第二十章「若獅子祭前日」(4)
4
「なっ!!!! なぜ戦の前に火の手が上がっているッッ?!!」
お城の南側一帯からメラメラと炎が燃え盛っているのを見て、ヴェンツェルが慌てて駆け込んできた。
「ま、まさかA組の仕業……、いや、防護魔法で他クラスにそんなことはできないはず……、ま、まさか内部の犯行……」
「ううん、僕がちょっと火を付けてもらっただけ」
「ちょっとって……、ほとんど山火事ではないか!!!!」
ヴェンツェルがはぁはぁ言いながら僕に抗議する。
「この子……、このままだと心労でハゲるんじゃないかしら」
こないだはすぐに慣れるわよ、とか言ってたくせに、アリサがそんなことをつぶやいた。
「お、アリサがいた。土木班でケガ人が出たみたいだから、軽症らしいけど、ちょっと見に行ってあげてくれる?」
「わかったわ」
「さ、ヴェンツェルはこっちこっち」
僕はヴェンツェルの手を引いて歩いた。
向かう先は自陣の南東部。
川沿いを辿っていくと、ゆるやかな清流のせせらぎが激しい濁流へと変わり、やがて大きな滝が現れた。
「ここが川の上流か」
「そ。僕はどうしてもここを押さえておきたかった」
「ほう……」
ヴェンツェルが真剣な表情で、滝の水をすくっている。
本人はとっても真面目なんだろうけど、滝の水が眼鏡にかからないようにしながら滝にさわっている姿は、休日に川遊びして遊んでいる女の子にしか見えない。
「メル、おつかれさま!!」
僕は滝の反対側から飛び越えてきたメルに声をかける。
「村のおじさんたちが、あなたの設計どおりのを作ってくれたわ!!問題なさそうよ!!」
滝の音が激しくて聞こえないので、物静かなメルが珍しく大声を出しながらこっちにやってくる。
また貴重なものが見れてしまった。
「む、村のおじさん?!」
「あ、せ、西部辺境警備隊の人たち……」
思わず出た僕の質問に、近くまで来たメルが顔を赤くして答えた。
心の中で思っていたイメージで言ってしまったらしい。
「それじゃ、一度『アレ』を下ろしちゃってみてくれる? 」
「わかったわ」
メルは答えると、滝上の方に向かっていった。
「……どういうことだ?」
ヴェンツェルが怪訝そうにこちらに尋ねる。
「まぁまぁ。見てて?」
僕がそう言ってしばらくすると、滝の流れが弱くなり、やがて完全に止まった。
「……君は、まさか……」
「こういうのは、君の得意分野だろう? 軍師殿」
僕はヴェンツェルににっこり笑った。
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