第三章‧命の重量(вага життя) 後半
泉さんが来て、僕たちはまた車に戻った。安全なところで、僕の思想は制御できずに頭の中で暴れている。スヴィタ姉に救われたあの日を思い出した。あの日、一年分の良い運を使ってしまった、と心から思った…
ゾンビに咬傷されベッドに寝ている母さんと兄さんを見ながら、僕は焦って部屋でうろうろしているが、どうしようもない。彼たちはまだ意識を失わない時、「早く自分で逃げて!」と僕に何度も伝えた。でも、僕は家族を見捨てられなかった…どこへ逃げるのかも分からなかった。
こんな絶体絶命の苦境に陥るはずはなかったのに…なぜ民衆に付き添う自衛隊は敵に気付かなくて、みんなこの町で感染者に襲われたのか?
最初、感染者は名古屋、豊田など大都市で増えていた。政府は伝染が止まらないと判明した後、僕の故郷である美汐市の市民に次々と疎開しろと命令した。市民数は十万人を超えるので、人力不足の自衛隊にとって一回で全部疎開させるのは無理だった。車を持っている人たちは先に都市を離れた。他の人は政府が分配した交通機関に乗って、次から次へと田舎へ移動した。しかし、ウイルスの蔓延は政府が予測したより速かった…
この町に入った後、みんなは買い物をしたり、トイレに行ったりしようとしたが、感染者が突然現れた。その中には獰猛な怪物もいた。50人の自衛隊と警察はできる限り戦ったが、他の2000人くらいの民衆は何もできなかった…感染者が全員倒された後、三分の一の民衆は死亡か咬傷に遭い、武装人員は20人以下しか残らなかった。
もちろん、この難民団は前に進むことができない。自衛隊員は指揮官からの命令を受けた後、傷つかなかった人々を先に連れて行くと決めた。負傷者なら、このままに町に居て、次の救援を待てと要求された。負傷者の家族は残りたくてもいいのだ。
二日間待った後、救援を得る希望が砕けてしまった。
上位の指揮官の命令は、たぶん傷者にそのままに死亡を待たせるだろう。何を言っても…ゾンビにの抗ウイルス薬がない。しかも、傷者が他の難民に危害を加えることにもなる。
数時間後、僕は家族を殺さないといけない…と自分の理智がそう言った。でも、できない…
沢山の感染者は見捨てられたが、それでも彼らの家族が無情とも言えない。みんなの命の重さが同じぐらいから、生きる可能性のない人を見守って自分を犠牲するなんて、そういうやつ少ないだろう。
僕はここに残ると決めたわけは…まだ微かな希望を抱いている――医者たちが暫くウイルスを抑える薬を作ったら、自衛隊が傷者を連れて行けるって思った。僕は毎時間テレビとネットで最新のニュースを確認していたが、今はもうそうする勇気すらない……
「序ちゃん、母さんは大丈夫から、早く自衛隊の兄さんたちと一緒に行って!」
「序ちゃん、早く行けよ!何も役に立たないから、母さんを俺に任せろ。心配するな!」
二人は僕が速く逃げた方がいいと思うが、家族を見捨てるなんて…例えあなたたちがゾンビになっても、自分の手であなたたちを眠らせないと。
「水…水飲みたい…」
兄さんが苦しんで唸っているのを聞くと、僕は速く茶碗で水を渡した。彼は顔が毛細血管でも見えるほと真っ白だ。茶碗を受けてすぐ水を飲み切った。
「あああ!」と彼は突然叫んで、僕に撲り倒そうとした!
驚いた僕は後ろへ、彼が床に落ちた。
「兄さん、今どう感じる?怪我がある?」
私が焦って彼を支えたいが、もう一度叫ばれた。
「触るな!さっさと離れ!」
僕は何歩か後退りして、兄さんの歪める顔を見る。
彼は口が開いて閉め、開いて閉め、口水が零れている。その様子ってまるで飢餓を我慢できずに獲物を襲うブチハイエナのようだ。僕は慌てて部屋を出て、ドーアを閉めた。
包丁、鎌、ハンマー、バット、ドライバー…色んな人を殺せる工具は僕の頭の中で現れた。でも、自分の手で…できるか…
僕は一歩一歩でリビングに向けている。ソファに置いた野球バットを取って三回振った。でも、人の頭がぶっ壊されるのを考えると、吐き気がする。力込んでバットを握るせいで、指の関節はもう白くなった。
半時間経っても僕は迷ったままだ。殺人の工具がソファと机に置いてあるが、「もう少し待って…少し待って…」と自分に言い聞かせている。
私はテレビを見て、心を痛めた。僕は永遠に家族とお菓子を食べながら映画を見て、楽しく過ごすことができない。なぜ進化ウイルスが現れたの?これは神様の悪戯か、 人間がもたらした災いか?私は本当にウイルスが広がっていない日に戻って、もう一度家族の笑い声を聞きたい。一日だけでもいい……………
おのれ!こういう時、親父は一体どこに行ったんだ!どうしてウイルスが流行し始まった前夜に、大阪へ出張したんだ!僕は焦りながら、イスを蹴った。この三日間、 何十回も彼に電話をかけたが、返信がない上にメッセージすら読んでいないようだ。今の状況を話し合える目上の人は一人もいない。親父は携帯を失くしたか、或いはもう…
この時、僕は部屋のドアが開いた音を聞いたので、野球のバットを持って見に行こうとした。すると、お母さんとお兄さんが出て来た。彼たちは凶暴な目つきで僕を見て、そして躍りかかった。僕は緊張のせいでバットを横に払った――
頭を打たれたお母さんは跪いて、血がどくどくと出た。
今だ!お母さんを早く解脱させよう――
ダメだ。もうそんなことを見たくない。僕はできるだけ早く家から出た。お母さん、 お兄さん、ごめんなさい…僕はあなたたちを捨ててしまった。
でも、町にも歩いているゾンビがいる。僕は深呼吸して前に駆けて、こっぴどくある少年ゾンビを打った。
「死ね!死ね!!死ね!!!」
僕は三回打って、やっと彼の頭を潰した…僕は初めてゾンビを殺した。でも、振り返ると、家から出たお兄さん、あと後ろにつけたお母さんが目に入った。
僕はバットを頭の上まで持ち上げて、力強く一撃でお兄さんを楽にしようとする…が、お兄さんがいつも僕を世話して、美味しい食べ物を渡してくれたことと思い出すと、心を鬼にして彼を殺すことができない。
僕は振り向いて逃げようとしたが、彼たちは追いかけてくる。前には道を阻む女のゾンビがいる。僕はバットを振ってそいつを押しのけて、急いで走り続ける。
いつ止まれるのか?どこで止まれるのか?分からない、足を止めてはいけないことだけ分かる。僕は家族を救わない…
路地の前方にいる三体のゾンビが僕に気付いた。やつらは私の道を阻んでいる。振り返ると、お母さんもお兄さんも近付いてきた。
落ち着け、落ち着け、もし死にたくないなら、やつらに捕まらないように…前に進むか、後ろに戻るか?前は通りにくそうで、後ろなら家族と戦わないと…
前へ?後ろへ?今こそ命の瀬戸際なのに、僕の手は無力になってしまった…
「バーン」という銃声が僕の耳に届いた。同時にお兄さんが倒れた。自衛隊が来たのか!
「紀序くん、ゾンビを避けて、私のほうへ来なさい。」
馴染みのある声に輝いている金髪、ライフルを持っている竹島先輩は僕に手を振った。僕は考えずに駆けていく。これが命を落とす前の幻影でもいい。寂しさから解放される。
竹島先輩は手を腰に伸ばして、鋭い軍刀を抜き出した。彼女は素早く僕に向かった。そして、刃がギラリと光った。お母さんの頭は斬られてしまった…
何か起きた?誰が死んだ?僕の頭は真っ白で、時間が止まったと感じた。
竹島先輩は力強く僕を彼女の背後へ引っ張った。
「ここに立って動かないで!私がゾンビを片付けて来るね!」
今の僕は動こうとしても動けないじゃない?僕は家族の死体を見て、雨のように涙を落としたくても落とせない、雷のように叫びたくても叫べない。
竹島先輩は力を入れて僕の肩を掴んだ後、やっと痛みで現実に戻った。
「紀序くん、お久しぶり。怪我はないの?……怪我はないの?」
僕は彼女に二回聞かれたけど、簡単な「いいえ」も口から出せない。
「紀序くん、どうしたの?びっくりしたの?」
「お兄さんも…お母さんも…死んじゃった。」
「私の目を見て、落ち着いて深呼吸しなさい。よく聞いてね、紀序くん、私たちはまず身を隠すところを探すべきだ。私はあなたと手を繋ぐので、付いてくればいいわ。」
竹島先輩は僕を花屋に連れて行った。道中のゾンビは全て彼女の軍刀に倒された。彼女は何本かの低い樹を入り口に置いて僕たちの姿を隠した。僕はイスを見つけて座って、脱力してしまった。
「紀序くん、あなたは難民団についてきた?」
竹島先輩の質問は聞こえたが、僕は目まいのせいで答えられない。僕は手で顔を触って目を遮った。この世界を見たくない。
竹島先輩は突然僕の袖をめくり上げて、二の腕と肩をチェックしている。
「竹島先輩、何をしているんですか?」と僕は驚愕して聞いた。
「紀序くんが感染者に咬まれたかとうか、確認しないと。今、調子が悪いと感じない?何か症状もない?」
「僕の家族は…ゾンビになった…」
僕は「ゾンビになった」と言い出した後、胸が締め付けられた。今はどうしようもないということを知っているが、家族の死亡を受け入れたくない。
「紀序くん、家族を失ったのは大変悲しいが、後で泣いたほうがいい。今は、私たちがどうやってこの町を離れて他の難民団と合流できるか、それが一番大切な問題だ。」
「竹島先輩、僕たちは生き延びることができますか?」
「私は紀序くんを守るから、心配しないでね。」
竹島先輩は僕の頭を撫でている。僕の目から涙が流れ始めた。おかしいな、僕は安心すると、泣けるようになる。
「後で泣いて、ね?」とこの美しくて強い女性は手の甲で僕の涙を拭き取った。
何回もざんざんと泣いたから、この思い出を振り返しても悲しくて死にそうだと感じない。一日中、大吉と大凶の事に遭ったから、できる限り人生の儚さを受け入れるしかない。もし僕はずっと難民団に居ても、スヴィタ姉と一緒により安全ではなかった。人が多ければ問題も多いよね…
安全ゾーンに入り、いっぱいゾンビと怪物を倒した後、自分の災厄はお終いだと思ったが、またスヴィタ姉と平山さんにこの怖い世界へ連れて戻された。スヴィタ姉が僕の恩人ではなかったら、彼女をかぴっどく責めないと気が済まない…!
僕は死にたくない、ゾンビや怪物になりたくない、進化者にも殺されたくない…だけど、もう安全ゾーンへ戻れない。生きたいなら、スヴィタ姉を信じて従う以外の選択肢がない。今回も前と同じ、色んな困難を超えるのを欲しがる。
あと一つの問題は、自分とスヴィタ姉だけで良いのに、第三人がいるって慣れていない。
これは嫉妬かな?分からない。今までスヴィタ姉は平山さんのためにやることは多すぎて彼女らしくない。平山さんは一体どんな報酬を与えられるの?
平山柚依の視界(точка зору Юзуя)
他の人が私に手伝いを感謝する時、いつも心からの笑顔で対応した。「大疫病」が発生して以来、避難の途中で出会った人の中で、親切で気配りの良い者より冷たくて自分ばかり考える者は多かった。それでも、私は災難が起こる時だけで人々が助け合うべきだと思っている。だって、人間の信頼関係は命より重要な場合もある。
「ありがとうございました!大切な命を賭けて我らに薬を取ってくれて…どんなもので対価として払ういいか、本当に知りません。」
私たちは村に戻った後、泉さんたちにお辞儀で感謝してもらった。私たちもお礼を返した。最初のきっかけはともかく、今回私たちが任務を全うしてみんなを救えて、グッドエンドに至った。
「みんな、あの子たちは薬と一緒に戻ってきた!」
トラックが村に戻ったのを見ると、村人たちはあっちこっちの家から出た。泉さんが大声で良いニュースを伝えた。歓呼の声が響いている。
「感謝します!感謝します!俺の父が助けてもらいました!」
「大人さえできないことを果たすあなたたち、日本一番勇敢だ!」
一瞬でこんなに多い賛美をもらって…恥ずかしいね。どう褒められても、自分が主役のスヴィトラナと天笠くんのお手柄を占める資格があると思わない。
車に乗って病院を離れた後、天笠くんは何かを深く考えているようだった。帰る途中で一言も出さなかった。今、彼は笑顔で褒めてくれた村人たちに接するが、ずっと沈黙のままで。
「どういたしまして。生存者たちが生きて行きたいなら、助け合う他にありません。」
スヴィトラナは優雅に返答した。人民に尊敬される貴族かのようだ。
「三人とも、ゆっくり休んでください。村には空いている家があるので、そこに泊まってください。」と関村長はある家を指した。
「薬は私に預けていいですよ。高木先生に送ります。」
「はい、それじゃお願いします。」
私たちはリュックサックから薬品を出して、関さんに渡した後、村民に従い、暫く泊まる場所に向かった。
村民たちは私たちに感謝を示すために、渓魚、卵、缶詰、そして果物を贈ってくれた。私はまだ曇島村に居た時、そんなに贅沢な食事をするのは一ヶ月一回しかなかった。大抵は私たちがある町に入って物資を集めた後に。
天笠くんはまた抜群の料理の腕で、焼き魚とハムエッグチャーハンを作った。スヴィトラナは側で技術指導を行いたかったが、天笠くんに何回も台所から押し出された。
「自分の手料理がお口に合ったら嬉しいです。на здоров'я!」
「Дякую, мій вмілий кухар! 『ありがとう、私の腕のいいコックさん!』」
天笠くんが食べ物を食卓に置くと、美味しい匂いが溢れ出した。私は晩ご飯を食べられるのは幸せだなと感じた。
私は焼き魚を取ろうとした時、天笠くんに止められた。
「ちょっと待って。ここの焼き魚はイワナが一匹、アユが二匹です。アユは脂っこい。イワナはさっぱり。みんな自分の好きものを選んでくださいね。」
「私はもちろんアユだ。魚って脂っこいなら美味しいからね。」
「天笠くん、どちら食べますか?」
料理を作ったのは天笠くんなので、彼より先に好きな魚を選んだらちょっと悪いと感じる。
「僕は魚があれば嬉しいですよ。イワナ、アユ、ヤマメ、三種類の渓魚を食べたことあります。それぞれの美味しい味があると思います。」
「はい、では、私はイワナにしますね。」
食べ始める前に、私は箸で少し魚肉を抉って、彼たちの皿に置いた。
「最初はさっぱりしたの、次は脂っこいの、そうしたらもっと美味しいですよ。」
「それなら、柚依もアユを食べてね。」とスヴィトラナも少し魚肉を渡した。
ここまでスヴィトラナと仲良くなれるのは想像できなかった。一週間前、私たちは違う場所に住んでいてお互いに知らなかった。この数日間、私たちは一緒に自分と他人のために戦っていた。平和の時代なら、彼女は多分私と違う世界の人でしょう!
「時々、進化ウイルスは凄いなと思うわ。人間を何ヶ月間か進化させると、動物が数万年もかかった進化成果が可能になる。」
どういう訳かスヴィトラナはウイルスを恐れない…と言うよりウイルスの力に深い興味を持っている。。
「そうね、でも、ウイルスのせいで死んだ日本人は何千万人だったな…」
「私たち人間はもう充分賢いから、特殊能力も持てば、他の生物の生存圏はもっと狭くなってしまうでしょ。」
私と天笠くんは「何も分からない」という目つきでスヴィトラナを見る。彼女は微笑んだまま説明して、携帯で「物競天択、適者生存」という八文字を書いて見せた。
「これってどういう意味?」
「中国語から来た言葉だよ。元々はイギリスのハクスリーの理論だった。意味は、生存競争は大自然の定理で、外部の変化に適応した者しか生き残れない。もしウイルスが人たちに特殊能力を与える一方で大部分の人を殺したら、人間という生物が地球の空間を占めることを防げるでしょ。」
「このウイルスが自然に誕生するものなら、スヴィタ姉の考えが正しいかも。」
「大自然の進化は明らかな規則があると思われているけど。実は、乱数発生のほうが多い。新型のウイルスの現れもそうだ。」
スヴィトラナは先生が生徒たちに教えるように、私たちに生物学と疫学についての知識を伝えてくれた。彼女の家には何冊の専門書があるのか、とても知りたい。
「新型のウイルスが出た後、人間はウイルスに慣れていくと同時に、ウイルスも人間に適応していく。つまり、人間と病原体は影響し合って進化する。例えば、天然痘も梅毒も致死率が数百年間で徐々に減ってきたのだ。」
「そう考えると、人間が進化ウイルスで死亡する確率…というかゾンビになる確率は、将来弱くなるかも?」
「ウイルスは人間を知力低下させて至る所で他人を咬むゾンビにすれば、短期間の伝播が見込めるとはいえ、もし人間という生物が滅んだら、ウイルスもすぐ死ぬ。人間を怪物や進化者にさせるのは、ウイルスの生存に有利なのだ。」
スヴィトラナはチャーハンを少し食べて話し続ける。
「紀序くん、チャーハンにバターを入れたほうがいいと言ったでしょ?」
「勘弁してくれないか?スヴィタ姉、ウイルスの話を続けて。」
「でも、私たちは今でも進化ウイルスが感染者を『進化させる』理由を知らない。人間が特殊能力を得たら、ウイルス伝播にどんな利益がある?」
「私はウイルスで感官が強化されたが、体に宿るウイルスが暴走することを心配しています…まるで火薬を携えるような…そんな感じ。」
「柚依、心配しないで、ウイルスが暴走する前に全然症状がないわけはない。進化ウイルスはRNAウイルス、この種類のウイルスは変異しやすいし、症状も酷い。人間へもたらした代表的な疾病はエボラ出血熱、ウエストナイル熱、インフルエンザだ。しかし、今まで見たことがない特徴が進化ウイルスに付いている――違う宿主に上手に適応し宿主の細胞を変異させることができる。一度宿主と共生できる方法を見つければ安定する、というこどだ。」
「今まで、医者たちはまたなぜ進化者の身に宿るウイルスが暴走したか、分からないけど、暴走した者は少ないね。」と天笠くんは説明を補足した。
スヴィトラナの言葉を聞いた後、私は少し安心した。その上、彼女に敬意を払おうと思う。同い年なのに、彼女は私よりいっぱい知っている。もし大疫病が起きなかったら、彼女はきっと一流の大学に入れるだろう。
私たちはすぐご飯を食べ終えた。スヴィトラナはちょっとストレッチした後、軍刀を取って「ちょっと散歩してくる。」と言って出かけた。私と天笠くんはお皿を片付ける。
「私がお皿を洗いますね。料理を作ったのは天笠くんですから。」
「それなら、スヴィタ姉は全然家事をやっていないね。」
天笠くんは「しょうがないな」という表情を作った。
「スヴィタ姉は『一人っ子の娘だからよく寂しいと感じたわ』と何回も言いましたが、あれこれを命令できる相手が欲しいだけかな、と思っています。」
「天笠くん、安全ゾーンに居た時も家事の担当でしたか?」
「はい、よく料理の番をしました。学校に居た時、私もお弁当の料理をスヴィタ姉に分けたことを覚えています。だって、彼女の家族は仕事で多忙で、あまりお弁当を作ってくれる機会がなかった…彼女の手料理と言えば…」
天笠くんは頭を横に振り、少し笑った。
「それなら、昔から仲がいいでしょう?」
「まあ、そうですけど…彼女が私に命令する態度はもう先輩と後輩の関係を超えていると感じますね。」
実は、旅の始まりから私はずっとこの二人の関係が面白いと感じている。二人は家族でも恋人でもないのに、天笠くんはスヴィトラナに従い、文句ばかりだが実際な反抗もなかった。
スヴィトラナはもちろん私たちの大将だ。でも、もしまとめ役の天笠くんがいなかったら、また戦闘に慣れていない私はきっと彼女の足を引っ張るだろう。天笠くんは私たちより年下だが、負っている責任は軽くない。ちょっとすまないと感じる…
「スヴィトラナはきっと天笠くんが頼もしいと思っているでしょう。」と私は微笑んだ。
「平山さんが面白いと思っても、私は全然気楽じゃありませんよ。」
「柚依、紀序くん、明日の朝出かけて、覇遵会が物資を貯めている場所を襲いに行こう。」
スヴィトラナは戻った後、冷静で威厳のある声で私たちにこの計画を教えた。どう答えればいいか考える内に、天笠くんは質問した。
「あいつらはどこに物資を貯めた?どこからの情報?」
「高木先生から、あいつらが長野の東の辺境に二つの拠点を持ってることを聞いた。一つは佐山市の郊外、もう一つは名高い避暑地の軽井沢から遠くない。この情報ね、高木先生が関さんから聞いたことだから、信憑性は低くないと考える。」
「確かに、佐山から軽井沢までいい場所だ。住める旅館とか別荘とかいっぱいある上に、山も近い。それじゃ、二つの拠点を守る覇遵会のやつらは何人いるか知ってる?」
「いえ、知らないわ。でも、確認できる事は、あいつらはそこに基地を建てた後、長野の東部を自分のものにした。今は埼玉、群馬を狙ってる。せいぜい三十人しかいないかな。」
「三十人?あなたの推測が正しくても『しかいない』じゃないよ!覚えているの?やつらは進化者なのだから、銃を持っても勝つのは難しい!」
「だから、襲撃しようね。しかも、全員殺すつもりはないよ。」
「どうやって高木さんにそういう情報を聞いたの?まさか軍刀を彼の喉に当てた?」
「失礼だわ!私ってそんなに横暴なイメージ?『後で長野の西部に行く予定があるから、ヤクザたちに阻まれない』って先生に伝えただけで、彼が敵の位置を教えてくれたよ。」
覇遵会を止めようとすれば、人を殺すべきだと分かっているが、心の準備はまだ…曇島村で戦った時、私は偵察の役だったから、敵の首をはねたり、胸を撃ったりしたのは私ではなかった…が、彼らの死んだ様子を思い出すと、体が震える。覇遵会の成員たちはたしかにひどい悪事を働いたが、日本を変えたこの災いがなかったら、彼たちは多分勤勉なサラリーマンとか、真面目な学生だったはずだ。それゆえに、ヤクザなら死ねばいいと考えられない。
「私たちはやくざたちを不安に感じさせる。やつらは暴力で人を脅してきたけど、闇に隠した敵に遭えば、驚いてどうしようもない状況になるかも。先に攻めていく、ヤクザたちに意図を汲む機会を与えない。そうしないといけない。」
「スヴィタ姉、安全、安全を考えてもらえる?相手は進化者のグループだよ!戦闘力は怪物に負けない。しかも、怪物みたいなバカじゃないよ!」
「не хвилюйся~今晩は特別な『爆弾』を作ろうね!」
「自分で特別な…『爆弾』を作るか……家で爆発しないよね?」
天笠くんは先に私の疑問に答えた。
「安心してください。彼女は何回も作ったことがあって、特に危険性がありません。でも、爆弾は進化者にそんなに役に立つか、確かめていませんね。」
私も戦争映画を見たことがあるから、爆弾が人をバラバラにするシーンが頭に浮かぶと、ドキドキになってしまう。「殺人」と「死亡」は自身にとって遠いことだと思った…
それより、疑わしいことは、スヴィトラナはどうして爆弾の作り方を知っているの?安全ゾーンの軍官に教えられたか?とにかく、殺人に関わる技を習いたくない。でもさ、近いうちに、仲間を守るために人を殺す必要があることが分かっている。
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