6話:運び屋ギルドの仕組み
一行にスクシを加えて三人と一匹になった。
しばらくの山道を賑やかに下る。頂を右後ろに見るなだらかな地形で、足場が傾いている他は危なげなく進める都合のいい道だ。
昼の休憩の後は一転して、声を潜めて周囲への警戒を見せた。そろそろ人里が近いので、些細な音から察知しなければならない。見落とせば十中八九は死だ。
スクシは横顔を見る。ついさっきまで話していたケイジの足運びが変わり、小慣れた顔つきをしている。目線の先がどこを向いているか定かでなく、たまにスクシにも音が聞こえたら音の方を見ていると気づいた。
結果としては、何事もなく街に着いた。人目がある場所ではある程度は安全になる。ササキを近くの森林で待たせて、料理店に向かった。
夕食どきとあって、他のグループも多く列んでいる。レタは列を無視してホールスタッフを呼び止め、胸元のドッグタグを出し、運び屋ギルドの紋章を見せた。スタッフはすぐに静かな個室へ通す。連れとしてケイジとスクシも呼びながら、配膳台の機械にコードを読ませた。
「合計三人、アレルギーなし。いいですね」
「ええもちろん。お疲れ様です」
それだけ言葉を交わし、グランドメニューを三人の前に置いた。
「二人とも、好きなのを注文して。ただしタンパク質を多めに」
ケイジは、レタの話を聞きながら落ち着いてメニューを読んでいる。一方のスクシは、話に聞く耳を持たずメニューの写真を見て回った。
「本当に、注文していいのか」
「もちろん。決めたら教えてね。票に書く」
「さっきの、何か見せてたあれ、何なんだ」
身を乗り出すスクシに対し、ケイジが片手を引き、レタが言葉でなだめる。
「先に注文して。待つ間に話す」
伝えられた内容と、その後にレタが選んだ料理を注文表に記して、扉の外へ渡した。
「さてスクシ、何から聞きたい?」
「全部だ。何もわからん」
レタは頷いて、スマホの画面を見せた。
「まずはこれ。運び屋ギルドの紋章と二次元コード。これを読み取って活動記録を残す。しばらくは飲食費の大半がギルド持ちだから、安心して」
スクシは驚いた顔で叫んだ。
「タダで食えるのか!」
「静かに。月毎の上限まで。企ては失敗する」
スクシもケイジもまだ不思議そうな顔をするので、理由を付け加えた。
「運び屋ギルドは元々が、富裕層が出歩くリスクを肩代わりさせるための組織。担い手が死んだらやがては自分たちが困るから、衣食に関する補助がある」
ウェイターのノックが聞こえた。
「失礼します。前菜をお持ちしました」
三人の前に取り皿を置き、中心にボウルのサラダを置く。その後は黙ったままですぐに退室した。
「これ、注文してないけど。バランスを考えない者にも最低限の肉と野菜を食べさせる。スケープゴートを維持するためにね」
レタはトングを持った。自分の取り皿には少なめに、その分をスクシの皿に盛りつけた。スクシの困惑顔に微笑みかける。
「きみ、食べてないでしょ。顔と歩き方を見てればわかる。たくさん食べなさい」
スクシは顎を引き、目を強く閉じて、大きな呼吸をした。礼の言葉を短く伝えて、使い慣れないフォークで食べ始めた。
「明日はやることが増えるよ」
レタは念を押す。早めに食べ終えて、スマホの操作をした。ホテルの手配と、この近くで待つ客への連絡と、経路の検討をする。スクシがいるので家具店にも連絡した。荷物が大型ゆえに報酬も大型で、見るだけ笑みが浮かぶ。
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