは、どこに連れて行って頂けるのですか?」

私はデートの時に、さっさと前を歩くハミルトン様に急いでついていく。


「今日は、クロエ(※ハミルトン様の元婚約者)が好きだった公園に行こうと思う」

ハミルトン様は、懐かしそうに頬を緩ませ元婚約者の思い出に浸っているようだった。


そんなに、クロエ様が好きだったんだ。でも、クロエ様から婚約破棄されたって聞いたけれど、私ならハミルトン様が例え破産したとしても、一緒になりたいと思うのに‥‥


公園には色とりどりの薔薇が咲き乱れて、とても美しかったけれど、私にはどの薔薇も沈んだ色に見えた。私の心のように‥‥







結婚式は盛大に行われたが、ハミルトン様はニコリともしない。それどころか、私を見ようともしないのだった。


「「「まぁ、なんて美男美女のカップルでしょう。本当にお似合いだわ」」」」


「「「「でも、公爵家と元平民の男爵家が縁を結ぶなんて、あり得ないことですわよ?」」」」


「「「「ミス・カレブを母親に持つ大富豪の男爵令嬢と破産寸前の公爵だろう?釣り合いはとれているな」」」」


さまざまな、密やかな会話がつぶやかれるなか、式は厳かに行われた。ハミルトン様は無表情に前を見つめたままだけれど。


「誓いのキスを‥‥」


その言葉にも、ハミルトン様は反応しない。周りが、ざわざわと騒ぎ出すので、やっとハミルトン様は私に軽くキスをした。結婚式が、こんなに悲しいものだなんて知らなかった。幼い頃から結婚式にはとても憧れていたのに。私が誠心誠意、ハミルトン様に尽くせば振り向いてくださるのかしら?それとも‥‥。



悲しい気分でいると私の瞳から一粒の涙が流れた。参列者からは、”ほぉ~~”と感嘆のため息が漏れた。


「「「さすが、ミス・カレブのお母様のお若い頃にそっくりですわ」」」


そんな言葉が飛び交っていると、ハミルトン様は私を侮蔑するように微笑んだ。


「さすが、大富豪のお父様だな。金で風評も手に入るのか?貴女のような冴えない女が、ミス・カレブの若い頃にそっっくりだって?どこまで、図々しいんだ!」


ハミルトン様は、なぜそこまで私を毛嫌いするのだろう?”冴えない女”?生まれ初めて言われたわ‥‥





パリノ公爵家に移り住んでの初日。私は日の当たらない薄暗い部屋(※居間と寝室が続きの間になっている。いわゆるオリビア専用のお部屋ということです)に公爵家の侍女長に案内された。


「奥様の居室と寝室はこちらです。どうぞ、ごゆっくりお休みなさいませ」


案内された部屋は、ホコリが被った日の当たらない、ただ広いだけの殺風景なものだった。


「お嬢様、この部屋は長いこと使われていなかったようですねぇ。お掃除しますので、しばらくお待ちを」

ベンジャミン家から連れてきた侍女3人は、黙々と部屋を綺麗にしていく。


「このお部屋は、あまりにも寂しいですね。このお部屋がお嬢様のお部屋だというのなら、このエマが少しでも過ごしやすいように天井に天窓を備え付けさせます。ベンジャミン家お抱えの建築士や大工、室内装飾の専門家にも依頼しましょう。これでは、お嬢様が持ってきたドレスもカビがはえそうです」

居室に備えられているクローゼットを開けながら、エマは顔をしかめていた。


「そんなに、おおごとにしなくてもいいんじゃない?しばらくは様子をみましょう」

私は、ホコリくさいベッドに腰をおろして途方に暮れるのだった。



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