旧9話:兆候
車で動くのは久しぶりのことだ。おおよそ安全で、しかも高速で移動できる。運転をスクシに任せているので、レタは助手席で道や周囲の確認をしながら、スマホを手早く操作している。
目を休めるのも兼ねて、外に目を向ける。
しばらく考えをまとめたら再び入力に戻った。
「見えてきたぞ」
地平線の先から飛び出したものが屋根とわかった。
その様式から、塀が不要ながら規模は大きい街のようだ。他に見えるものは一面の荒野だが、車の速度なのですぐに木々も見えてきた。
「右側に曲がって。そこでササキを待たせる」
「あの規模なら、ホテルも犬ぐらい同伴できそうだけど」
「問題はそっちじゃないの。話すと長くなるから、後でね」
「わかったよ。聞いてるうちに通り過ぎそうだ」
レタは森林の、人が踏み込まなそうな場所を探した。街に近く、範囲が狭いので、好奇心の強い子供が探検するかもしれない。そう思ったが、それらしい足跡は見つからなかった。
目印にできる木を探し、その近くにある茂みに、手のひら大の筒を差し込んだ。
「これでササキが匂いでこの場所に来られる。出発するときは引き抜いて、中身を食べさせて」
レタは二人に短く説明すると、ササキの首周りを撫でた。長く多く撫でた。ササキはこれを受けて、翌日にはまだ戻らないとわかる。
三人は車に戻り、間近の街に向かった。
ホテルにチェックインするには少しだけ早い。なので先に夕食へ向かった。
入店したら運び屋ギルドの紋章を見せて、登録番号で本人確認をする。読み取って確認が済んだら、三人を席に通された。
レタの周囲で囁かれる内容から違和感を察知した。
近日の話題らしい、きな臭い動向について話をしている。あまり見ない文化圏の顔を見る機会が増えて、その同時期から流通は正常でありながら飲食物の売り切れが目立つようになった。それなのに、バスの乗車率は上がっていない。
これらの話から思い当たることがあった。
話を聞く限り、レタがテロ活動に巻き込まれかけたのと同時期だ。あの勢力は街を少し離れた場所を拠点にしていた。確認こそしていないが、おおかたテントか何かで移動するつもりに想定した。
そんな手合いならば、こちらでも何か計画していて不思議はない。動きがないまま潜伏するには長い気もするが、街の規模を踏まえると、向こうもここを拠点としていると考えられる。
何にしても今回も普段と同じく、すぐに退避できる備えが必要だ。
注文した料理が運ばれる。レタはスマホをポケットではなく荷物に入れた。
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