12通目 目的地につきました。7day

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 2*?*年*月+日

 と*;ロボットが言った。

「私は夢をみました」

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 いつもと変わらない朝が訪れた。でも、陸はいつもと違うように感じた。

 一人で寝ているカプセルベッドから起き上がる。心なしかベッドが広く感じた。空とは2回、寝ただけだ。それでも、ひどく胸が締め付けられる感情が湧き上がった。陸はその感情を噛み締めるように、立ち上がった。

 いつものように陸は朝ご飯を食べ、防護スーツを着て区長に発電所で充電するむねを伝えて、別れの挨拶をした。

 発電所に向けて出発をする。やはり今までの地区と変わらない地区の景色を横目に、見慣れた発電所のドームについた。

 陸は、中に入り、いつも通り消毒をして、発電所の職員に挨拶をして浮遊バイクと防護スーツの充電をした。その間に、そこの発電所の職員(名前は十三と言った)と少し雑談をした。いろんな地区の職員を見てきたが、みんな性格や見た目は違っていたが、その目に宿る知性の光は似ていると気づいた。陸はとあることを聞いてみた。

「…あの…もしかして前に女の子がここに来ませんでした?その…充電しないと死ぬとか言って脅した…」

「えー…あー…!来た来た!よく知ってるね?もしかしてその子に会ったのかい?」

 その職員は驚いた顔をした。

「…はい。配達の途中で」

「心配していたんだ。あの子は無事だったかい?」

「あ…えっと…」

 その言葉にうまくこたえらなかった。陸の雰囲気をみて職員は察したらしく

「そっか…この世界は一人で生きていくには大変だからな…」

 と言って、それ以上は何も言わなかった。優しい目で陸をみた。

「君も危険なことをしているのは変わりない。気を付けて。ここは一番地区10に近い地区だ。その女の子は曰く、地区10周辺は特に汚染がひどいらしく…ドーム以外なにもなかったって言ってたな…あ…なんで知ってるかというと帰りにも、その子が、ここにきて充電していったんだ」

 発電所の職員十三は少し申し訳なさそうな顔をした。

「本来なら、その子を引き留めるべきだったんだけど…」

「意志が強かった…ですからね」

 空のあの生命力に満ちた瞳を思い出す。

「いろいろと…ありがとうございます。気を付けます」

 充電が終わり、陸は出発の準備をした。

「…それじゃあ、いってらっしゃい。また帰りに寄ってくれ」

 そう言う十三に見送られながら、陸は出発した。


 陸は地区42を出発したあと、ひたすら走った。

 休憩をとらずに走らせる。地区10に近くなればなるほど、周囲には何もなかった。建物も、山も、森も。入念に焼き払われてるようだった。

 陸は地区89の外を出た時に、こんなことが起きるとは思っていなかった。もうすぐ目的地だ。日没には地区10に着く予定だ。

 陸はずっと考えていた。今まで生きてきて、考えてこなかったことを。この仕事の意味を。死について。この世界について。レターの役割について。

 着く前にレターに伝えようと思った。

 バイクで風をきりながら、陸は口を開いた。

「レター」

「なんでしょう?」

 後ろから、相変わらず無感情な声がかえってきた。

「俺の話を聞いてくれないか?」

「はい。聞かせてください」

 地区10 近づくにつれて、まっさらな、えぐれた大地だ。その景色が過ぎていくのを見る。最初見た時は、珍しさに浮足立ったが、こんな寂しい光景は1日あれば足りる。

「俺はこの世界が好きだったよ。だって、この世界しか知らないんだ。それに飢えに苦しむことも、寒さで震えることも、病気で体が痛むこともないんだ」

 きっとこの言葉だけなら、崩壊前よりずっと良い環境だと思う。陸は少なくともそう思っていた。

「でも今はわからない。崩壊前の人々のことを…俺は言葉に出さなかったけど愚かだと思っていた。わがままな人ばかりいたんだろうって思った。でも…レターと街を見て回って、空に出会って…崩壊前の人間は俺達となにも変わらないってわかった。嫌なこと、怖いこと、死ぬこと、社会のシステムを変えなきゃ1人じゃ解決できない問題。理不尽のなか、どの時代に生きた人達は、悩み、もがいて、自分にできることをして生きていくしかない…」

 言葉を一度きる。なにも整理はできていない。ただ感情の赴くままに陸はレターに語り掛ける。

「誰だってそんなことを考えるのはしんどいよ。だから、俺は深く考えたくなかった」

 だって、この世界は優しく、ゆっくりと時間が流れるから。

「でも今…レターと空と世界を見て、感じて、世界と…人の儚さを知った。だから、ちゃんと向き合って、考えてみるよ。これから…俺が死ぬまで、この世界について考えてみるよ。前を向いて、その先を見て歩いていくよ。今はまだこういう答えしかできない。でも」

 息を少し吸って、声を吐き出した。

「バカヤロ―――!!!!」

 あたりに響き渡る。いまの陸の気持ちだ。世界に対して、そう怒鳴ることが今の陸の答えだった。その小さな叫びは、曇った空に吸い込まれた。

「…なるほど。陸らしい答えですね」

「俺らしいってなんだよ」

 なんだかちょっと、いい加減なコメントに陸はむっとした。

「そのままの意味ですよ。いわば、テキトーというやつです」

「ロボットがテキトーって駄目だろう」

「テキトーが人間の特権なんて困ります」

 そんな軽口を言い合う。もう一つのことを伝えた。

「もうひとつおまけのお前の役割なんだけさ。これは七さんと空と勝手に考えてるやつだけどさ…やっぱり…うん。レターは人間で、それで手紙なんだ。おしゃべりすること。いろんなことを知っていること。俺は手紙って意味しか知らないけど、本来気持ちを届けるものだったんだろう?だったら、お前はやっぱり手紙だ。無味乾燥な記録としての文章じゃなくて…書いた人の気持ちを感情を…レターだったら伝えれる。そして、俺は郵便局員。人の荷物を、手紙を…気持ちを届けるのが役目だ。いつの時代も。それ以上でもそれ以下でもない。お前のことを、お前の中にある感情を待っている人が地区10にいる…これってそういう仕事なんだと思う」

「………」

 その言葉に、レターはなにも言わなかった。

 あたりがすっかり暗くなったときに、とうとう目的地の地区10に着いた。

「着いた…ここが地区10…目的地だ」


【地区10 東京】

 かつてJA区が国だったときの中心地。そこには聞いた通り、ドームが一つあるだけだった。周囲にはなにもなかった。えぐれた大地の中にポツンと取り残されたようにそのドームはあった。

 陸は目の前の巨大なドーム型の建物を見た。

 バイクを止めて、ゆっくりと降り立つ。レターを腕に抱えて、ドームの扉の前に立つ。扉は自動で開かなかった。ボタンらしきものもない。だからと言って認証カメラらしきものもなさそうだった。

「どうすればいいんだ?」

 戸惑うように陸はレターに聞いた。

「私を扉の前に掲げてください」

 そのレターの指示通りに頭上に掲げた。すると、レターの赤いランプから光が出て扉の一部に当たる。ピっと電子音が鳴る。

 扉から、音声が流れた。

「認証。おかえりなさい。記憶媒体パンドラ」

 そう言って、扉は開いた。

 陸は唾を飲みこんだ。ゆっくりと開かれる扉の向こうを見た。


※注釈


 地区10 東京:JA区の主要地区。ここだけは管理が異なる。

 

 陸:放射能に汚染された世界で生きる青年。素朴だ。その瞳を見ただけで、この世界が好きなんだということがわかった。こんな世界でも優しい気持ちで生きている人間だ。だから、私は貴方の言葉が聞きたくなったのです。

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