第三章‧命の重量(вага життя) 中間


 「ありがとう、ここには高血圧と心臓病を治療できるピルと三種類の抗ウイルス薬があります。車の主は医者だったと考えます。」

 高木先生は私が持ってきた薬品を詳しく確認して嬉しそうに伝えた。

 「役に立ててよかったです。そうしたら、村人たちは可哀想な様子で覇遵会を頼らなくても大丈夫です!」

 柚依の話は医者の心に触れたようだ。彼は苦情を言い始めた。

 「実は、みんなは他の物資を薬品と交換することに賛成しません。前、私たちはこの辺りの薬局の薬を全部取った後で、一度更に規模が大きい町に行ってみましたけど、怪物に襲われたせいで三人を損失した。その後で、薬を探しに行きたい人は幾人しかいなかった。みんなは人生の夕方に入る年寄りたちのために、犠牲になるなんて意味がないと思います。しかし、覇遵会の人が現れた後、一部の村人は物資を薬品と交換し始めた。それは私たちがあの暴力団に堪えるわけの一つです。」

 私にとって、高齢者たちはもう未来がない。社会は彼たちが長く生きることを支援できないなら、取捨があってもおかしくない。これは大自然の法則だ。でも、命の重量は人によってかなり違う。

 「健康者の用品を病弱者の薬と取り換えても本当に良いのかな…それぞれ意見があります…」

 「申し訳ありません。ちょっと難しい要求ですが、私たちは重病にかかっている年寄りへお見舞いに行ってもよろしいですか?」

 「うーん、実は、もし若い人が来られるなら、寂しい年寄りたちは嬉しくなりますね。でも、彼たちはちょっと情緒不安定ですから、言動を気にしないでください。」


 「こんにちは。泉お爺さん、ここの三人若い者は村に到着したばかりです。彼たちは貴方の心臓病を治療できる薬も持ってきましたよ!」

 高木先生は私たちを社交室に連れて来て、先ずは親切な笑顔をしたお爺さんに挨拶する。

 「こんにちは。もうご飯を食べた?」

 「はい、食べました。」

 「私の息子は今日、食べ物を捜しに行った。収穫はあるかな…わしのような年寄りはともかく、また三人の若い者が来たので、充分な食べ物をあげないとだめだ。」

 お爺さんの話と苗字で、あのサングラスをかけた男を思い出した。

 「あの、泉さんはお爺さんの息子さんですか?」

 「そうだ。もう彼と会ったの?」

 「はい、泉さんは私たちを前川村に連れて行ってくれたんです。心から感謝します。」

 柚依が話す時は信実の態度でよく他人に友好的な返答をしてもらえる。

 「今、わしたちの未来は若い人に頼るのだ。先生、彼たちをよろしくお願いする。」とお爺さんが先生に伝えた。

 「はい、分かりました。ところで、今日また病気が起きましたか?」

 「朝に二回胸が痛くなっただけ。心配しないで、一日生きられるなら、一日を儲かったと感じる。半年前から、わしはもう死ぬことが怖くない。」

 泉お爺さんが頭をあげて天井を見る。何か追憶していそうだ。医者は十秒待ったが、お爺さんの返事はない。「お大事にしてください。失礼しました。」に言われても、お爺さんは静かなままだ。

 「ハ…泉さんは時々その様子です。一秒前は広い心で喋りますけど、すぐむっつりして、他人の話が聞こえなくなります。」

 「あれはPTSDでしょう?僕は家族を失った時はそうでした…」

 私は紀序くんの頭に手を回した。紀序くんが意気消沈して元気がなかった時、私はこうやって彼を慰める。彼は私に微笑んでいる。

 医者は安楽椅子に座っているお婆さんのほうを向く。「母さん、今日は元気?」

 「友衡、どうして大学行っていない?」

 「母さん、忘れちゃったか?私はもう病院の実習を始めたよ!ここの三人は私の後輩たちだ。見学のために病院に来た。」

 高木先生は私たちを向いて、静かにするようにジェスチャーを作り、お婆さんと話し続ける。

 「母さん、今日の朝ご飯は口に合った?」

 「朝ご飯?なにを食べたか忘れちゃったね。みそ汁とかご飯とか?」

 「ううん、オートミールだ。」

 「オートミール?味のない物でしょう。全然覚えてない。」

 その様子でお婆さんが多分認知症の患者だと判断する。先生はまた少し話し合った後、憂鬱な顔をして私たちのどころへ戻った。

 「あの人は私の母です。三年前に認知症が発病したけど、薬に運動でもう改善しました。今は薬が少ない上に、家族もほぼ亡くなったので、もう行動と記憶の障害が現れました。味覚にも問題がありそうです。」

 「すみません…覇遵会から薬品を買わなかったですか?」

 「買いは買いましたが、認知症への薬品は何種類もあって患者の症状により投与するべきです。今のものは効かなそうです。」

 高木先生はため息をついた。

 「でも、母が記憶喪失になってもいいです。八十歳の高齢者に自分が知っている世界はもう無くなったことを理解させるのは、とても残酷な事です!それより、彼女の記憶を前の幸せな時代にと留まらせるほうがいいです。」

 私たち三人は見合っている。誰も言わないけど、みんなが考えることは同じでしょう…この狂っている世界では、記憶喪失と頭がいかれた人は解脱できるかもしれないよね!

 ここに住んでいる二十一人の年老いた人はみんな慢性病の患者だ。しかも、癌に罹っている人もいる。そう推測したくないけど、もし覇遵会の薬物がなければ、この団体は既に解体してしまった可能性が高い。若くて健康な村人は年寄りの家族がいなければ、他の場所に行くことを選ぶでしょう。ここは安全ゾーンじゃなくて、みんなの行動を制限する有力な政府がないから。

 「高木先生、近くの町にはまだ薬が取れる病院がありますか?」

 「車で東へ一時間半走ると、藤山町に到着できます。あそこには小さくない地方病院があります。役に立つ薬が取れると思います。でも、そんな場所に行きたい人はもういないか。」

 「もし私たちに物資を送って、暫く住ませてくれるなら、あの町に行っても大丈夫です。」

 「何を言っているの?病院は危なすぎるよ?」

 紀序くんは感電したような驚いた顔をした。これは大げさよね?

 「竹島さん、ありがとうございます。でも、全部の村人は若い者にそこまでしてもらいたくないです。」

 「でも、高木先生は医者なので、全ての患者を救いたいでしょう?」

 「そうですけど…人命を救うために人命を傷害しては…」

 高木先生は口調が堅く、私に叱る担任の先生のようだが、柚依の質問を聞くと、ちょっと動揺して明瞭に返事しなかった。あと、彼がわざと視線を外すことも気になった。

 私の母も医者だったから、彼たちにとっては「救民済世」の医者マスクを被ったの日から、患者の命を救うのが天職だということを知っている。多病で残喘を保っている年寄りが一日生き延びれば、一日辛いと感じる上に、他の人の足も引っ張る。たとえそんなことが分かっても、彼たちを捨てることができない。それはが者なのだ。

 五年前に、安楽死の法律は抗議の声に囲まれたままに作られたが、厳しい規定と道徳的な圧力によって、病院が運営できなくなる前に、安楽死を受けた患者は十何人しかいなかった…

 「高木先生、私たちは愛知県から逃亡して無数の危険に遭っても乗り越えてきた。今の場合は、生きたいなら命を賭けるのが必要、でしょう?」

 「薬を捜しに行くことに賛成しません。話し合いたいなら、関さんのところへ連れて行きます。でも、彼の考えは絶対に私と同じです。」

 私たちが危ない場所に行って薬物を捜すという話を聞いた後、高木先生の言った通り、長く長く討論しても、関さんと泉さんは反対した。だから、自分が軍刀術をちょっと見せようと思う。紀序くんが二メートル外から、私のほうに成年男子の腕ぐらい太い木を投げた。木は地に落ちる前に私に流暢に切られた。そういう見事な演出を見ると、大人三人は言葉が出ないほど驚いた。

 しかし、それでまだ足りない。彼たちに柚依が進化者だとも伝えた。彼女の能力は見せにくいのではない。私と紀序くんは彼女の前後から石を投げた。彼女は目を閉じて聴覚で全部の石を避けられた。大人たちは拍手してとまらない、やがて車で私たちを藤山町に送ることに賛成してくれた。任務が完成できるかどうか、次は私たちの能力次第だ。

 私と柚依に比べると、紀序くんは隠せずに消極的な態度を取る。「僕たちは普通の少年と少女、警察でも軍人でもない。民衆を救うのは僕たちの務めじゃない。」或いは「年寄りの命を伸ばしても彼たちを病気に苛ませるだけかも。」と偶に四の五のを抜かす。

 ソ連が滅んだ後、独立したばかりのウクライナは、社会がまだ無秩序なので、沢山のマフィアは組織を結成して地方の経済活動を支配していた。今の日本は昔のウクライナより混乱しているから、覇遵会のような団体があってもおかしくない。覇遵会の支持者を減らさないと、曇島村に行っても彼らに勝てない。だから、今回の任務に失敗してはいけない。


 「私たちは敵を片付けておかないと。安全のため、車から降りないで。」

 泉さんの声がトランシーバラジオから出た。これは村の警察から借りたものだ。

 藤山町の近郊で沢山のゾンビが散歩している。前方で道を開けている泉さんたちは火炎瓶を投げた。でも、目の前のゾンビが焔に呑まれた後、またほかの奴らが接近して来た。道路が狭いせいで、泉さんは暫くトラックを停める他にない。

 「スヴィタ姉、僕たちは車から降りて戦う必要ない?」

 「必要ない。病院の感染者と戦う体力を貯めてね。疫病が起きた時、感染者は先ず病院に送られたから、あそこにはサプライズがある。きっと。」

 「彼たちは大丈夫なの?」と柚依は心配して前方を見続ける。

 泉さんのトラックはもう特殊な改装がされている。彼たちは木板でキャリアの高さを増す上に、木板に城壁みたいな殺人孔もある。二体のゾンビはトラックに向かっているが、車に乗った戦士たちは協力してそれを撃破する。一人が長い鈎でゾンビを固定して、他の人が包丁に付けた棍棒で奴らの頭に刺し込んだり、高度を利用して長柄の鉄鎚で頭を砕いたりする。

 「僕が見た生存者たちの内で、彼たちの戦力が上位だ。」

 「このような戦い方、私のコッサク人の祖先も使ってた。人間はね、英雄の考えは大体同じであるさ。」

 「アウ~アウ」といううるさい吠え声を聞くと、またゾンビの一番忠誠の友達であるゾンビ犬が来ると分かる。ゾンビ猫に比べると、ゾンビ犬はよく遠慮せずに群体で現れたね。幸い、私は昔から犬派じゃない。

 十何匹のゾンビ犬は私たちを包囲している。奴らの大きさはとても差がある。大きいラブラドールから小さいチワワとポメラニアンまで。奴らは首輪を付けているから、私の頭には疑問が生じた||彼たちは飼い主を咬んだか、或いは飼い主に咬まれたか?今まで、進化ウイルスはもう哺乳類間で伝播して、殆んどの哺乳類動物を発病させることが成立した。鳥類と爬虫類が感染することになるのも時間の問題かもしれない。まさか進化ウイルスは、最終的に全部の脊椎動物間で伝播できるものになるのか?

 ゾンビ犬が近づくのを見ると、あの嫌いな少女、絃美何かと言うやつは前端が削られて鋭い、肉を刺した棍棒をみんなに何本か差し出した。彼たちは棍棒を木板の外へ伸ばして揺らしている。まるで犬と遊んでいるみたいだ。

 「彼たちは何をやりたいのか?」

 紀序くんは前方の様子を見たいから、顔を運転席へ伸ばしている。安全の問題がないなら、みんな車を降りて観戦したい。

 肌が糜爛して、毛が抜け落ちたポメラニアンは速くトラックに駆けて来て、跳ねて肉を咬む。結局、棍棒がそのままに突き刺さって、犬の頭を刺しぬいた。犬は地面に落ちて、ちょっと痙攣して動けなくなった。泉さんたちは魚釣りをするように、一匹一匹の犬を殺してくる。

 最後に残った五匹の犬は、目の前の惨状にびっくりした。奴らは大声で吠えているけど、トラックに近づく勇気がない。あのイヤホン少女の顔には、ちょっと怖い微笑みが現れた。彼女はコートのポケットから弾き弓を取り出し、力込んでラブラドールの頭に打ち当てた。犬がつらそうに吠えてすぐ回って逃げた。他の四匹の犬も付いて行った。

 この少女は観察力が優れている。彼女はでたらめに対象を選択するのではなくて、団体で行動するのが好きなゾンビ犬のリーダーを攻撃した。兄貴が逃げると、雑魚も散らばった。しかし、彼女はどうやってラブラドールがリーダだと分かった?常識的に考えて、体が大きい犬はリーダのはずだが、殺されなかった犬の中に秋田犬もいる。直感で当たっただけか…

 アメリカの漫画で遺伝子変異の超能力者は、天気を改変したり、熱を放射したり、念動力で物を移動したりできるが、学校でよく体と精神を鍛えなかったら、最大限に能力を活用できない。能力を持つのと能力を理解して活用するのは、全然別のことだ。もしあの少女は犬の吠え声で群れの序列を判断できるなら、耳だけじゃなく、大脳も進化しているでしょう。

 世界の発展は父が言った通りになるかもしれない。ウイルスに感染する生き物は生存のために、軍備拡張競争を始めて、五十年後、また安定した生態圏を形成する。人類は新世界でどのような役を担うのか?



 天笠紀序の視界(точка зору Норіцуня)


 病院に入ると、二人の看護師さんは出迎えて僕たちを受付に連れて行こうとする。スヴィタ姉は躊躇なく軍刀を払う。二人の頭は斬れて落ちた。

 「すみません、今日は保険証持ってない。」

 僕は笑いたいけど、病院にはどこにもゾンビがいて腐敗の臭いが溢れているので、胃酸が喉に溢れてくる。幸い、病院の外でいつもの防衛対策を取った。かけているマスクは臭いを防いでいる。

 閉鎖空間である病院で戦うのは、町よりかなり難しい。先鋒はまた僕とスヴィタ姉だ。柚依はサバイバルナイフを持っていて、後ろで敵の動きを偵察している。

 幾人かの手術着を着た血まみれのゾンビは僕たちに向かってくる。しかも、メスや鋸を握っている。このアメリカ変態殺人鬼スタイルの奴を見て、思わず二歩後ずさってしまった。

 「彼らは多分感染者に手術をする時、咬まれて死んだのだろう。そして、ウイルスの力で甦生した。そういう訳で手術着を脱がなかった。自分の職務にとても忠実だったわね。」

 スヴィタ姉は一般人より肝が据わっている。外見が奇形で恐ろしい敵に遭っても余裕を持って相手を分析できる。

 僕は進んで攻めようとする時、スヴィタ姉に引っ張って止められた。

 「紀序君、見たでしょう?相手は武器を持ってるわよ!たとえゾンビは脳みそが不自由な生物でも、メスと鋸を闇雲に振っても、あなたを傷つけられるよ!近寄らないで、そこの点滴スタンドで奴らを叩こう。」

 廊下に置いた点滴スタンドの点滴パックには少し点滴が残っている。僕はパックを捨てた。スヴィタ姉と一緒にスタンドを持ち上げる。「一、二、三」と僕たちがガツンとゾンビの頭を砕いた。他のゾンビは無意識に手を振って近づこうとする。でも、僕たちはスタンドで刺して、奴らを後ずさらせた。そして、前の方法を繰り返して、モグラ叩きのように可哀想な医療人員たちを片付けた。

 「なるほど、側にあるものはそう使えるか…」

 「傍にあるものを活用するのは武術の重要な概念だよ!」とスヴィタ姉は点滴スタンドを置いて、人差し指を立てた。

 残念ながら、今は彼女に武術を紹介してもらう時間はない。

 「さっきの声は、あるゾンビを診察室から引き出した!」

 僕は前を指す。廊下のつきあたりまで溢れたゾンビの人数は、二つの野球チームを組めるほどだ。

 「面倒くさい、薬品が燃える恐れがなきゃ、直接モロトフカクテルをおごりたいね!」

 「僕もサブマシンガンで乱射したい。」

 でも、ゾンビは人数が多くてもあまり元気のない敵だ。奴らは動きが鈍くて反応も遅い。長い時間食べていないせいかもしれない。僕とスヴィタ姉はそれほど体力を費やさなくても奴らを倒している。もしみんな安全ゾーンに隠れていれば、一年ぐらい経った後、食べ物を見つけられない悪性感染者たちは飢え死にするかな?と考えずにはいられない。

 私が少し気が散るうちに、ある検査室のドアが開いて、ゾンビが平山へ!

 「やばい…」

 私は手を出さないうちに、ゾンビは後ろの平山さんを攻撃してきた。でも、平山さんはひらりと身をかわして、前蹴りでゾンビの膝裏を蹴った。相手がよろめいて片膝をつくと、彼女はナイフで精確にゾンビの頸椎を断って、てきぱきと連続動作を完成させた。

 「柚依、見事な攻撃!Добри!」

 おかしいね。僕は何回もスヴィタ姉がこの技を使ったところを見たけど、彼女はまだ平山さんに教えていないはずだ。どう見てもこれは上級の技だ。平山さんは直感でこの反撃技をできるの?

 「さっきはびっくりしたけど、スヴィトラナがガスストーブでゾンビを蹴った動作を思い出して、無意識に真似した。」

 「流石に五感強化を持っているのね。また色々な技を教えたいね!」

 スヴィタ姉の話を聞くと、胸がきゅっと痛くなった。敵を偵察できる五感で、平山さんはもう僕たちのチームの重要な役割を務めている。もし彼女の戦闘能力も僕に勝てば、僕はまだ何ができる?まだスヴィタ姉に重んじられるの?

 

 僕たちは殆ど一階のゾンビを掃除した後、やっと薬品を集め始められる。

 「Чорт!病院のパワーシステムはもう故障したので、パソコンを起動して薬が倉庫に置いてある位置を捜せないから、分類で一々確認するほかにない。」とスヴィタ姉は電灯、電話、パソコンを使ってみた後で、この病院がもう電力切れだと確認した。

 「激しい風に雨、あと整備に乏しい。電力システムが故障して当たり前だ…でも、病院にはきっと予備用パワーがある。」

 「大丈夫。幸い、今は昼だから、照明いらない。」

 僕たち三人は高木先生のリストに従って、あれこれ薬品をリュクサックに入れた。しかし、誰か先を争って買ったようだ。取られたものが多いから。

 僕たちは薬を捜しながら、保存状態も確かめている。十分ぐらい経った後、疑問が一つ浮かんだ。

 「もし誰かこの病院から薬を取ったなら、どうやって先のゾンビアーミーを通ったの?」

 「一つ可能性ある。医療人員は疫病が抑えられなくなる前に、一部の薬品を携えて逃げたのだ。」

 「そう言えば、服装から見れば、今まで出会ったゾンビは殆ど患者と民衆だ。」と平山さんもスヴィタ姉の考えに賛成した。

 「まだ取っていない薬品ある?早く退院したい。」

 正直言えば、今までゾンビしか遭っていないから、一層不安になった。僕とスヴィタ姉は逃亡した時、できるだけ病院に近づかなかった。感染者が集まる場所には、厄介な怪物がいる確率も高いから、尖った歯に鋭い爪の怪物も今どこかに僕たちを待っているかも。早く逃げ出した方がいい。

 泉さんが待機する時間は上限が五時間だ。彼たちは町の外で待っているが、同じ場所に長く停まったら、感染者を引き寄せやすいから、日が沈む前に村に戻るべきだ。

 「ここに一つ種類の抗ウイルス剤あるだけ、心臓病や糖尿病の薬も足りない。」

スヴィタ姉はリストを持ちながら、ペンを頬に軽く刺している。これは彼女が思考する時の定番だ。

 「私たちは薬品のメイン倉庫に行かないと。」と彼女はちょっとだけ躊躇った後で決めた。

 「でも、総倉庫はどこだろう?」

 スヴィタ姉は壁に貼ってあるお知らせを指す。「薬剤師の仕事の手順がきっとはっきり書いてある。薬の受け渡しとか在庫確認とか補充とか。」

 「メイン倉庫は別棟にあるか…」

 「見つけた薬品をここに置いといて。後で取りに来た。多すぎる薬品を持てば、歩きにくいから。」

 僕はちょっとアラームが設定された腕時計を見る。僕たちが病院に入ってから一時間も過ぎていないのに、なぜそんなに疲れている……


 「電子ロックが付いているなんて、この病院の警備システムは良すぎるさ!」

僕たちはゾンビの包囲から血路を開いて倉庫に到着した。僕は今日まだ怪物に遭っていないから運がいいと感じたばかりだが、電子ロックと厚い鉄門を見て意気消沈した。

 「電源を再起動しないと、ドアを開けない。」

 スヴィタ姉は注意深く電子ロックを確認する。「パスワードも必要だ。このロックはスタンガンで解決できるものじゃない。」

 今すぐ村に戻ることを考えない?僕たちが取った薬品は多くないけど、足りなくもないだろう?僕たちがやるべきことは平山さんの仲間と一緒にやくざたちに抗うことよ!ここで傷つくのは意味がない!」

 「でも、もう病院にいます。もっと薬品を取れば、全員の年寄りを救えます。」

 平山さんは自分の特殊能力に自信があるのか、性格が優しすぎるのか、本当にわからない。いつも他人を助けたかったら、生きているわけがない。

 「紀序くん、私を信じているね?私たちにとって、この病院のゾンビは大した敵じゃない。勇気を出してね!」

 「もし平山さんが戻りたいって言ったら、きっと賛成したでしょう!」

 そういう言葉が口から衝いて出そうだったけど、スヴィタ姉の緑色の目を見ると、言いたいことを我慢した。

 「病院の外で、病院の屋根と庭に集熱パネルが設置してあるのを見ました。予備用電源は多分ソーラーパワーだ。そうしたら、近くの変電所や鉄塔が壊れても、病院の電力システムは止まらない。」

 平山さんは楽観的だね……スヴィタ姉なら、いつも人助けが好きではないから、きっと今回の任務の利益をよく考えただろう。しかし、今まで僕に平山さんを助ける理由を教えてくれていない。まさか平山さんは彼女の家族の情報を持っている?二か月前、確かに彼女は自分の父が生きているけど、どこで身を隠しているか知らないと言っていた…そんな幸運な事でもあるのかな?


 ちょっと時間がかかった後、電源室を発見した。この病院にはスマートグリッドがあるので、太陽光パワーシステムは一部の電力を提供する上に、予備用の電力も貯めている。平山さんが推測した通りに、幾つかのステップで設定すると、病院の電力を復旧できる。

 予備用電源を起動しようとする時、スヴィタ姉が僕を阻んだ。

 「ちょっと待って、心の準備をしといて。電灯がついたら、感染者がまた親睦会を行うかもしれない。気をつけなさい。」

 「とにかく、早く薬品を取って逃げ切ろう!貴女たちも病院で宿泊したくないはずだ。」

 僕が予備用電源の起動ボタンを押して、十秒経った後、再起動成功のグリンライトは点灯した。僕と平山さんは歓呼した。

 「そして、ビルに電源システムを連接すれば大丈夫です。ちょっと待って…薬品倉庫ならB棟にある。」と平山さんがボタンを押した。

 電源制御の端末のスクリーンには「起動成功」というメッセージが現れた。「ご注意ください。B棟の予備用電源が起動しました。断電によって、電器と電子製品が壊れていないか、ご確認をお願いします。」という指示ボイスもある。

 「薬品倉庫の電子ロックのパスワードは、再設定の必要があります。ご注意ください。専用のカードキーをお使いください。」

 「専用のカードキーって何だろう?」

 「心配しないで。倒した医者ゾンビから何枚かのカードキーを取った。」

 スヴィタ姉は少し血が付いたカードキーを僕たちに見せた。三回試した後、やっと正しいカードキーを見つけた。僕たちは指示に従ってパスワードを「1871225」に再設定し終えた。

 「このパスワードは?」

 「私の大好きな女性詩人であるウクライーンカの生年月日なのよ。」

 やっぱりね…スヴィタ姉はいつでも自分の故郷のウクライナを忘れていない。

 「オッケー!これから倉庫に行こう!」

 仕事の終点までもう一歩近くなる。前川村に戻ったら、ちゃんとお湯に浸からないと。


 「さっき、電源システムのお知らせがスピーカーで放送されたようだ。あと電灯が再びついたせいで、ゾンビらも目が覚めたわ。」

 「それなら、もう一度寝させよう!」

 僕はもう感染者を倒すことに慣れていると言っても、ゾンビ群の中の三体の子供を見ると、心が痛む。彼らは時間がもう止まって、体も心も未熟な死者の姿のまま、この世で彷徨うことになった。彼らは死ぬ前に、未来に夢を抱いたの?

 いいんだ。そこまで考えないで。誰も死亡から逃げられない。ゾンビになった子供たちは僕たちほど、何十年の痛みと苦しみを味わい続けることにならない。少なくとも、彼らはいつもこの世での生き方を考えなくても平気だ。

 大疫病が発生したばかりの時と違い、もうゾンビを殺しても悲しみも怒りもない。棍棒を操る時、彼らの弱点と咬み傷の防ぎ方しか考えない。まるで時間通りに働くサラリーマンのように、仕事への疑問も考えもない。

 僕たちはB棟に戻った時、奇形の子供のような小さい怪物が跳ねて来た。彼の手が床まで長いが、片手しか持っていない。上半身が痩せこけたが下半身は筋肉発達だ。この感染者はどうしてこの模様になったのか?

 「気を付けて!早く身を屈めろ!」と平山が警告した。一秒の後、怪物はフックで僕たち三人の頭頂を掠めた。当たらなくて幸いだ。

 怪物はちょっと膝を曲げて、私たちの側面に跳んできて、またフックを。スヴィタ姉は転がって、怪物を近づいて反撃しようとしたが。あいつは間もなく移動した。三発目のフックが来ると、僕は鉄棒で受け流したが、敵の強い力のせいで、立てずに床に座ることになった。

 この怪物は彼の長い手を鞭として振っていて、しかも、優秀なジャンプ力も持っているので、私たちは反撃の暇がない。

 「ピストルを使ったほうがいいかも!」

 私は床に伏せて攻撃を避けながら、平山さんとスヴィタ姉に叫んだ。

 「今は当たりにくい…」

 スヴィタ姉は軍刀で中段の構えを取り、刃で怪物の手を迎えた。でも、敵が中途で攻撃方向を変えたから、彼女は浅い傷を割っただけだ。

 「みんな、先ずはあの化け物のスピードを落としましょ!」と平山さんは腰にあるピストルを抜き出した。

「待って。あいつがそんなに早い、貴女は急所に当たれるの?あいつは一発で倒せないのよ!」

 「私を信じて!」

 平山さんは怪物を見詰め、しゃがんで射撃の姿勢を取った。怪物はまた腕を横に払って打ってきた。今回、あいつは僕たちの腰を攻撃する!

 スヴィタ姉は美しい後方転回で避けた。僕は床で二回転がった。ここの床…腰も背も痛いな。

 「バーン、バーン!」

 平山さんは機会を狙い、怪物が長い腕を振っているうちに二回撃った。スヴィタ姉は矢の如く駆けて、一撃で敵の胸を刺し込んだ。彼女が身を回して、一気に軍刀を抜いて敵の頭を蹴って、やっとこの厄介なやつを片付けた。よかった……

 スヴィタ姉は長い息を吐いた。

 「ふーー病院の中で雑魚ばかりで何か変だなと思ったけど、そういう強敵もいるね!」

 「天笠くん、大丈夫ですか?」と平山さんは私を起こした。

 「傷がありません。僕は体を転んでも打たれても平気ほど鍛えました。」

 「柚依、紀序くん、早く倉庫に入ろう!ドアを閉めることを忘れないで。薬品を取る時、背中が怪物に襲われてほしくないね。私は痴漢撃退スプレー持ってないから。」


 「倉庫には色んな薬品がある。完璧なミッションクリア!Чудово!」

 大量の薬品を見て、スヴィトラナは拍手して、ウクライナ語で自分の嬉しさを伝えた。

 「スヴィトラナ、天笠くん、ありがとうございます。ここまであなたたちが上手に戦ってくれたおかげで依頼を果たした。」

 「柚依、こちらこそ。強敵を倒すことに協力してくれた。時間をかけて訓練を受けたら、怪物たちの天敵になれるわ!」

 彼女たちが互いに感謝するのを聞くと、僕の焦燥感は一気に膨らんできた。僕はあんなに長く鍛えたのに、力も速度も体力もスヴィタ姉に及ばない。平山のやつは、ウイルスに恵まれたので、優秀な身体能力がなくても聡い五感で怪物に敵う。さっき、彼女が時機を見て銃を撃たなかったら、スヴィタ姉は敵に致命的な一撃を与えられなかった。

 これから、彼女たちは計画を作る時、僕の考えを無視して僕を旅の端役にするのか?

 面倒なことに、僕は今でもスヴィタ姉が平山さんを信じるわけがわからない。彼女は普通の優しい少女だけど、信用できる仲間とは言えるか?

 僕がスヴィタ姉に目を向けると、彼女はちょうどおかしい動きをした。彼女は小さいロッカーから薬を取って、少し確認して元に戻したが、考えた後でまた袋に置いた。

 「スヴィタ姉、どうしたの?薬のラベルはハッキリじゃない?」

 「あ、大丈夫。ただこの薬の名前が複雑だから、二回確認したね。」とスヴィタ姉は話した後、ラジオを出した。「泉さんを呼んで、迎えに来るのを頼まないと。」

 私の経験から言うと、スヴィタ姉はきっと何かを隠しているのだ。でも、今回の任務はまた裏がある?疑心暗鬼を生むかも…?

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