第二章・共犯者(Співучасник) 後半


 平山柚依の視界(точка зору Юзуя)


 沢山運動した後、眠りやすいことは周知している健康の知識だ。しかし、今日の私は長い道を歩いて怪物と戦ったのに、ベッドに寝て目を閉じると、百万の物事が頭に浮かんでくる。

 私たちの逃亡は今まで順調のようだが、スヴィトラナがどこまで私を助けてくれるかさえ分からない、巻き込まれた天笠くんなら期待できなくて当然だ。あと、私たちが持っている弾薬はとても少ないので、村に戻る前に全部使ってしまったかもしれない。

 私はまだ自分の無力感にイライラしている。私は例え鋭い五感を持っていても、スヴィトラナのように戦えない。私は本当にみんなを救えるの?

 私はベッドで寝がえりばかり打っていて、憂慮と危惧が相まって泣きたいけど、上に寝ているスヴィトラナを起こしたくない。緊急の際、一緒にすぐ対応できるために、同じ部屋で寝たほうがいいと伝えられた。

 起きて水を飲むと決めた。リビングに行く。

 今夜、私たちは夜間哨戒をやっていない。ドアとフランス窓をロックして椅子で阻んだだけだ。みんなは疲れて、きちんと休まないと明日の難題に挑戦できない。でも、何か不安感がする。

 私はスースーと深呼吸して街燈がない暗い道を見る。ある所に赤、黄色、緑が混ざっている光が現れた。形から判断すれば、きっと小さい野良猫だ。

 五感強化以外、私はまだ一つ特殊能力を持っている──生物の体が放出する熱が見えることだ。しかし、この能力は不安定であまり昼間に起動しない上に、夜間にも長時間維持できない。

 あの可哀想な小さい猫は既に進化ウイルスに感染した。死体を食べた鼠を捕まえたせいか?長い期間重ねた経験で、私は動物と人間が放出する熱の量で感染者ではないかと推測できる。感染者は基礎代謝が低いので、体温も高くない。

 はっきり覚えている。私はスヴィトラナと出会った時、戦闘が終わったばかりだから、特殊能力が丁度起動中だった。彼女は側の天笠くんと比べると、熱放射が少ないことは一目瞭然だ。私が見た他の進化者に似ている。

 ただし、彼たちにそういう特殊能力を持っていることを伝えるつもりはない。私はずっとスヴィトラナが嘘ついていると考えている。特に彼女の強い戦闘の技を見た後に。もし彼女は私と同じ、並外れた進化者だとしたら、私に興味があるのもおかしくない。彼女が私を助けたいのはきっと裏の意図がある。

彼女は私を傷つけたくないことを信じている。でも、先ずは油断なく彼女を観察するべきだ。

 私は二人の仲間に多くの疑問を抱く時、秋羽に居てほしい。例え彼女は私が進化者だと知っても、怖がりも排斥もせず器量が良い。彼女は喜んで、ずっと一緒に戦ってもらいたいと私に伝えた。

 何となくポケットから財布を出した。私は寝る時も財布を身につけるのは、中にかなりお金があるのではない。一万円と数千円の札しか持っていない。それに、今までもう半年以上お金を使うことはなかった。一番大切なのは財布についている梟のストラップだ。これは秋羽からもったプレゼント。

 「持っててね、柚依。覚えといてよ!私たちのストラップはペアだ。この梟の可愛い表情を見て、自分でも微笑んでね!」

 秋羽、ずっと話を忘れないけど、心から笑うなんてもう昔のことだ。こんな世界で出会ったより、むしろ普通の世界で友達になって、一緒に勉強したり、買い物に行ったり、美味しいお菓子を食べたりなどするほうがいい。それなら、私たちは友情が今ほど深くないかもしれないけど、幸せに過ごせる。

 秋羽、どうしても生きていてください。私を一人で置かないで。これは私たちの約束。

 「平山さん、眠れないですか?」

 天笠に驚かされた。私は五感が異常に鋭いから、思考中じゃなかったら、部屋のドアの音を聞いて、すぐ彼が起きたことが分かったはずだ。

 「はい、ちょっとね。仲間たちのことを考えています。」

 「そうですか、曇島村を離れてから、もう何日経ちましたか?」

 「二週以上です。仲間たちを救うことに間に会うか分かりません…」

 「できるだけ試します。世界がもう変わったせいで、電話だけで友達の安否を確認するのはもうだめだ。」

 大疫病が流行っているばかりで、各地の人々はまだパソコンや携帯などで繋ぎ合えた。しかし、通信会社の従業員が大層死んでしまった上に、去年台風と大雨が日本を襲撃したせいで、整備されていない基地局と通信設備は次々と故障してしまった。今、電波が届く場所はかなり少なくなった。

 天笠くんに対して、何か話してみるほうがいいと思う。自分の仲間を詳しく理解しても損はない。

 「天笠くんはどこの出身ですか?」

 「昔から愛知県に住んでいます。でも、名古屋じゃなくて、規模が小さい美汐市です。スヴィタ姉なら、東北地方に生まれたようです。」

 「私は長野出身ですから、敵を倒した後に、よかったら、天笠くんたちを山に散歩に連れて行きたいです。」

 「よかったです。長野の自然は国内でも海外でも有名ですね!」

たとえ進化ウイルスがもう徹底的に社会を壊滅させても、長野の森は人心を癒せる。でも、私は嫌な予感がする。もしウイルスが広がり続けたら、幽静な森にいる生物も歪むことになる……

 私は窓へ行って、夜の風で自分の焦る心を冷やしたいが、特殊能力のおかげで、望む通りじゃなく、逆に非常に不安な光景を見た。

 遠くの田圃で何十体かのゾンビと怪物が歩いている。それだけでなく、あいつらは三つの群れを分けて、違う方向に進んでいる。まさか団体で狩猟中?

 「天笠くん、早く見て…」と言うとすぐに、天笠くんを呼んでも、彼が特殊能力を持っていなくて黒い田圃しか見えないことを思い出した。

 「感染者を見ましたか?」

 私はちょっと止まり、どうやって説明すればいいかと考える。「いえ、見たんじゃなく、奴らの足音を聞きましたから。数が多そうです。」

 私はどんなに視力が良くても、夜に明瞭に敵が見えることはとても疑わしいだろう。今、自分は熱放射感知の能力を見せる必要がない。

 「僕も声が聞こえましたけど、曖昧ですね…光がなければ、目が不自由みたいです。」

 「あなたたちは望遠鏡がほしい?」

 スヴィトラナは部屋から出た。でも、彼女が持っているのはライフルだ。

 「あ、そうか!ライフルのテレスコープは暗視できるんだ。」

 「紀序くん、柚依、敵がどの方向か伝えてくれる?」

 「先ずは左を向いて、家から200~230メートル進むと。」

 彼女は銃身を窓から伸ばして、少しスコープを調整して敵を発見した。

 「間違いない。220メートルぐらい進むと、ゾンビと怪物の群れがいる。柚依、奴らの距離でも判断できる聡い聴力を持ってるなんて!」

 そう言われると、逆に恥ずかしい。彼女は私をそんなに助けたのに、騙して本当にいいのかな?

 「何を見た?」

 「紀序くんも見てね!覚えといて、安全装置動かしちゃだめ。」

 「そんなバカなこと!」と天笠くんは言い返して、銃を受け取った。

 「わ!あいつらは『感染者祭り』を行なってる?なぜ訳もなく集団でうろうろしてる?」

 私は自分の記憶を振り返って、待って、似ている状況を何回も見たっけ…

 「平山さんも見ますか?」

 天笠くんはライフルを渡してくれた。そうね…もっと上手に演じよう。

 スコープを使えば、私の目よりはっきり見える。私はある二の腕と胸に結構筋肉がついている怪物をじろじろ見続ける。あいつはたくさん糜爛部がなければ、マッスルコンテストに参加できるだろう。彼の側にいる六体のゾンビが偶然に彼と同じ方向に行くと思ったけど、もしゾンビが止まったり、或いは違う方向に向いたりすると、彼は腕を振って指示する。薄っすらと吼える声も聞こえる。

 「まさかあいつらは狼のように人を狩るか…」

 「私たちが集めた情報と実戦の経験から見れば、ただ怪物は仲間を呼び出すことをやる。だが、言ったはずだ。あるゾンビ群体の個体連結は私たちが考えるより強そうだ。もしあいつらは最初の脳みそが不自由な状態から集団で狩る知力を持つように進化すれば、理解できないわけじゃない。」とスヴィトラナは私と天笠くんに微笑んで、少し興奮したようだ。「更に詳しい情報は、あいつらと戦わなきゃ分からない。」

 「それでも今晩じゃなく、僕はぐっすり眠りたいだけだ。」

 「でも、交代制で夜間哨戒をやったほうが安全でしょう?」本心は、そういう強敵に囲まれたところで、私は眠りにくいのだ。

 「平山さん、私と夜間哨戒をやりましょう。スヴィタ姉なら、運転でも戦闘でも僕たちの大将ですから、ゆっくり休まないと危ないです。」

 「紀序くん、そう思ってくれてありがとう。でも、この旅で三人は協力し合うべきだから、せめて二時間の哨戒をやらせた。後は頼むね。」

 「はい、どうか気を付けて。」

 「ウクライナ語の言葉を教えたい。не хвилюйся за мене. 私を心配しないでという意味だ。私はもっと厄介な怪物と戦闘することがあるから!」と彼女は金髪を弄って、目付きで私に自信を伝えた。


 翌日の朝、私たちはまた出発する。昨晩に怪物とゾンビの群れを発見した後、スヴィトラナは一層慎重になった。

 「先ずはガスステーションに行く。でも、心の準備をしといて、ガスはスーパーの棚に置いた商品みたいに、手を伸ばすと取れるものじゃない。」

 「ちょっと待って、今まで、ゾンビのないスーパーに幾つ行った?」

 天笠くんの答えを聞くと、笑っていられない。もし食べ物、薬品、ガスなど生存資源がある場所にゾンビがいなけれな、逆におかしいだろう。

 ある日、私は正常の世界の様子を忘れてしまうかも……


 スヴィトラナの言った通り、ガスステーションでは歩いているゾンビが十何体いる。しかも、シャツにネクタイの大人から中学や小学校の制服の子供までいる。彼たちは多分逃亡していた時、ガスを補給したいが、感染者に襲われることになった。

 「Так! また働き時間だ!」と天笠くんは前端に鉄と釘が付いている長い棍棒を力を込めて握った。

 「急がないで、防護が完成してない。」スヴィトラナは消毒のスプレーで服とマスクにシューとかけて、マスクを天笠くんに渡した。

 「進化ウイルスは構造が複雑だけど、脆弱だ。服に長く効く消毒剤を付けば、敵の血液に含まれるウイルスは即死する。あと、周りに『伏兵』があるか観察して。柚依、お願い!」

 私は窓を開けて周りを見て物音を聞く。やはりスヴィトラナの慎重さは正しい。

 「ゾンビ以外、また二、三匹のゾンビ犬は近くのトラックの後ろに隠れている。ガスステーションに入ると、奴らは駆けてきてみんなを咬むでしょう。」

 「同感だ。ゾンビらを見て。腕と脛に酷い傷痕がある奴が少なくない。ゾンビは殆ど肩と頸部を攻撃するので、ここはきっと悪犬がいる。スヴィタ姉、何かいいプランでもある?」

 「奴らにモロトフ.コクテルをおごりたい。でも、ついでステーションを焼け尽くすかも。」

 「悪犬なら、近距離で戦わないほうがいい。弾薬を節約したいなら、クロスボウの出番だ!」

 「じゃ、少し声を出そう。やつらが私たちを発見する前に。」

 スヴィトラナは空き缶を取り出した。ラベルに「桃ソーダ」と書いてある。見るだけで甘ったるいから、一度も飲まなかった。

 彼女は車を降りて、空き缶をトラックに投げた。カーンと響くと、ゾンビたちは音源を見て、あっちこっち捜した後で缶を投げた人に気づいた。ゾンビ犬も獲物が来たと感じ、トラックの後ろから現れる。

 天笠くんは一心不乱に照準を定めて、トリガーを引いた。矢に当てられた犬は少しあがいた後で倒れた。彼は熟練に装填し直して、もう一匹の犬を殺した。

 「紀序くん、棍棒を持ちな。パイク兵の戦術で!」と話した後、彼女は刃が鋭くて、キラリとする冷たい軍刀を抜き出した。

 二人はゾンビに向いている。先鋒の天笠くんは棍棒を操り、少年ゾンビの踝を打った。あいつが痛くてしゃがんだ時、スヴィトラナはあいつの背後に回って、直接脊椎を割り切った。この過程はまるで踊りのようだ。

 ある幼女は側から天笠くんを襲う。でも、彼は棍棒を回転させて、相手の膝を攻撃した。スヴィトラナは大股で歩いて、容赦なく軍刀を振ると、幼女の頭はすぐ切れて飛んだ。

 私はだんだんと二人の戦い方が分かる。天笠くんは敵を殺すのを優先しないで、ずっと彼の踝や膝や鎖骨など弱点を打つ。敵の動きが遅くなったら、手速い剣士は美しくて致命的な円弧を描いて、奴らの頸部を斬る。私は二人を尊敬してやまない。彼たちは乱暴な力でゾンビを倒せば、無駄に体力を使う上に、武器も壊してしまうことが良く分かっているので、高効率の作戦を立てた。

 太るゾンビはスヴィトラナを抱え込もうとするけど、彼女は素早く躱して、足で目標が外れた敵のよほろを蹴った。敵は転ぶと、後ろの頸部を間もなく斬られた。

 聡い五感でスヴィトラナの剣技が凄いと感じられる。彼女は動きが優雅で軽快で、敵の骨と肉を断ち切る時、全然止まらない。敵は反応する時間もない。

五分くらい経つと、ガスステーションのゾンビを全員掃討した。私にはこんなに強い安心感が湧くことがない。秋羽…私は頼もしい仲間を見つけた。私たちは必ず覇遵会を追い払う!

 「よし、今回刃は損がない。後でちょっと洗う。」とスヴィトラナは自分の軍刀を検査して満足した顔を作った。

 彼女は車を運転してこっちへ来た後、私にガスを詰めるのを頼んだ。彼女と天笠くんは武器の洗浄に行く。「ゾンビの血はウイルスを含み、武器を錆びさせるので、戦闘後の浄めも大切だ。」と私に伝えた。

 私たちはタンクを満たすだけではなく、プラスチックのガス缶も見つけて予備の分を入れた。何と言っても、次のガスステーションでは更に強い敵がいるか予測できないから。

 「離れる前に、あられの車で役に立つものを探そう。」

 スヴィトラナは考えずにハンマーを出して窓を割った。「この車にかぎがある。」と彼女はトランクを開けた。

 中にはスーツケースとリュックサックが横たわっている。いいものがあれば上等だ。」と天笠くんはリュクサックからお菓子、カップラーメン、薬、鉛筆入れ、USBドライブ、充電器、アーミーナイフなどを取り出した。私も食べ物をチェックする。惜しいな、全部賞味期限切れだ。

 車の主は看護師と医者だった。彼たちは沢山薬品を携帯しているはずだ。」とスヴィトラナは車で見つけた医療職員のカードを示す。

 「でも、スーツケースに錠が付いている。どうやって開けばいい?」

 「任せておいて。」

 天笠くんはアーミーナイフでジッパーを刺して、一分ぐらい裂いた後、ようやっとジッパーを開けた。

 「このケースは二重の鋼製ジッパーを使用しているから、めっちゃ難しかった。見て、ナイフが潰れちゃった。」

 ケースの中身は殆ど服で、幾つかの果物と肉缶詰もある。大した収穫ではないけど、無いよりは増し。

 ある手帳がスヴィトラナの目を引いた。彼女は手帳を開くと、急に目を丸くする。

 「思いつかなかった。この手帳に載っているのは感染者の病歴なんだ!」

 「これとても価値があるの?」と天笠くんも近付いて手帳を読む。

 「価値は手帳を取った人が決めることだ。柴田先生はこれに深い興味があるかも、これを『プレゼント』にしよう。」

 手帳より、私は使いやすい武器を取りたいが、彼女の嬉しい顔を見ると、それらの病歴がもたらす利益は想像できないぐらい多いと感じる。

スーツケースの隅にある未開封のパスケースに気付いた。ケースには可愛いペルシャ 猫の絵が描いてある。秋羽は家に銀色のペルシャ猫がいたけど、五年前に死んでしまったと言ったことがある。

 私はパスケースをポケットに入れた。私は秋羽と再会したら、これを送ろうと思っている。彼女の笑顔を見たくてたまらない。


 竹島スヴィトラナの視界(Поле зору Сбітлани)


 一日間道を急いだ後、やっとゆるりと休める。お風呂から上がった私は快適にソファーで寝ている。

 「紀序くん、晩ご飯いつ出来た?」

 「まだ三十分だ。」

 今日の道は状況が悪くない。感染者は予想したより少ない。私たちはもう埼玉に入った。昨日と同じように、民家で宿を求めた。

 「スヴィタ姉、髪をちゃんと乾かさないと、風邪引いちゃうよ。」

 「もう十分ぐらいドライヤーを使ってた。でも、髪が長すぎるせいで、髪の末端が少し濡れてる。秋になったばっかりだし、少し暑いよね!」と私は自分の巻き髪の末端を触っている。髪は女の魅力を示すものだけど、あまりケアーする時間がない。

 二十一世紀に入ると、地球温暖化が酷くなっているせいで、地球の気候は極端化している。秋は炎天下で、春は寒風が吹き荒ぶ。水災や旱災や風災が世界各地で次々と起こるのに伴い、疫病や飢饉も広がる。しかし、地球が人類に毀される前に、悍ましげな大疫病は人類の文明を打ち壊してしまった。

 「あ、今人間がいっぱい死んだから、地球温暖化はどんどん緩まり、天気も徐々に正常に戻る。これって一体嬉しいことかな、悲しいことかな?」

 「この災難がなくても、十年ぐらい経つと、世界は資源不足で凄い戦争が起きるでしょう。人類って欠陥多い生物ね、ずっと死亡への道を。」

 「そうだね、でも、私は『все буде добре』って信念を持って生きてゆく。」

 このウクライナ語の文は、私が家族を失ったばかりの紀序くんを慰めるために、言っていたものだ。でも、自分でもよくこの文を疑っていて…

「ところで、よかったら、平山さんに武術教えない?前僕を訓練したように。」

 「できるけど、彼女は進化者だとしても、短時間で武術が上手になれるわけがない。もうコサック軍刀術の全てを教えたわね?でも、一人で軍刀を持って、無傷でゾンビの群れを片付けられるか?」

 「ないけど、もう真面目に練習した。ただ敵と戦う時、緊張しすぎて取り乱すかも。」と紀序くんは顔がちょっと赤くなって恥ずかしそうだ。

 「誠実でよろしい。恥ずかしがる必要ないね。もし勇気を持つだけでゾンビと戦えば、連続に百体のゾンビも倒せるかも。だが、一回に咬まれたら自分に良い運を与えるようにを祈るべきだ。」

 私はハンカチにオリーブオイルを付けて、軍刀の刃を拭き始める。

 「私はよくこの軍刀にアフターケアーをしてるけど、感染者を斬る時、軍刀の状況を予想できない。刃が潰れたり折れたりする可能性ある。このような『不確定性』は、私たちは時々敵と戦うより避けたほうがいいわけだ。」

 「確かに、僕たちが見た沢山の死んだ人の中で、ある人は本当に運が悪いだけ…」

 私はちょっと厳めしい口調で紀序くんに警告した。同じ話は何度もしたが。

 「覚えときなさい、例え抜群の武術と優秀な武器を持ってても、強敵に遭えば、撤退すべき時機が分からなきゃ、この世界で生き残れない。」

 「承知した。人生では時々『三十六計、逃げるに如かず』って一つ選択肢しかないって教えてもらった。」

 もちろん、私はゾンビと怪物を見る時、常に駆けて行って軍刀で奴らを斬首したいという衝動がある。だって、あれらの生物は本当に醜すぎる。しかし、私は彼岸に行くべき者をこの世から消す力を持っていない。私は未だに完璧な生物になっていないから。


 「柚依、武術習ったことがある?どこから教えればいいか知りたい。」

 ご飯を食べて少し休憩した後、柚依は同意したから、武術を教え始める。

「曇島村に居た時、私たちのリーダーの久保健三郎さんは古武道の達人の上に、ブラジリアン柔術を習ったことがある。彼の娘も武術が上手だ。二人はみんなに感染者との戦い方を沢山教えてくれた。」

 「もし基礎的な戦技ができれば、先ずはコッサク格闘術の攻防のやり方を教えて、真似してみて。」

 コッサク格闘術(гопак)は、16~18世紀のドニプロ‧コッサクが使っていた戦技だ。世界中の武術は半分以上が「自己防衛」を目的とする。しかし、コッサク格闘術は団体戦で、つまり両軍が戦闘する時の武術だ。素手の技以外、兵器の使い方と素手で兵器に抗う方法もある。

 鋭い歯と爪をしていたり、或いは手足に刺や骨塊が付いていたりする怪物に遭った時、この格闘術を習った私は、奴らを刀剣を持っている敵として戦える。八年前に、隣の台湾人の奥さんは病弱な私を見た後、彼女の娘と一緒に中国武術の練習に誘ってくれた。その後、父が武術に熱中する私を見て、私にコサック格闘術を教え始めた。これは運命の不思議さだと言える。

 私はストレート、フック、前蹴り、膝蹴り、回転蹴り、あと三種類の組み合わせ攻撃を演武した。柚依は着々と私の動きを模倣して、全然初心者のようではない。

 「私を攻撃してみて。心配せずにできるだけ大きい力で。ちょっと柚依の速度と力を判断したいから。」

 柚依は拳で私に連続で攻めて、あと二回前蹴りした。残念なのは、私は腕で拳を受け流すと、彼女の力が足りないのに気付いた。そして、私は彼女の膝を狙って打ち当てた。彼女は痛くて瞬きした。

 「痛い…今は練習だけよね?」

 「ごめん。でも、貴女は攻撃が遅くて力も弱いんだ。他の訓練をしなきゃ。」

 「スヴィタ姉…ひいきしすぎじゃない?」

 食卓の前に座り、本を読んでいる紀序くんは急に文句を言った。一時的に彼の言葉が分からない。

 「前、組み手をした時、蹴った後にすぐ足が戻らないならどうなるか、僕に覚えさせたいから、何十回も僕を投げたり、蹴って転倒させたりしただろう?平山さんには膝だけ打ったの?」

 「そうか?忘れたわ。多分紀序くんが男でもっと厳しい訓練を受けても耐えられると思ったね。」と私は過去の紀序くんが訓練を受けた様子を思い出すと、少し笑った。

 「笑っているね!まさかそんなこと面白いと思うのか?」

 「はい、柚依。今から兵器の使い方を教える。」

私は紀序くんの怨言を無視した。彼は機嫌が悪くて、茶碗を持ち上げて水を飲んで、ゴツンと机に置いた。

 「アーミーナイフもマチェテも短兵器だから、必要がなければ、ゾンビと近距離戦をやめたほうがいい。そっちに立ってて、私の使い方を見てね。傷つけないから心配しないで。」

 私は速く柚依に攻撃したけど、彼女は身を屈めてナイフを避けた。

 「ちょっと……何したの?」

 「役に立つゾンビの斬り方を教えたい。信じてね、貴女の肌に触らない。」

 彼女は疑って私を見ながら、攻撃を待っている。今回、彼女は私のナイフを避けない。刃は彼女の側頸部にまだ3センチのどこに停まった。

 「柚依も知ってるでしょう?ゾンビの弱点は頭と頸椎って。ナイフで敵の頸椎に向けて斬って。」

 私は身を回してナイフを彼女の後頸に置いて、指で頸椎に触る。

 「敵の後ろに回って頸部の下を直接斬ってもいい。私が触るところ覚えといて。」

 「それなら、正面を攻撃して、ゾンビの顔の側面を斬って大丈夫?」

 「正面を攻撃しないほうがいい。まず、ゾンビに咬まれやすい。第二、人の頭骨は堅いから、そのように敵の頭を破壊したら、ナイフはすぐ潰れちゃう。頸部は、一番攻めやすいどころだ。」

 柚依は肌が綺麗ですべすべで、全然体育系の女の子のようではない。もし世界が正常のままなら、彼女は拳闘、空手、軍刀術など暴力的な運動とは無縁でしょう。でも、誰でも殺戮の本能を持っている。これは人類の文明がどんなに進歩しても変えられないことだ。

 「もしナイフが難しいなら、サバイバルナイフもあるよ。」

 私は布製の鞘に置いてあるサバイバルナイフを取り出した。これは元々自衛隊の特殊部隊の兵器だが、加藤一尉からもらった。このナイフの長さは50センチぐらいで、木やら人やら動物やらを斬ることに高効率だ。私は柚依にナイフを渡した。彼女は少し振ってみるけど、明らかに筋力不足のせいで動作は速くない。

 「このナイフは外見は重くなさそうだけど、片手で振るのは簡単にできない。」と柚依はブレイドを観察している。

 「そして、どうやって心肺持久力と筋力を増やすか、教えてあげる。これは最も基礎的な部分だけど、最も重要なのかも。心配しないで、戦闘で使える筋肉の専門鍛錬法を伝えるから、古ギリシア戦士のようにならなくても怪物と戦えるわよ。」

 この環境で、私たちはジムに行ったり、フィットネスマシンを使ったりできない。プッシュアップ、シットアップ、スプリットジャンプなどで腕や腹や太ももの筋肉を鍛えるほかにない。この三つの部分は、武術で一番よく使う筋肉だから。

 「あと、筋肉を鍛錬するたびに、対応できる武術の技を復習して。例えば、スプリットアップをした後、蹴りを練習して筋肉に動きを覚えさせるよね。そうしたら、貴女の力と速度と技術は良いバランスに達成できる。」

 「はい、心に留めておく。」

 「紀序くんを見てね、彼は背も高くないし、筋肉も大きくないし、ちょっとちびっこっぽいけど、私に鍛えられた後、近遠距離を問わず、兵器を自在に操るわ!」

 「スヴィタ姉、一体僕を褒めるのか嘲笑するのか?僕だって、目立つ筋肉を持ってる男じゃない!すまないね!」

 「大丈夫よ。今の様子でもいい、可愛いから。」

 紀序くんはちょっと顔が赤くなって、すぐ本で顔を隠した。この子は時々純粋だね。

 「私が練習した後に、少し組み手をやってもいい?早くもっと戦い方を知りたい。」

 「うん、いいわ。」もし柚依がずっとやる気満々であれば、彼女を進化者の猛将にすることができる。

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