衣・食・銃 全16話+おまけ

終点の先 6018字

13話：最後の一泊

　ホテルのベッドで朝を迎えた。レタはいつも通りに、起き出す前に周囲の様子を探る。呼吸の音が見つからず、足音も見つからず、しかし硬い円型を硬いものに置く音が聞こえた。扉を隔てた音だ。

　安全と把握し目を開け、体を起こした。念のため腰に手を伸ばすと、ホルスターの場所が普段とは違う。

　寝る直前を思い出す。確か昨日は、監禁から解放されて、決定打はケイジとスクシの活躍があってこそで、ホテルに逃げこんだあとは、すぐにシャワーを浴びて寝てしまった。

　レタが起き出すと、テーブルに朝食が用意されていた。

「おはようございます、お姫様」

　スクシが仰々しく朝を知らせた。レタは困惑し、まずは頭を上げるよう伝える。そして急にどうしたのかを確認した。スクシは穏やかに戯けた笑みで答える。

「大変な目に遭ったから、少しでも回復してほしくてさ」

　朝食を勧める。ルームサービスの一品を勝手に注文した。レタは咎めず、カバーを外して食べ始める。

　三人はそれぞれ、見慣れた顔に安心した。たったの一日半が、ずっと長い期間に感じる。レタの食事中に二人は、窓の外を見たり、荷物の準備をする。どちらもレタから学んだ動きだ。

　食べ終えてから、レタは礼の言葉を改めて口にした。

「ケイジ、スクシ。ありがとうね。おかげで生き残れた」

　口にした途端、実感が湧いてきた。胸が熱くなり、背中が小さく震える。三人ともがだ。

「本当、無事でよかった。無事つながりで、メールの通知だけ見えちゃった。ごめん」

　レタの手元にスマホを差し出した。レタには心当たりがある。肺を大きく膨らませて、ゆっくりと吐き出す。レタが熱心に活動していた目的を達成したのだ。これまでのレタは、得たお金のほとんどを募金して、特定の一人が手術を受ける資金にしていたのだ。

「その顔は、助かった知らせだね」

「ええ。どこまでご存知かな」

「荷物にあった一冊半の漫画の作者さん。そうだね」

　レタは頷くのみで、黙って噛み締める。ケイジとスクシも、その様子を見て表情を穏やかにしている。

「焼けた跡があったでしょう。火事に巻き込まれて、手元の最新巻と、お気に入りの四巻だけ持ち出せたんだ。そのあとはどうにか生きてきたけど、先生が倒れてからは」

　レタは話を途中で切り上げた。言葉を探すのも野暮な気がした。

「どうでもよかったね。出ましょう」

　レタは立ち上がり、荷物を開く。ケイジとスクシは顔を見合わせて、同じく準備に移った。

　荷物のうち何が減っていて何が残っているか改めて確認した。荷物を持ち上げ、出発の準備が整う。出るぞと言うつもりで振り返ると、二人は既に準備を整えていた。初めてレタが最後になり、驚き顔を見てケイジが口を開く。

「行こう。今から出れば、夕方には着く」

　ケイジの言葉と顔を見て、レタは呟く。

「見違えたね」

　ケイジは「君こそ」とはまだ言わなかった。