第三章‧命の重量(вага життя) 前半


 平山柚依の視界(точка зору Юзуя)


 安全ゾーンから離れた三日目、不安感が私たち三人の間に溢れた。

 「二人は何だかおかしいと感じる?もう三日過ごしたけど、道にゾンビや怪物以外、一人の生存者もいない。まさかみんな身を隠したか?」

 「ここは僻地のせいで、物資を取りにくいか?私たちはずっと山間の道にいるじゃない。」と私は悪く考えないようにするが、怪しいと感じてしまった。

 「大疫病が爆発した後に、都市の難民は資源を保つために、都市から遠くない町に留まったけど、僻地に入る人もきっといた。でなきゃ、この辺りの人がウイルスに感染した最初の経路を説明できない。」

 スヴィトラナの話を聞くと、天笠くんも私も顔色が暗くなった。

 「つまり……」と天笠くんは言葉をよく考えて、今の状況を述べる。「ウイルスが蔓延する速度は政府の計算より速い、だって、人跡が少ない僻地にも未感染者がいない。そうだろう?」

 「政府が嘘を付いていると思う。生きている人も気が狂う窮地に陥ることを防ぐために、偽物のウイルス発生動向報告を作った。」

 スヴィトラナの一直線で鋭い推測を信じるべきか、分からない。私にとって感染者数はぼやけた数値だ。ウイルスに感染する人口は五割も六割も七割も大きい差がない。知り合った人たちが大勢死んで、慣れていた社会にはもう戻れない。

 お父さんとお母さんはまだ生きているの?今はどこにいるの?違う、彼たちは亡くなった。でも、どうして亡くなった…思い出せない、沢山重要なこと思い出せない…

 「平山さん、顔色が凄く白っぽいですね。どうしましたか?平山さん?」と天笠くんが私を何回も呼んだ後で、私はついに現実に戻った。

 「大丈夫です。ただ昨晩に武術を練習した疲れは暫く取れないです。」

 「そうですか、スヴィタ姉の訓練を受けたら、確かに疲れますね。たぶん二時間の体育授業より疲れるかな。時々彼女に、わざと僕をいじめるかって質問したいですね。」

 「紀序くん、学校の体育授業をサボったこと偶にあるね?」

 「ちょっと待って…その推論は根拠があるの?」

 「推論じゃないわ。窓から二回そんな様子を見た。あなたのクラスは体育授業でバスケットボールやバレーボールをやった時、木の下で休んだって。」

 「あれは夏で暑かったから、少し休んだだけだ。もし熱中症になったら大変じゃない?とにかく、学校では真面目だよ!」

 天笠くんは正直な人だから、口調は隠すより現るって感じがする。彼は昨日入れた冷たい紅茶を取り出してごくごく飲んで、気まずさを隠している。家の猫がソファーで爪とぎをするのを見られ、慌てて自分の毛を舐め始めた様子を思い出した。天笠くんはまじで面白い人だ。

 「みんな、気を付けて!」

 スヴィトラナが急にブレーキを踏んだせいで、天笠くんが持っている紅茶は私にかかってしまった。

 「あ、すみません!大丈夫ですか?」

 天笠くんは素早くボトルを閉めて、ウエストバッグからティッシュを取って渡した。

 「大丈夫です。幸い、シートベルトを着用しておきました。スヴィトラナ、なぜ急にブレーキを踏んだんですか?」

 「幾体の猿が道路を通っていたから。」

 私と天笠くんは窓を開けて前を見た。確かに驚いて速く森に駆ける猿たちが幾体いた。

 「あいつらが自由に道路を通った訳は、まさかこの辺りには長い間に人々がいないのか。」

 「それはあり得る。猿はばかじゃないから、もし食べ物なかったら、危険の道路に近づきたくない。」とスヴィトラナは話した後、またアクセルを踏んだ。

 さっきは猿を見るのに専念していたから、自分の服が大部濡れたのに気付かなかった。

 「すみません、服にお茶をかけちゃいました。」と天笠くんは再び謝った。

 「いえいえ、事故だからしょうがない。」

 「服を替えたほうがいい。」とスヴィトラナは後ろへ回って私をちょっと見た。「紀序くんはお茶に砂糖を入れるのが好きだから、後で、服が粘々になるよ。」

 「じゃ、前の小川で服を替えて少し洗おうか。」

 「よし。私も少し休みたい。」と私たちのドライバーがあくびをした。


 「紀序くん、柚依が服を替える時、覗かないでよ!」

 「僕をどんな人と思うか!いつあなた覗いたか?」

 「柚依、すみません。私たちが安全ゾーンを離れる時、ちゃんと服を用意する時間がなかった。暫くこのシャツを着てね。」

 スヴィトラナは私に白に赤い柄のきれいなシャツを渡した。様子から見ると、ある国の民族衣装でしょう。

 「これはウクライナで「ヴィシヴァンカ」と呼ばれる伝統的なシャツだ。ゆるゆるで動きやすいから、ベルトやウェストバッグを締めてもきついと感じないわ。」

 「ありがとうございます。私もこの服は格別だと思う。」

 私はシャツを着ると、服の効果で自分がスヴィトラナとスタイルの大きい差があるのに以前は気づかなかった。私にとって、この服は袖が長くて、胸の部分が広いから、まるで長いコートを着るようだ。

 「袖を巻いてあげる。」とスヴィトラナが優しく私の袖を巻く時、私は彼女の血管が見えるほど白い掌を見る。そんなに美しい手は彼女の父、それとも母からもらったか?知りたくてたまらない。

 「このシャツを見ると、青い空に金色の田があるウクライナが私の心に浮かぶ。あそこはどうなっているのか…」

 「あの、お母さんはウクライナ人?」

 「ううん、父さんから金髪と緑の目をもらった。母さんと似ていない。じゃ、服を洗いに行こう!」

 彼女は私の手を繋いで小川に行く。私は何か安定感を感じる。秋羽の側でしかなかったある安定感を感じる。


 「あそこ、キャンプファイヤーがある!」

 私たちは小川へ向かって、紅茶に浸かった服を洗濯する時、遠い所には柴と火の跡があるのを発見した。急いで仲間に伝えた。

 「この辺りで誰かの気配を感じた?」とスヴィトラナは私に聞くと同時に、ライフルの安全装置を外した。

 「ううん、何も感じていない。」

 「先ずはあそこに行ってみる。でも、気を付けるべきだ。私たちを攻撃しに来る者は感染者だけじゃなく、中には物資を奪いたい生存者がいる。」

 キャンプファイヤーに来た後、天笠くんは鉄棒で柴をかき分けた。内部はまた熱そうだから、キャンプした人は遠く離れていない。

 「僕たちはちょっと生存者を探すのはどうですか?」

 「問題は、私たちはどこに向かえばいいのかってことでしょう?」

 「私たちは運がいい。キャンプした人は小川の中で水や魚をとったようだ。ちょっと見て、川からキャンプファイヤーまでの石は、濡れた砂が付いている。」

 スヴィトラナは足跡らしい跡を指した。天笠くんと私は早速周辺を観察して、彼たちがどこの森に入ったか探してみる。

 「でも、足跡はキャンプファイヤーの近くにあるだけ…」

 「紀序くん、失望しないでね。もし私たちの靴が濡れたら、町を十歩歩いたらはっきり足跡が残るけど、二十歩、三十歩歩いた後は?」

 「うーん…たぶん足跡は残らないか?」

 「そうね。でも、ここにはレンガとアスファルトがない、代わりに土砂があるよ!」

 スヴィトラナは川に行って、水面を踏んで靴の底を水につけた後、戻った。

 「見て、私の靴の底は濡れて土砂が付いている。でも、私がわざと石を踏んで進んだら、何歩か歩いた後、足跡があやふやになっちゃった。それでも、私は今森に入ったら、靴の底がまた汚くなるでしょう。」

 「つまり、彼たちは濡れた靴を履けば、森で土砂を付けて足跡が残りやすいのだ!」と天笠くんはピント来た後、力強く拍手した。

 「でも、私たちはプロのハンターや軍人じゃないから、足跡で追跡するのはちょっと難しいよね?」

 「柚依、どうせエースのあなたがいるから、大まかな方向を見つければ大丈夫だ。」

 スヴィトラナは手を私の肩に置き、兵士をかなり信頼している尉官のようだ。でも、おかしいね。天笠くんはわざと視線を外す。何か思い出したかな?

 

 結局、森で捜査して十分経った後、足跡は見えなくなった。その後、整った道に沿って一時間ぐらいあちこち回っても何も見つけられなかった。私たちはそれ以上時間がなくて、生存者を探すのも優先の事じゃないので、あきらめるしかない。

 まさか何人かの男女が私たちの車の近くに集まって話し合っているとは思わなかった。

 「紀序くん、柚依、武器を取って!私があいつらと交渉しに行く。もし何かあったら、攻撃しなさい。」とスヴィトラナは微かな声で私たちに指示した。そして、彼女は男女グループに少し近づいて叫ぶ。

 「すみません、生存者の方ですか?」

 私と天笠くんは拳銃とクロスボウを握っている。自分の射撃の腕前ではたぶん人を威嚇することしかできない。

 彼たちは声を聞いてびっくりしたけど、どの武器も出さない。「はい、私たちは群馬県の生存者です。どこから来ましたか?」とある中背でも筋肉がモリモリで、サングラスをかけた男性が最初に答えた。

 「山梨県から逃げてきました。他の生存者と会えて嬉しいです。私たちは敵じゃないですから、少し話し合ってもよろしいですか?」

 「もちろんです。私たちも二か月間新しい生存者と出会っていません。私、泉明雄と言います。よろしくお願いします。」


 「そうですか、資源が見つからないので、山梨県から北へ行って他の生存者をさがしたかったのですね。私たちの村―前川村はちょっと遠くて、住民は二百人ぐらいです。」

 スヴィトラナは私たちの事を述べる時、半分程度は嘘だ。「私たちは安全ゾーンから離れて、長野のある暴力団と戦うつもり」ということをどうしても隠さなければならない。彼らは信用できるかまだかわからないから。

 「私には長野の西南の山地に住んでいる親類がいます。あそこは暫く安全だと聞いたので、行こうと思います。」

 「そうですか…でも路程はそんなに長いので、大変危険でしょう。」と泉さんは視線を私たち三人に送る。「三人はまだ十八歳未満ですよね?大人と一緒ならもっと安全です。」

 「もう十八歳になりました。でも、年齢と生き残りとは絶対に関係があると思いません。」とスヴィトラナは冷たく答えた。でも、泉さんの話が善意だったと感じたので、私は早く気分を緩めた。

 「ありがとうございます。私たちはずっと逃亡してかなり苦しいです。もし助けてくれる大人がいれば幸いですね!」

 「その通りです。もっと大人がいるならもっと安全です。」と天笠くんは私に賛成した。

 「よろしければ、是非前川村へ暫く休みに来てください。丁度さっきは川から少なくない魚を捕ったので、秋の美味しい魚で招待できますよ!」

 「でもさ、あなたたちは武器を外しておいてもいい。あたしたちは強盗になるのに興味ない。敵をもっと作りたくもないから。」とイヤホンを付けた端正な顔をした少女は突然口を挟む。「遠い所で話したこと、全部聞いちゃったよ!」

 「見知らぬ人に遭った時、自己防衛の準備をしてもおかしくないでしょう?」とスヴィトラナは直ちに言い返した。

 「ただ自分の考えを示しただけだ。ずっと武器を握っていなくてもいい。」

 「絃美、落ち着いて、相手は脅しも攻撃もしていないので、そんな風に言わないで。」

 「この子はあの…そう、進化者です。凄い聴力を持っているので、一般人より大きい可聴域の音が聞こえます。だから少し敏感です。すみません。気にしないでください。」

 「それなら、どうやって一緒に村に戻りますか?」

 私が話す時も、スヴィトラナはまだあの少女と睨み合っている。

 「車を持っていれば便利です。私たちの小型トラックの後ろに付いてきてください。」


 「あの絃美って女の子、言葉遣いが無礼で下品だ。私たちと年が近いのに。」

 スヴィトラナは運転しながら文句を言っている。天笠くんは頑張って彼女を宥める。

 「そんなに怒らないでね、スヴィタ姉。全ては誤解だから。この環境で、出会ったばかりの人はみんな緊張していて、敵意を抱くのも変なことじゃないさ。」

 「しかし、彼女の特殊能力は何だか気持ち悪い。聴力がそんなに優れているなら、恐らく彼女から百メートル以内で、こっそり話すのもいけないんだ。」

 私は沈黙して前を見続ける。曇島村から離れた後、毎回新しい生存者と出会うと、新しい希望を感じるが、彼たちがこの世で懸命に生き延びようとする姿を見たら、代わりに痛みと悲しみを感じてしまう。例え私はもうゾンビと怪物になった悲惨な運命から逃れても、独善的に生きる以外、何もできない。

 私は一体なんで進化者になったのか?この能力で何かできるのか?


 車で三十分走った後、私たちはタイヤ、ドラム缶、土嚢で一層一層阻まれた道に来た。前方の泉さんが叫んだあと、包丁や消防斧や野球バットを持っている五人の男女が来て、バリケードを移動させるを手伝ってくれた。私たちの車が入ると、彼たちはまたバリケードを戻した。

 もう前川村に到着したと思ったが、車が少し進んだだけで、また停まった。前には伸縮フェンスの門扉がある。民家の囲いから取り外す物のようだ。

 二人は門扉の側の垣から頭を伸ばした。彼たちはライフルやクロスボウを持っている。泉さんは運転席を外れて彼たちと話し始める。

 「後ろの車は私たちと出会った生存者だ。山梨県からって。」

 「新しい生存者か?ゾンビに咬まれていないか?」

 「ないだろう。後で高木先生や佐々木看護師に検査してもらう。」

 この時、私たち三人も前川村の防衛措置について話し合おう。

 「ここの防衛は安全ゾーンに比べられないけど、プロじゃないから十分だ。」

 「あいつ等はもうここにある程度の時間留まっているようだ。このようなバリケードは短時間に完成できない。」

 スヴィトラナはGPSのスクリーンをクリックして、附近の詳しい地図を開く。「ここは間違いなく僻地だ。メインロードは一本道だから、悪性感染者を招かなくて当然。」

 「ドラム缶とタイヤを障害物としたのは賢い。タイヤが燃えた黒い煙は敵の視界を遮られる。私は曇島村に住んでいた時、ゾンビをそうやって阻んだことがある。」

 「オッケー、もう進み続ける。」

 前川の建築は特別なところがない。ただ二軒の民宿を見ただけで観光名所のようではない。あと「心温院」と書いてあり、小さい病院みたいな三階の建物がある。スヴィトラナは泉さんについて駐車場に停まった後、村人たちが私たちに向かってくる。

 「おい、重輔さん、ただいまー!」と泉さんがある強壮な男の肩を叩いた。

 「お疲れ様。あっちの少年と少女は…」と彼は私たちに視線を向ける。「見つけた生存者なの?」

 「そうだ。西南の渓谷で出会ったんだ。」

 この四十歳ぐらいの筋肉男は熊みたいな手を伸ばして、私たち三人と握手する。「俺は関重輔と言う。前川村の臨時村長だ。この村に来てくれてありがとう。ここでゾンビや怪物を心配する必要はない。物資は充分じゃないけど生存に足りるほどだ。どうぞ気兼ねなく休憩してください。」

 関村長は体が泉さんより一周り大きいだけど、顔が温和だ。彼は頼りになる中年男性だと思う。

 「みんな、今回は何をとった?」

 「二十匹の川魚を捕った上に、キノコと山菜も手に入れた。みんなは豊かな晩ご飯を食べれるよ!」

 村人たちは歓呼している。この村の人数から見れば、一人ずつもらえる食べ物が少ないけど、みんなは嬉しい。

 「よし|みんな、魚を冷蔵庫に入れて、夜に料理を作ろう。」と泉さんは魚を入れるボックスを村人に渡した。

 「すみません。みんな、少し準備して。あと一時間、覇遵会の人が物資を徴収しに来るから。」と関さんが腕時計をちょっと見る。

 どういう訳か、村人たちは顔色が暗くなってしまった。覇遵会ってなに?問いかけようかと考えたけど、今は変な雰囲気なので、聞いても答えてくれないって直感がする。

 「みんな、私たちは覇遵会の会員だ。つまり、覇道に遵う戦士だ!現在、もし保護を受けて、安全で穏やかな生活を過ごしたいなら、物資を貢げ!」

 三週間しか会っていなかったらはもう暴力団の名前を付けたか?私はずっと悪人らの顔を覚えている。こいつら、こいつらがと秋羽の仲間を殺したせいで、私たちは分散して逃げるしかなかった。このやろう!

 「水信さん、こんにちは。もう物資を準備しておきましたので、どうぞ検査してください。」

 水信って兄貴は背が高くて痩せている上に、眉目清秀だ。彼の服装はいつも白いシャツと濃色のジーンズだ。彼を見るたびに、ヤクザよりサラリーマンだと感じる。彼は関さんに頭を頷いて、物資を細かく数える。

 「うーん、私たちが欲しい食べ物も服装もある。お疲れ様。」

 「あの…水信さんたちは、あれらの薬を持っていますか?」

 関さんの側のおじさんは小さくて聞きにくい声を出した。

 「当然あるよ!原さん、薬をあげよう!」

 ある華奢で濃いメイクをしている二十代の女性は、肩掛けカバンから幾つかの紙袋を取り出した。でも、彼女は薬を誰にも渡さない。ただ村人の前に見せびらかすために、ちょっとその紙袋を揺らした。

 「水信、あのね、珍しい薬品を全部渡す必要がないね?他の場所には、まだもっと物資を薬品と交換してくれる人たちもいるよ~」

 「そうだね~この小さいな村では、多分いい物が手に入らない。」

 正直に言えば、生まれてからこんなに人にビンタを食らわしたいことはなかった。このやろうは何もせずに話すだけで私を充分怒らせる。

 「お願いします。私たちの母はもう八十歳になりました。慢性病がありますので、薬が必要なのです。」とあのおじさんの奥さんは哀求した。

 「私たちには関係ある?今、誰も自分しか助けられない。薬欲しいなら、自分で取れよ!」とあの女は上目遣いで村人たちを見て、他のヤクザもそれを真似て、大きい声で嘲笑し始めた。

 「自分で頑張らないなら、生きることを諦めてよ!」

 「おい、おじさんとおばさん、黙れよ!今の食べ物と服は少しの薬品にしか値しない。俺たちは難民を救済する義務があるか?」

 でも、可哀そうな村人たちは哀求し続ける。関さんも水信に対して腰を90度に折った。できれば、私は水信のやつらを気絶するまで打とうと思う。私は拳を握り、右の手を無意識にサバイバルナイフの柄に置く。しかし、スヴィトラナは私の肩を掴んだ。

 「まだ手を出してはいけない。私の話を信じて。」

 敵は前にいるのに出撃しない。彼女はどんな計画を考えているの?

 天笠くんも私に近づいて、「もしあいつらを殺すなら…きっと村人たちに攻められます。」と小さな声で警告した。

 私は周りを見る。この村の人々はヤクザに抗う勇気がない。もし私たちがヤクザを片付けるなら、どうして逆に村人に怒られる?でも、仲間がそう言うなら、冒険しないほうがいい。

 「いい。お前らはそんなに可哀想だから、薬を送るさ!ちゃんと覚えといて、今の長野は既に私たち覇遵会の土地だ。近い未来、我々は群馬も埼玉も統制してやろう。覇遵会に従えば、この乱世に生き残れるのだ。」

 まさかこいつらの勢力は群馬まで伸びていたとは思わなかった。私たちは他の生存者の拠点に辿り着いたが、彼たちと一緒に強敵と戦えないかもしれない。


 竹島スヴィトラナの視界(точка зору Світлани)


 敵の正体が分かる前に出撃するのは、きっと賢くない選択だ。この「覇遵会」という暴力団と村人の関係は、単純な「圧制者と圧制された者」じゃなさそうだ。あいつらを殺せば、私たちが悪役になってしまう可能性もある。

 覇遵会の人々がバイクと自動車に乗って離れた後、私はすぐに紀序くんと柚依に次の重要な調査すべき事項を伝える。

 「先ず、なぜ村人たちは薬品が必要か、村の老人はどんな病気を持っているか、解明しなくちゃ。」

 「賛成。もし村人たちがヤクザに頼み事があれば、僕たちの味方になるのは無理だ。」

 「村人…この暴力団はどこまで残酷か知っていないのか?」と柚依は理解不能で頭を揺らした。

 「ある社会の人々が暴虐な支配集団に反抗しないわけは、勢力の差以外、また多くの可能性がある。歴史から見れば、武力だけで政権を維持できる国は少なかった、しかも、長生きできなかった。」

 私は二人を自分に引き寄せ、「次は、情報集めを分担しよう。紀序くん、柚依、あの夫婦と話しに行って。彼らの両親は何か病気があるか、鎌をかけてね。私は関さんと喋ってくるわ。」

 「でも、両親の病気というと、みんなは普通に言いづらいだろう?その上、僕たちは見知らぬ人なのだ。」

 「紀序くん、確かにそうだ。だから、直接に質問しちゃいけない。代わりに、彼らを助けたいふりをする。『今、携えている薬品は少なくないけど、もし役に立てば…』と彼らに伝えたらいい。そうすれば、彼らは両親の状況を詳しく説明して、お見舞いにも連れて行くのよ!」

 「嘘付くのは好きじゃない…でも、それは完璧なプランだと信じる。私たちは偶然に使える薬を持てばいいんだ。」

 「もし調査に失敗したら、また他の方法があるね。覚えている?ここに高木って医者がいて私たちの健康診断を担当する。体が弱い年寄りは間違えなく彼にお世話してもらうでしょう。僕を信じてね。」

 「天笠くんの話を聞いたら、まだ自分が進化者って彼たちに伝えていないことに気付いた…」と柚依が心配して、「彼たちは進化者をどう思うの?私を怖がって嫌うの…?」と私に質問した。

 「彼たちに伝える必要はまだないかも。だって、ここの住民たちは完全に信用できると思っていない。」


 「関さん、すみません。物資を取りに来た無礼で乱暴な人々は?」

 「はい…それは暴力団で、全員進化者みたいだ。」

 「毎月、みかじめ料を取るためにこの村に来ますか?」

 関さんは眉をしかめて少し止まった後、話し続ける。

 「彼たちは二週に一回村に来る。どうせ、彼たちはほしいものが少なくて、俺たちの手に入りにくい薬をくれるから、村人たちは別に嫌いでもない。」

 私は彼が無事なふりをするか疑っているが、すぐに鋭い質問をしない。

 「そうですか…ここには薬を長期服用している人がいますか?」

 「村には老人が多いから、長期で薬がほしい人もうもちろんいるさ。」

 「そうだったら…他の大きい町へ薬を探しに行くのも良い方法かもしれませんね。」

 「だめだ。」と関さんが力を入れて頭を揺らす。「近くの町にある限りの薬局からはもう全て薬品を運んできた。遠い都市なら、危なすぎる。」

 もし安全に食品と服を薬品と交換できれば、村人たちには受け入れられる取引かもしれない。でも、前川村は僻地なので、物資の生産も取得も難しい。彼らは一体どんな訳で辛くても物資を貯めて薬を取るのか?

 「覇遵会の人は、初めて村に来たのはいつですか?」

 「二か月前ぐらい。彼らは初めて来た時、五十人以上の群れを成して物騒だったよ。」

 「なるほど、この集団は計画的に勢力を伸ばし続けるんですね。」

 「どうしたんだ?他のところで彼らと出会ったことある?」

 「いえ、もちろんありません。私はただ集団で行動する進化者たちを見たことないから、知りたいだけです。以上の事を伝えてくださってありがとうございます。」

 関村長が疑いを感じ始める前に、今回の話を中止しようと決めた。彼は何かを隠していそうだったけど、もうほしい情報は得た。


 「スヴィタ姉、もう年老いた人々がどの病気にかかっているか、あとどこに住んでいるか、判明したよ。」と紀序君が私と合流すると、私の耳に近づいて嬉しそうに報告した。

 「よし、次は彼たちのお見舞いに行こう。」

 「天笠くんが推測した通りに、高血圧、糖尿病、骨粗鬆症、胃癌など病気がある年寄りたちは高木先生に世話されました。」

 「彼たちはどこに住んでる?」

 「あそこ。覚えてる?私たちが村に入って、すぐ見た『心温院』って建物って建物。」

 「なるほど、老人たちを集中管理するか…」

 「病弱な老人を集めて医者に世話するのを頼み、他の人が物資を捜して村を守るのは一番良い方法だろう!」と話した後、紀序くんはちょっと話を止めた。「でも、彼たちがどのぐらい生き延びるか、本当に疑っている。」

 「とにかく、先ずは行ってみよう。」と私は速く心温院に向かった。


 心温院の入口は野球バットを身につけた男に防衛されている。看板には「静かで、心地よく、幸せな介護老人保健施設」と書いてある。私たちは男に意向を説明した後、彼に高木先生のところまで連れて行かれた。

 「高木先生、検診を受ける必要がある新参者がいます!」

 男がドアを叩いた後で、ドアは開いた。白い制服を着ている医者が出てくる。もし高木先生の外見を動物で比喩すれば、梟に似ているのだ。この中年の医者はメガネをかけても冴え冴えとした目を隠せない。整ってちゃんと切った髪も彼の良い教養を示す。

 「今日は、三人の新参者がいますか。素晴らしい!私は長い間新しい生存者と会っていなかったです。どうぞお入りください!」

 高木先生の診察室は多分年寄りの部屋だったと思う。ここには机、テレビ、パソコン、ベッドがある。先生は並んでベッドに座ることを指示して、手袋をはめて、私たちが咬まれたか確認する。

 念を押すため、高木先生は私たちの傷跡の有無を確認するだけじゃなく、体温も血圧も測った。

 「うーん、竹島さん、平山さん、二人は体温が低いですね。栄養不足なのかな…」

 「食べ物を探しにくいですけど、できるだけ一日三食食べっています。」

 「後で血糖指数を測ります。食べ物が足りないので、ある生存者たちはお菓子やドリンクを主要な食べ物にしていました。結局、体が悪くなってしまいました。」

 高木先生は机の引き出しを開けて掌の大きさの測定器を取り出した。

 「前回の食事は何時でしたか?」

 「三時間ぐらい前か。でも、クッキーを食べただけです。」

 「オッケー、指を伸ばしてください。」と先生は測定器で私の指を軽く刺した後に血糖値が出た。

 「うーん、血糖値90、正常範囲内ですが、飲食に注意するべきです。」

 柚依の血糖値は私と大きい差がない。紀序くんのは私たちより高い。私たちを心配している高木先生は冷蔵庫から栄養補助のスナックを三枚渡した。

 「これは私が大好きなスナックだ。糖分が少ない上に、繊維も蛋白質も多いものです。食べてください。」

 「ところで、先生、ここは老人保健施設だったでしょう?」

 「はい、今でも少なくない老人を収容しています。災難が起きる前から心温院に居る人、あとこの一年間、家族とここに逃げた人がいます。」

 「村人たちによると、彼たちは健康状況が良くないようです。そうですか?」

 「ハ…年寄りのせいで、殆んど慢性病に罹っています。でも、充分な薬品を取りにくいんです。」

 この時、電話が突然鳴り響いた。

 「もしもし、何かあった…何?松田お婆さんがふらふらしている?すぐ行く!」

 「すみません。ちょっと待ってください。患者さんが調子悪いようですから!」と話が終わると、高木先生は一秒たりとも無駄にせずに診察室を離れた。

 「後を追いかけて患者を見た方がいいね。」と私が仲間たちに提案した。


 私たちは廊下で待っていた時、お婆さんの絶え絶えの泣き叫ぶ声を聞いていた。二十分過ごした後で、高木さんはやっと病室からで出た。

 「高木先生、あのお婆さんはもう大丈夫ですか?」

 「あのお婆さんね、元々高血圧の問題がある。家族を失った悲しみに薬品の乏しさが相まって、彼女の病状が悪化しつづけています…」

 「私たちはある捨てられた車で多くの薬品を見つけました。何か役に立てる薬があるか、後で先生が確認してください。」

 「はい、どうもありがとうございます。」

 「高木さん、高木さん、私たちの母は大丈夫でしたか?」

 ある夫婦がこちらに向かってきた。彼たちは憂慮が顔に溢れている。あれ?彼たちはさっきヤクザを拝み倒した村人じゃない。

 「いつもの通りです…松田さんは定時に薬を飲んでいるが、死んだ孫たちを思い出すと、大変悲しいと感じてしまいました。高血圧は心の病気とも言えます。」

 「先生、できる限り、母を治療してください。母は何回慰めても…」と奥さんがハンカチで自分の涙を拭いた。

 「あのね、松田さんは『孫たちが目の前で死んだ悲惨な様子はよく夢に繰り返し現れる』と言ったことがあります。もう厳重なPTSDになって治癒しにくい現状です。」

 「私たちが懸命に薬を取りましたから、先生はきっと何かできます。みんなは先生の医術しか頼れません。もう子供を失ったので、どうしても母を救いたいです。」と松田夫婦が高木先生に腰を折った。

「信じてください。できるだけ松田さんを治療します。」と先生も早速礼を返した。

紀序くんは肘で私を軽く打った。「僕はこの夫婦が可哀想だと感じるけど、もし患者たちの家族が全員この夫婦のようなら、村人たちはきっと覇遵会に圧制されてちっとも反抗できない。」と囁いた。

「他の角度から見れば、彼たちを助けられる人は良い報酬がもらえるに決まっている。」と私は意味深い笑顔でこう言った。


 

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