第24話 死線を越えて辿り着け

 カルマの一言で、戦いの火蓋を切って落とした。


 コネクターが怒りのままに振った巨大な水の槍。

 その水の槍に灯理は自身のスキルで作った火柱で相殺しようと撃ち放つ。


「同じ手を二度も食うと思うなっ!」

「っ!?」


 カルマの《支配》により強化した灯理の火柱は、先程のように全ての水を蒸発させる事ができず、残った水の槍がカルマたちを襲う。


「させるかあああっ!」


 灯理の炎を突き抜けた水の槍を、今度は環が《雷電》のスキルを纏った大剣でなぎ払う。


 水の槍の多くは大剣に帯びた電流により空気に溶け込むように霧散し、攻撃を無力化されていく。


 そこで環も自分のスキルの変化を改めて確かめ動きの幅を理解すると、部屋に入った時の緊張は完全に消えうせ犬歯を出して笑う。


「すごいっ……今なら誰にも負ける気がしないわ!」

「あまり調子に乗るなよ。この《支配》の効果は短時間。死にたくなければ速攻で行け」


 念を押すように環に注意すると、カルマはムカデの頭頂部に足を掛ける。


 それを合図にムカデは無数にある節足で灯理を掴み、自分の背中に乗せた。

 戸惑いで可愛らしい声をあげる灯理を気にせず、カルマはムチの調子を確かめる。


「あのトカゲ野郎までの距離は俺のペット三体で詰める。その間、お前は必殺技の準備と平行で雫に呼び掛け続けろ」

「わ、分かりました!」


 灯理が返事をすると、カルマはムカデの頭の上から下にいる環を見下ろす。


「小娘は俺の《支配》の視界の中で後ろの機械に近け。次に俺の指示で必殺技を撃てるように待機しつつ、こっちに来る攻撃を引き受ける盾役タンクも兼任しろ。できるか?」

「当然っ、むしろ余裕なくらいよ」


 鼻を鳴らす環が自分の目標の機械を見上げる。

 すると、円柱状の機械の表面の一部分が開き、中から機関銃やミサイルといった兵器がずらりと顔を覗かせて環に標準を定めていた。


「…………ねぇ、盾役タンクの代役を頼めるペットっているかしら…………?」

「そんなもんはいねぇ。良かったじゃないか、相手にとってもやり甲斐のありそうな仕事になってよ」

「いや、あっちはやり甲斐じゃなくてり甲斐でしょ!? あんなの私聞いてないんだけど!?」


 環の叫びを聞いた怪人がそれを面白そうに眺めて笑う。


「シシシッ! 念には念をということでね。メインコンピューターには自動迎撃システムを組み込んでいるのですよっ。今見えているのでも一部分ですので残りも楽しみにしてください」

「楽しめるかっ!!」


 環が切っ先をコネクターに文句を言う。


 その間にも馬車馬のようにカルマにムチで叩かれたムカデは、右往左往と変則的なうねりで怪人へと前進していく。


 その巨体に脅威を感じたコネクターは、機械の銃器と自分の腕をカルマたちに向けると、水と銃器による迎撃を開始する。


 水と銃弾の嵐による連続攻撃。


 カルマによって調教されたムカデたちは、それらを糸を通すようにすり抜けていく。


 だが、それは繊細なだけではない。


 時には後退、左にフェイントをかけて右へ、今度はその逆を。


 ムカデ独特の動きと巨大な体に比例して生えた膨大な節足、それらが生み出す奇術的な動きにコネクターは付いていく事ができず、カルマたちは初期位置から怪人までの距離を半分まで縮めた。


 ――これなら行けるっ! そう灯理が思った時、異変は起こった。


「きゃあああっ!?」

「ぐはっ……!?」


 カルマの乗っていたムカデの足元から噴出した黒い水の柱にムカデの巨体は宙を舞い、天井すれすれで停止。


 水柱による衝撃でムカデは絶命し、その超重量の体を無防備に地面に叩きつけた。


「灯理ちゃぁぁぁぁんっ!!」


 機械に向かって走る足を止めて、友人が乗っていたムカデの姿を見る環。


 天井高くから受身を取る事もできずに背中から叩き伏せられたムカデ。


 その死体の傍には灯理やカルマの姿は確認できず、環は声を更に張り上げた。


「灯理ちゃんっ!? 大丈夫なの!? お願い、返事をして!」

「――おい、俺の心配は無しか、小娘」


 倒れたムカデの隣の方から、別のムカデの頭の上に移動したカルマと灯理を見つけて、環は胸を撫で下ろした。


 直前で攻撃に気付いたカルマが、隣で平行して走っていたムカデの触覚にムチを結び、灯理を抱いたままその頭に飛び乗っていたのだ。


「私も大丈夫だよ! それよりもタマちゃんも気をつけて。あの機械、今度はタマちゃんの方に向きを変えてるよ!」

「えっ?」


 灯理に言われて環は機械の銃器が並ぶ一部分動き出し、カルマたちから少し離れた位置にいる環に銃撃を始めた。


 ミサイル、ガトリング、ナパーム弾、三種類の銃器による銃撃と爆撃の連続射撃は、容易く部屋の床や壁を破壊し、その威力を見せ付けていく。


「うおおぉぉぉぉぉっ!! 舐めるなポンコツがああぁぁぁぁぁ!!」


 大剣を肩に背負い、その刃に青白い電撃を集中して溜めた剣激を、環は空を裂くように振るった。


 すると、刃に溜められていた電撃が剣閃を沿うように解き放たれ、無数の銃弾と爆撃を打ち落としていく。


「す……すごいっ、まさかあんなことまでできるなんて……」

「人のことを見ている暇があるならお前は妹に掛ける言葉でも捜せ」


 環が放った技に圧巻した灯理が言葉を漏らすと、その隣のカルマも鋭く言った。


「さっきも言ったが、この戦いで長期戦は俺達的にも望むものではないんだ。分かるだろう?」

「っ……はいっ」


 灯理が返事をすると同時にカルマは新たに取り出したエッグズを三つ床に放り出し、その一つずつから、人指し指ほどのムカデが十体ほど孵りだした。


 カルマたちが乗っているムカデに比べればそれはとても小さく見えるが、通常のサイズでも人の指ほどあるムカデは容易に人に嫌悪感を与える大きさだ。


 そしてそのムカデたちが群れを率いて波のように広がって進んだ瞬間、一つの群れがまた地面から噴出した水の柱に吹き飛ばされた。


「なるほど、水で作った魔術印で地雷を造ったか。トカゲらしい姑息な手だな」

「あなたも、悪党は悪党でもコソドロみたいな方法を取るのですね」


 カルマの皮肉に合わせてコネクターも皮肉で返し、自身の手の平に描かれた魔術印をカルマ達に見せびらかす。


「怪人になっても私は魔術印さえあれば《合成キメラ》を発動可能でしてね。この部屋には至る所にある魔術印の上に無機物があれば、その全てが私の研究対象なのですよ」

「それで床に散らばった水が魔術印に触れると、それをそこら中に張り巡らせてあるパイプと混ぜて地雷型の間欠泉にしたと、結構なリサイクルだな」

「シシシッ! そうでしょうそうでしょう! 研究者たるもの資源は大切にしなければなりませんからね」


 命のやり取りを行っているとは思えないほどに軽いカルマとコネクターの軽口に、灯理は背筋が寒くなるのを感じる。


 だが、カルマはともかくそんな死に対して軽薄なコネクターに体を奪われている雫の身を案じた。


 灯理は一度弱気になりそうになる自分の頬を両手で叩き、前を見つめる。


「カルマさん、行きましょう。あんな奴に雫の体にいてほしくない」

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