第2話:鷹村ツバサの疾走
鷹村ツバサ。高校二年生。
鴉の濡れ羽色、と詩的な表現が似合う艶やかな黒髪ロング。高身長で足はスラッと長い、均整が取れたモデル体型。王子様的美貌の持ち主で、特に凛々しい眼差しに撃ち落とされた女子は校外でも後を絶たないとか。
オマケに成績優秀スポーツ万能と完璧超人を地で行く、才色兼備の優等生。
そんな彼女が、なぜ俺やタマのような日陰者と親しくなったのか。そこには動画配信が関わってくるわけだが、それは後々語るとして。
今日も体育の授業、体育館にて。
男女に分かれてのバスケで、ツバサは絶好調の活躍を見せていた。
「フッ――!」
「止めて止めて!」
「無理! かすりもしない! ていうか今の残像!?」
「キャー! ツバサ様素敵ー!」
「これで三試合十連続得点よー!」
女子の黄色い声援を浴びながら、バスケ部員を軽やかにかわすツバサ。
その華麗な動き。きらめく汗。戦場に立つかのごとし真剣な眼差し。
プロ試合やスポ根ドラマのワンシーンみたいな絵に、観客は熱狂する。
「ふわぁぁぁぁ。ツバサさんが、足捌き、ゲームの!」
「ああ、そうだな。タマが好きなゲームキャラの動きを再現したヤツだな、アレ」
そして当然、タマもツバサの活躍にメロッメロだ。
刀を振るう腰の回転から繰り出す鋭いステップ。抜き去った相手が、すれ違いざまに両断される錯覚さえ見えるほどで。十中八九、タマを喜ばせたいがための技だろう。
実際タマはすっかり胸一杯一杯で語彙力も喪失。一人じゃ感動やらときめきやらを消化し切れないタマに、俺は付き合わされている形でして。自分の試合を絶賛サボタージュし、タマと体育館の隅っこに座り込んで観戦中だった。
――ま、なにも付き合いだけで試合サボッてるわけじゃないが。
「…………」
それとなく視線を巡らせば、忌々しそうに舌打ちする女子グループが複数。その嫌な目つきは俺だけでなく、むしろ多くがタマに対して向けられていた。
ツバサが校内一と言っていい人気者である一方、タマはお世辞にも人気があるとは言えない。内気で人と関わりたがらないし、動画配信のことも学校では(一応)隠している。他の生徒からすれば、ぶっちゃけツバサの添え物程度の認識だろう。
それでも『ツバサが選んだ相手なら』と、生徒の半数は二人の仲を温かい目で応援してくれている。しかし裏を返せば、残り半数には快く思わない者も多い。
いわゆる『あんな根暗はお姉様に相応しくない!』的な思考回路でタマを敵視する輩も、決して少なくない数で潜んでいるのが実情だ。
だから今みたいにツバサが傍にいられないときは、俺がタマのボディーガードとして傍につくのが常。今も睨みを飛ばして、友好的でなさそうな女子を牽制中なのだ。
「ありがと、ね」
「なにを今更。俺とタマの仲だろ」
仲というか腐れ縁? 別に深い意味はない。ないので、『夜道には気をつけろ』的な怖い顔でこっちを睨まないでくれませんかねツバサさん?
ああもう、そんな余所見してたら怪我するぞ――あ。
「タスク」
「あいよ」
俺は立ち上がって、ズカズカとコート内に踏み込む。
「鷹村さん! 次は私たちと一緒にやりましょう!」
「ちょっと! お姉様は私たちとチームを組むんだから!」
「悪いがファンサービスはここまでだ。うちのブチャ猫姫が待ちくたびれてね。というか、いつまでツバサを休みもなく付き合わせてるんだよ。ツバサはお前らの玩具じゃないんだ、休憩くらい取らせろっての」
ツバサに群がる女子どもを押しのけ、反論の暇も与えずツバサを抱え上げる。
金切り声の悲鳴がキャンキャンうるさい。女子どもの文句は睨みつけて黙らせた。
タマの下へと運送しつつ、ツバサに耳打ちする。
「足、捻っただろ。後で保健室行くぞ。ごねたらお姫様抱っこのまま運ぶからな」
「バレたか。かっこつけようとしてこのザマとは、情けないわね」
「バーカ。ツバサが宇宙一かっこよくて美人で、空回りするほど頑張り屋なのはよく知ってるよ。俺も、タマもな」
ツバサが完璧に見えるのは、こいつが何事にも全力以上で頑張るからだ。
その目的が「周囲の期待を裏切りたくない」から「好きな人の前でかっこつけたい」に変わってから、ますます彼女の輝きは増したと思う。無茶も増えたが。
近くにいてそういう危なっかしいところを知ると、支えてやりたいって気持ちにさせられる。タマもそういうところを含めてツバサに惹かれたんだろう。
だから見栄を張るなとは言わない。ただ、こいつはもっと素直に俺たちを頼るべきだ。
「気障な台詞だ。誰かさん相手に言い慣れているのか? 心なしか、このお姫様抱っこだって手慣れているような」
『タマコをベッドに運んだりしたのか? 可愛い寝ぼけタマコをお姫様抱っこでベッドに運んだりしたのか!? タマコの香りが染みついたベッドに引き込まれるラッキースケベがあったりしたのか、どうなんだ!?』
「漫画の受け売りだよ。それにタマ相手にやったのはただの運搬。色気づくようなことは何一つなかったから」
だからその視線だけで鋼鉄も切断しそうな目で俺を睨むなっての!
それにこいつは速やかにツバサを回収し、良からぬ連中がタマに絡む隙を与えないための合理的な判断。他意も下心も一切ない効率主義だから。
「……楽しそうだねえ、二人とも」
『普段王子様扱いされてる美少女をお姫様抱っことか、どこのラブコメ漫画だ! あたしに、あたしにツバサさんをお姫様抱っこできるマッスルがあれば!』
だからタマも暗黒オーラ背負いながら、俺が親の仇かなにかみたいな目で睨むなよぉぉぉぉ! 俺が足捻ったツバサ助けたのもわかってるだろぉぉぉぉ!? 女子どもからも汚物を見るような目されるしで、俺の味方がどこにもいないんだが!
――拝啓、お母さん。俺は今日も百合の間で板挟みにされてつらたんです。
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