7.少女は近道を行く


 記憶が正しければ、ここの迷宮に入れる最低条件は銀等級だったはず。


 まずはクエストを達成しながら、階級が銀になるまで頑張る。

 そのあとで実力を認めされば、晴れて迷宮攻略が認められるってわけだ。


「それじゃあ手分けしてクエストを受けるとして、エレシアはどれがいい?」

「んー、そうですね……暴れられるクエストがいいです。そのほうがわかりやすくて簡単ですし、逆に、その……採集とかはちょっと苦手です」

「それならこれとこれ、あとはこれかな? 近くのクエストは全部取られているみたいだから、残ってるのは街からちょっと離れてるけど……エレシアの脚力なら問題ないでしょ?」

「おお、どれも弱い魔物ではありますが、中々に暴れ甲斐のあるクエストですね! さすがはご主人様! 気遣いが素晴らしいです!」

「えへへ、褒めすぎだよ。それだけエレシアのことを認めているって証拠だか────」


「ちょぉっと待ったぁぁああああああああああ!!!!!」


 冒険者ギルド全体に響き渡る声。

 それは私達の受付をしてくれた獣人の子のものだった。


「あ、あなた達は何を考えているんですか!? 普通クエストはパーティーを組んで受注するもの。なのに、分担! しかも片方は魔物の討伐ですか!? ──はぁ!?」


 さっきから思っていたけど、本当に元気な子だなぁ。

 でも、どんなに興奮しているとは言え、肩で息をするほどの大声を出すって、喉とか痛めないのかな。ちょっと心配だよ。


「だから大丈夫だって。私達は十分強いし、それに──この程度のクエストを一人でこなせないくらいじゃあ、ギルドも簡単には実力を認めてくれないでしょう?」


 冒険者階級を上げるためには、ただ強くなればいいってものじゃない。

 強くなることは当たり前として、ギルドからの信頼も大きく関わってくる。


 簡単な話、クエストを沢山達成しなきゃいけない。

 達成した依頼の量はそれだけギルドに貢献しているという指標になり、それは信頼に直結する。


 そのため冒険者職員はその規則に忠実だし、冒険者もその条件を守り、ギルドからの信頼を得ようと地道にクエストを受注している。

 もし、ギルドがその異例を許してしまった時、他の冒険者からの反感は無視できるものじゃなくなる。だからそう簡単に信頼がない冒険者の階級は上げないし、そういう輩は他の冒険者から煙たがられる。


 私達もそれと同じようなことをやっている自覚はある。


 でも仕方ない。


 正規の方法でやっていたら時間が掛かりすぎる。

 地道にやっていく暇なんて、今の私達には残っていないのだから。


 私達は、その異例を何としてでも認めさせなければいけない。そうしなきゃいけない理由がある。

 けれど、このままではギルドは私達のことを絶対に認めてくれないだろう。


 じゃあどうするか?


 それも簡単な話だ。

 ギルド職員も他の冒険者からも、この場にいる全員に反論を出させなければいい。


 それがソロ──単独でのクエスト達成だ。


 ……とは言っても、クエストによって難易度は変わってくる。

 たとえば『街のすぐ外に生えてる薬の材料になる葉を採取してこい』というクエストをソロで達成したところで自慢にならないし、同等級の冒険者からは「だから何?」と言われるだけだ。なにも凄くない。


 だからクエストの難易度もちゃんと考えるべきだ。


 たとえば、プリシラに渡した依頼。

 これの討伐対象に指定されている魔物は、銅等級冒険者が四人で組んだパーティーでも達成するのは難しいと言われていて、冒険者達の間では銀等級に上がるための登竜門と囁かれていたはずだ。


「このボーンベアーは、銀等級一人でのクエストは不可能って言われてる。それじゃあ、もしその魔物を一人で討伐すれば、その人は銀等級以上の実力を持っている証明になるよね?」

「うっ、それは……」


 かなりの暴論ではある、とは自覚している。

 それに、たった一度達成しただけだと「偶然だろう」とか「魔物も疲弊していただけだろう」とか、ああだこうだ難癖を付けられる可能性は十分にありえる。


 だから、銀等級としての実力が十分にあると言われる討伐依頼を全てプリシラに渡した。

 これを全て達成すれば、偶然だなんて言われることはないでしょう。


「ですが、それでも危険です! 仮に実力があったとしても、人は完璧ではありません! もし不意を突かれて失敗したらどうするおつもりですか!? 一人では何もできませんよ!」

「じゃあ『助っ人』を貸してよ。私と彼女に一人ずつ。それなら心配ないでしょ?」


 冒険者ギルドには、まだパーティーが集まりきっていない初心者冒険者や、不慮の事故で仲間を失ったパーティーをお手伝いする制度がある。

 それが『助っ人』だ。

 ギルド職員には冒険者だった人が多い。その人と臨時でパーティーを組んで、初心者はそこで冒険の基礎を教えてもらったり、パーティーの人数が心許ないと感じたら数合わせをしたりする。


 この制度を利用できるのは銀等級まで。

 もちろん、私達も利用できる。しかも銅等級は利用無料で、最大二人までなら助っ人を頼める。


 これを利用して、私とプリシラにそれぞれ助っ人を付ければいい。

 ついでに不正をしていないか、実力は確かなのかを確認するための監視役にもなってもらおう。


「…………わか、り、ました……」


 ここまで言われたらお姉さんも流石に言い返せなくなったのか、おとなしく助っ人の利用を認めてくれた。

 助っ人を呼びにいくためにここから離れる時、「いいですか? 絶対に一人で行かないようにしてくださいね。その時点で違反行為と見なして冒険者資格を剥奪しますから! わかりましたか!?」と口うるさく言われたけど、これまでの言動を思い返したら信用されていないのも仕方ないか。


「……プリシラ。職員の前では絶対に魔法を使わないように。単純な肉体戦になるけど余裕でしょう?」

「お任せください。この程度の魔物、人差し指だけで事足ります」


 うちの奴隷は本当に頼もしい。

 でも、人差し指だけで魔物を倒すのは逆にやりすぎだから、せめて右腕くらいは使ってほしいかな。

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少女は二度目の舞台で復讐を誓う 白波ハクア @siranami-siro

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