14話:到着

 ケイジが住む地区に着いた。

 早々に悶着が起きた。警備員は三人を外見で高リスクと判断した。まずケイジが反論する。


「僕はここに住んでいます。普段はバスでしたが、今日は訳あって歩いて来ました。連絡先が必要なら提示します」


 電話番号を渡すとすぐに確認がとれた。


「失礼しました。残りのお二人も同様でしょうか」


 これに対してはレタが口を開く。


「私は運び屋ギルドで、彼を自宅まで送り届ける契約で来た。そして、こっちのスクシは私の助手」


 レタはドッグタグを提示し、機械で読み取らせる。確認ができたので通る許可を出す。一方でスクシは、住民ではないし、運び屋ギルドへの所属もしていない。助手と紹介されるのみで通行させて、もしトラブルが起これば、糾弾されるのは警備員だ。役目として相応の給料をもらっていて、その給料をわずかに減らされるだけでやがて生活が破綻する。人質を取られた状態だ。その背景では、スクシを追い出すほうがリスクが小さい。警備員はそうする。


「いや、それでいい。俺の役目はここまでだ」


 スクシは早々に諦めて、しかし清々しい顔で続けた。


「レタ、楽しかったよ。次に会えるなら、正式に同業者になってだ」


 ケイジも、レタも、程度の差はあれど寂しさを顔に出した。


「ここまでありがとう。語り合う相手ができて楽しかった。また会う日のために、話題を蓄えておくね」

「おかげで助かった。ありがとうね。生きてまた会おう」


 湿っぽい言葉は早々に切り上げて、背中合わせで歩き始めた。


 門の先は、景色のすべてが外とは違う。地面は歩きやすい平らに舗装されて、植物は規則的に整列している。ここにいたらどんな災害があっても気づかず、何が起こっても対処できそうに見えた。


 すれ違う人の服装も、動きやすさ以外の基準を持っている。掴みやすい飾りがあっても弱点にならず、武器を持たない無防備な姿でも平気な環境だ。


 ケイジの自宅までは、道の選び方を本人に任せて、レタは黙って後ろを追った。友人らしき人物とすれ違うときに軽い挨拶をする。相手はケイジの成長に驚き、何があったのか質問するが、ケイジは先に家へ向かうと答えた。


 いよいよケイジの家が見えた。道路の突き当たりで、直角に曲がる道の角に広い敷地を持っている。ちょうど母親らしき女性が扉の前に出る。足を進めるほど姿が大きくなっていく。


 ケイジの歩みは落ち着いていて、もし左右から子供が飛び出しても衝突を防ぐ。確実に足を進める。最後の最後が過ぎるまで、完了するまでは決して気を抜いてはいけない。


 内側から門が開けられる。母親らしき女性は扉と門の間で、荷物も遮蔽物もなく、到着を待っている。


 ついに、公道と私有地の境目を踏み越えた。


「おかえり、ケイジ」

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