第31話 バスでの死闘
それから一週間が過ぎ修学旅行当日の朝を迎える。
自室で持ち物の最終確認を行っているところだ。
そんな時、ドアがノックされる。
「はい」
入ってきたのは
「お兄ちゃん達良いなぁ」
「理衣もあと二年したら行けるよ」
「お土産買って来てね」
「分かってる。どこの地域の物が良い?」
「京都」
「分かった。食べ物はすぐ終わっちゃうから記念になる物を買って来るね」
「お兄ちゃん、よく分かってるね」
「理衣のことなら分かるよ。ずっと一緒に過ごしてきたから」
嬉しそうな顔をしている。そうだ。あの日からずっと三人で頑張ってきたんだ。これからも家族を守り続けるんだ。
「これからは理衣以外のことも分からないとね」
「えっ、どういうこと?」
「ううん、なんでも……。兎に角、修学旅行頑張ってね」
そう言って部屋を出て行った。変だな。修学旅行楽しんできてね、じゃないのか? 頑張れって何を頑張るんだ?
鞄を一階におろすと、とんでもない大きさの鞄を目の当たりにする。
「
「遊び道具だよ」
「いや、持てますか? ソレ」
「ヘーキヘーキ」
持ち上げてはいるが一向にあがってこない。無理だと思う。
「ちょっと見せてください。要らないものを出さないと」
「や、見ないでえっち!」
何故そうなる。そんなものを鞄に入れているの?
「ですが、運べませんよ」
二階からは引きずっておりてきたのだろうが、修学旅行では長時間歩かなければならない。不可能だ。僕も荷物を持っているので手伝うにしても限界がある。
「じゃあ、もっかい整理するから上に運んでくれる?」
「良いですよ――ッ!」
お、重いっ。
「あの、そっちを持ってもらって良いですか?」
「ほい。せーのっ」
ふたりがかりで何とか運べるほどだった。
その後、整理をしたようで随分スッキリした鞄を担いでいる。
「じゃあ、理衣、行ってくるよ」
「じゃあね、理衣ちゃん」
「二日居ないの寂しいよ。怪我しないようにね」
「分かった」
玄関を出て学校へ向かった。
正門を入ってすぐ五台バスが止められている。一クラス一台だ。
「バス隣ね」
「分かりました」
一緒に一バスに乗り込み、うしろから三列目の左側に座る。窓側が良いと言われ、千宮さんに譲ってあげた。
最後に
「千宮さん、そんなに水分取ってトイレに行きたくなったらどうするんですか?」
「
「ば、バカなこと言わないでください」
「むふふふふ」
修学旅行の嬉しさではしゃぎまくっている。前の椅子の背もたれに取り付けられた台を下ろし、お菓子を山盛り置いている。
「ねえ、ポッキーゲームしよっか?」
「しません。グミの時は逆でしたが、それだと本当に触れてしまいます」
「だから良いんじゃなーい」
「な、何を言っているんですか。やりませんよ」
「ちぇーー」
キスし慣れている人は言うことが違うな。弟はウブなのです。
それからしばらく高速を走っていると、
「あっついなぁ。エアコン壊れてんのかなぁ」
「確かに暑いですね」
七月ともなるとやはり暑さが目立ってくる。三十人がバスに乗っているためその熱気もあるのだろう。
「ボタン外そ」
「だ、ダメですよ。夏服なんですから下着が見えますよ」
「琉生くんにしか見えないから良ーの」
「ぼ、僕が困るんですよ――あっ!」
元々、第二ボタンまで開けている千宮さんが第三ボタンまで開けてしまった。一瞬だがピンクっぽいものが見えた。それよりも鎖骨辺りにかなりの汗粒が見える。鞄からタオルを取り出す。
「千宮さん、すごい汗です。拭いてください」
「拭いて?」
「えっ、自分でやってくださいよ」
「じゃあ、良い」
このままでは上着を着替えないといけなくなってしまうし、汗の付いた上着のままでエアコンの効いた部屋に入ったら風邪を引くかもしれない。仕方ない。
「分かりました」
「ほいっ」
「うっ……」
わざわざ胸元を開けなくても良いのに。両手でシャツのボタン部分を横に引っ張るのでピンクのものがハッキリ見える。少し谷間も見えている。見ないように注意しながら鎖骨を中心に拭いていく。
「はい。終わりました」
「ありがと」
本当に手のかかるお姉さんだ。つらい。理性が飛びそうだ。今、一瞬だが、鎖骨より下に手を突っ込みたくなってしまった。この僕がだ。もうお願いだから誘惑しないで。
トイレ休憩のためサービスエリアに止まった。バスを降り、羽を伸ばす。
隣のバスから経堂さんが歩いてきた。
「バスの長旅は疲れるわね」
ほらごらん。経堂さんは第一ボタンまで閉めているじゃないか。段違いだ。
「ホントだね。でもでもぉ、琉生くんと隣同士だから楽しい」
「そ、そう。良いわね。って、あなたボタン開け過ぎよ。見えているわよ?」
「あ、閉め忘れた。琉生くんに見せてたから」
「えっ!? な、なんですって」
千宮さんっ、なんてことを言うのっ。僕が見せてくださいと言ったみたいじゃないですか。
「ち、違いますよっ。バスの中が暑かったから千宮さんが外してたんですよ」
「そ、そう……。あなた下品よ?」
「
「そんなことできるわけないでしょ!」
「マジメちゃんだねぇ」
そういえば少し経堂さんがふらふらしているように見える。
「体調でも悪いんですか?」
「え、乗り物酔いよ。昔から苦手なの」
「あ、じゃあ、コレどうぞ。飴なんですけど乗り物酔い用に開発された物らしくて。理衣が酔うのでいつも持ってるんですよ」
「良いのかしら?」
「どうぞ」
赤、黄、緑の三色があり、手のひらに乗せて見せる。
「わ、私も酔ってきちゃったぁー」
「いや、千宮さんお菓子いっぱい食べてましたよね?」
「良ーのっ。ちょうだい」
「じゃあ、選んでください」
千宮さんは黄、経堂さんは緑を選択した。僕の手元には赤が残った。
「ありがとう。それじゃあ、私戻るわね」
二バスに戻っていったので、僕たちも一バスに戻った。
更に高速を走らせていると、左肩に重みを感じる。
ずっと静かだと思っていたが、寝ているようだ。僕の肩を枕にしている。また誘惑タイムだ。
頭から良い匂いがするし、この位置から見下ろすとシャツの中が見えている。ピンクのものが視界に入る。どうしよう。到着まで三十分かかるみたいだし、持たないよ。
「んっ、んん……」
声は出すけど起きる気配は無い。
うわっ! さっき無意識に右足を掻いてたけど、そのせいでスカートがあがってる。太ももの露出が激しくなってるっ。ああっ、ホントにマズいっ。どうにかなっちゃいそう。
自分の肩の血管の脈打ちが千宮さんにも伝わっているのでは、と思うほど脈拍が高鳴っている。落ち着け、落ち着け。
「んん……」
また声を出してる。
うわっ! 今度は無意識に上着を手でつまんではたはたさせてる。えっ、何か妙だ。寝ながらそんなことするだろうか。まさか……。
「起きてますよね?」
「んん……」
いや、寝ているはずがないのだが。よし、ここはひとつ。
「経堂さんに電話を――ッ!」
やっぱり。ポケットから出したスマホをすぐに手で下におろさせたな。寝ながらそれは絶対に無理だ。
「起きてますよね?」
「あーあ、つまんなーい」
「もうっ、からかわないでくださいよ」
「ごめーん。でも、うっすら目を開けたんだけど、左手の拳ぎゅってしてたよね? 何か我慢してたの?」
ま、マズい。理性を我慢していたなんて口が裂けても言えない。
「肩が凝りそうだったので力を込めてたんです」
「あ、ごめん。疲れちゃった?」
「大丈夫ですよ」
その後、バスは奈良に到着した。
「はーい。みんな、今から自由行動なので六人組になってください!」
中郷先生の掛け声で、僕たちはグループを集結させる。集まったところで奈良観光を始めるのだった。
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