第9話 尋問・捕まえるのは……環?

「かっ……!! げぼおおおぉぉぉぉぉっっっ!! た、助かっ…………ひいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!」


 やっとのことでムカデから解放された真白が安堵したのも束の間、前にいるカルマの隻眼に睨まれると真白は情けない声を上げる。


「何だ、その気持ち悪い声は。やはり俺の過剰評価だったな」


 カルマが心底残念そうに言ったヒーローらしからぬ呟きに真白は声を震わしながら聞く。


「あ、あ、あなたは……本当に何なんですか…………? ヒーローがこんな暴力的なやり方をしてただで済むとお思いなんですかっ!?」


「言っているだろう、俺はヒーローではない。ただの悪党だと」

「そんな訳が無いだろう! ただのヒーローが見たこともない魔獣や魔武器を使い、どういう訳か洗脳されたように……人を……操る…………?」


 そこまで言って真白は何かに気付いた。

 自分達のような古株の悪党のみが知っている移動ルート、悪党の考え方や手段、そして人形のように操られた自分の手駒、それらから導き出された答えを真白はほぼ無自覚に呟いていた。


「ま、まさか……あなた……《堕天のカルマ》…………!?」


 その名を聞くとカルマは嬉しそうに口元を緩める。


「ほう、後輩にまで俺の名が知れ渡ってるとは光栄だな」

「う……嘘だ……! 《堕天のカルマ》の組織は、五年前に勇者転生のリンネによって壊滅させられたはずだ! ここにいる訳がないっ!」

「えっ!? 《転生のリンネ》って…………あんた、姉さんに捕まったの!?」


 環がカルマにそう聞き返すと、カルマは苦虫を踏み潰したように一気に不機嫌になる。


「嫌なことをよくも思い出させてくれたな。もうお前は黙ってろ」

「かっ!? あ……――はい、黙ります」 


 紅く光ったカルマの隻眼に真白が睨まれた瞬間、真白はまるで人形のように表情を失い、抵抗を止める。すると、真白を拘束していた三人は、真白を無理やり立たせて整列する。


「質問に答えろ。この小娘を捕まえるように指示してきた奴は誰だ?」

「分かりません…………。顔をフードで隠していたので…………ただ、声質や体型から男だと思います…………」

「お前はどうしてその命令に従った?」

「環を連れてくれば、多額の報酬を支払うという契約をしたからです…………。前金も頂きました…………」


 淡々と質問するカルマとそれにただ答える真白。先程までお互いの命を奪い合おうとしていた二人の掛け合いに、環はただただ戸惑う。


「…………まぁいい。そのまま表通りに出て、俺が来るまで待機していろ」

「はい…………分かりました…………」


 カルマは聞きだせる情報をあらかた真白から聞き出すと、同じ調子で真白に命令する。


 カルマに命令された四人はそのまま回れ右で一斉に振り返り、まだ地面に座っている環を横切って路地裏の出口へ向かう。


 話しが終わるのタイミングを見越していた環は、矢継ぎ早にとカルマに質問を飛ばす。


「え? 今の何? これってあんたのスキルのせいなの? というより姉さんに捕まってたのに何で私に言わないわけ? それであんた父さんと知り合いっぽかったの?」


 口うるさく聞いてくるカルマは一度大きな溜息を零すと、半眼で環を睨みつける。


「……今の四つの質問に正確に答えてやろう。うるさい、黙れ、キモイ、臭い、以上だ」

「一つも答えてないじゃないの!? キモイと臭いに関しては関係ないしっ!」

「そんなに知りたきゃ自分で調べろ。俺はもう帰る」


 適当な誹謗中傷を環に浴びせたカルマが来た道を戻ろうするのを見て、環は焦って彼を止める。


「ちょっと待ちなさいよ! あんたこのまま帰るつもり!?」 


 数々の戦闘によりこの数分で路地裏は見るも無残な状況になっていた。

 鉄骨や資材などで割れた地面、倒壊した壁、更に銀行強盗事件で近くにいた警察がやっと気付いたのか近くからパトカーの音が鳴り響いていた。この状況で見つかれば、間違いなく環が実行犯と見間違えられるだろう。


 だが、カルマはそんなこと少しも気にも留めない感じで面倒そうに答えた。


「別にいいだろう。俺たちが設置した罠でもないんだ。弁償も片付けもする必要がないはずだ」

「ヒーローでも限度があるのよっ! 何度も似たようなことを仕出かすと、その情報が警察から《勇者機関》に回って評価が落ちるのよ!」

「たとえそうだったとしても、俺は一回目だ」

「私はこれで十回目なのよっ! もう少しだけでいいから一緒に警察に事情を説明して!」


 今でさえなんとか反省文で済まされているものを、これ以上すれば鋼地による大目玉は間違いない。それを直感で確信した環は、なんとか自分のせいではない理由をこじつける為にカルマをこの場に留まらせようとするが、


「そうか、じゃあ帰る」

「ハァァァァァッッッ!? じゃあって何!?、どういうことよっ!?」


 環の期待を大きく裏切ったカルマは、環を鼻で笑ってから高らかに宣言した。


「残念だったな。書類上での問題とかならばまだしも、お前が困るだけなら問題はない。人の不幸が俺の幸せだからな」

「あんた性格悪すぎでしょっ!!」


 言いながらも足を止めないカルマの背中を見て、環はだんだんと額に脂汗を滲ませる。


「えっ……? 本当に帰るの? 待って、待って待って待ってって!! おい、覚えてろよこのクサレ犯罪者ぁぁぁぁぁぁっっっ!!」


 環の断末魔が路地裏に響き渡る頃にはカルマの姿はそこになく、環は後から来た警察の事情聴取のために警察署に連れて行かれた。

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