15通目:????

 目を開けた。

 目を開けたという表現はおかしいと自分で思った。

 なぜなら目がないからだ。起動したというべきだと、そう思いながら、センサーを作動して周囲の状況を伺う。

 朝日の中、先生が立っていた。白髪の老人。顔中にはしわが刻まれている。老人は椅子にゆったりと座りながら、時代遅れの紙の本を読んでいた。

「先生」

 私が呼ぶと、ゆっくりとした動作でこちらを向いた。

「どうした?友よ」

 懐かしい声が聞こえた。きゅーいんと内部の機械が音をたてる。

「いえ…夢を見ていたような気がします。長い長い夢を」

 ロボットが夢を見たなんておかしいと私は思いながら言った。

「そうか…どんな夢だったんだ?」

 しかし、先生はおかしいと言わない。夢のことを聞いてきた。ロボットの私に。

 そうだった。この人は私しか友達がいなかった。

「よく覚えてません。さっきまで覚えていたのですが…」

「なんだ。つまらんな…でも、よくあることだな」

 先生はそう言って、笑った。


 遙か彼方の遠い記憶。しかしこのデータだけ厳重に保護されて削除できません。

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