2 このうらみ、はらさでおくべきか
「そういう訳で――漫研の部員たちは
「なるほど……。それはなんというか、困ったことになりましたね」
「そう、まったく……」
「髪の毛なんてあからさまに不気味ですしね。漫多さんが藁人形を連想するのもなるほど頷ける話です。ただ、そのせいで呪われている……身の回りで不運な出来事が続いているというのは、こじつけのような気もしますが」
「こじつけ……僕もそう思うんだけどもね……」
そうは言いつつ、先生もこの事態には少なからず動揺しているようです。
よくよく目を凝らしてみれば、ぬいぐるみはどれも手作り。送り主の執念のほどがうかがえます。
「漫研の子たちは、これがいつまで続くのか……そして終わるとしたら、そのとき何が起こるのかを心配してるみたいなんだ。僕としても……この
そうした呪術的な意図を感じてしまっても仕方がありません。なにせ、クマのぬいぐるみに入っていたのは本物の髪の毛と、人間の臓器(模型)なのですから。
「その一部が今、先生の前に揃っていますからね、先生の身にも何か起こるかもしれませんよ」
「う」
「くふふ、冗談です。……しかしですね、仮に何か起こったとしても、それは偶然というものです。それこそ、こじつけです。何か悪いことが起こった時、それに意味を見出そうとするのは人類の悪い癖。たとえば――突然のスコールに降られてずぶ濡れになった、それは今朝の星座占いで最下位だったからではないか……というように」
「まあ……言われてみれば、そうだね」
「何か一つ悪いことがあると、その他の物事も関連付けて考えてしまうものです。あるいは、その一つをきっかけに、他の物事も悪く見えているのかもしれませんね。それは逆に言えば――何か一つ解決すれば、他の不運も芋づる式に解決するかもしれない、ということです」
「? ん? ……どういうこと?」
「たとえば先生、今も一つ問題解決の兆しが見えてきましたよ。ぬいぐるみに入っていたという、この
「やっぱり……そう思う?」
先生は改めてぬいぐるみに視線を巡らせます。今、先生の頭には二つの選択肢が浮かんでいました。一つはこのぬいぐるみをまとめてそのまま名滑先生に贈呈すること、もう一つは先生自らクマたちの開腹手術を行い、臓器を摘出することです。
「ともあれ、ここは問題が一つ解決しそうな見込みが立ったと良い方向に考えましょう。まあ、全部揃うということはつまり、呪い(仮)が完成するということですが」
「漫研の子たちが怯えているらしいから、それまで待つ訳にも……」
先に述べたように、先生としては早々に解決したいのでしょう。そのためには犯人を突き止めねばなりません。
クマのぬいぐるみが毎日漫研の部室に現れるということは、部室を張っていればいずれ犯人は見つかります。しかし鎌瀬先生は教師というその立場上、部室をずっと見張っている訳にもいきません。そこで、
「私の出番ですね、お安くしておきますよ――そうですね、具体的には……
「いや、生徒の君には頼めないよ」
「おや肝心なところはスルーですか」
「それに、犯人と鉢合わせて何かあっても大変だし――」
「何も起きませんよ。不運の矛先は漫研に向いていますし、そもそもそのぬいぐるみは漫研の不運とは関係ありません――犯人の目星もついています」
「犯人が?」
可能性としては学校内に出入りできる人物、生徒だけでなく教師や事務員も含めた――つまり、ほとんど手がかりがないと言っても過言でない状況です。
「聞きたいですか? 知りたいですか?」
話したくてたまらないといったようにうずうずしている美少女です。鎌瀬先生は苦笑気味に頷きます。
「犯人はずばり、女の子です。考えてもみてください、クマのぬいぐるみには髪の毛の束が入っていました。既に開腹されている二体のみならず、そこに並んだ八体および今後送られてくるぬいぐるみにも含まれているとすれば――相当な量の毛髪が必要になります」
「ということは……ここ最近で急に髪が短くなった、元々は長髪の女の子?」
「その通り」
素敵な笑顔を受けて、先生は考えます。女の子が髪を短くする理由――といえば、真っ先に浮かぶのは「失恋」です。イメージチェンジや、暑くなってきたから、という可能性もありますが、現在は11月も下旬に入り、髪を切るのに適しているとは言えないでしょう。
そして、「呪い」に関することを連想すると――
「漫研の誰かに、フラれた恨みから……」
「だから先生、物事を悪い方向に考えるのはやめましょう。これは失恋したから相手を呪ったものではなく、むしろその逆――恋の、おまじないなのです」
「恋……?」
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